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【連載】VERISERVE’s Way:プロダクトオーナー・谷﨑浩一さんが語る、「GIHOZ」はいかにして生まれたのか?

【連載】VERISERVE’s Way:プロダクトオーナー・谷﨑浩一さんが語る、「GIHOZ」はいかにして生まれたのか?

2020年11月のリリース以来、数千人のユーザーが利用するベリサーブの「GIHOZ(ギホーズ)」。これは、テストに関わるエンジニアが用いる各種技法をクラウド型ツールとして提供するものだ。「テスト技法の道具箱」をコンセプトに開発された。

これまでにも個々のテスト技法がツール化されたことはあったが、GIHOZのように複数のテスト技法を手軽に活用できるツールは類を見なかった。GIHOZでは現在、「ペアワイズテスト」「状態遷移テスト」「デシジョンテーブルテスト」「境界値分析」「クラシフィケーションツリー」「CFD法」の6つの技法と、ツリー形式のテスト観点モデリングによるテスト分析手法を用意する。

評判は上々で、テスト業界の入門書的な位置付けである「ソフトウェアテスト技法ドリル」(日科技連出版社)でも紹介された。

「2022年の改訂版の出版に当たり、著者から連絡をいただきました。状態遷移テストの解説部分でGIHOZを紹介したいと。この本に載ったのは本当にうれしかったです」

こう喜びをかみしめるのは、ベリサーブ プロダクトソリューション事業開発部の谷﨑浩一さん(2008年に新卒入社)。GIHOZのプロダクトオーナーである。

谷﨑さんは、同製品プロジェクトの立ち上げメンバーとして、クラウドサービスの企画・開発・運用のノウハウや知見がほとんどないところからツールの開発に身を投じた。製品化までの過程は試行錯誤の連続だった。そうした苦労をどのように乗り越えて、GIHOZを世の中に広めていったのだろうか。

東京大学に出向

本題に入る前に、谷﨑さんのキャリアを簡単に紹介したい。

2008年に新卒でベリサーブに入社。数年間は顧客へのテスト・QA支援を行うエンジニアとして現場業務に当たった。2013年に東京大学・医療社会システム工学寄付講座の共同研究員となり、翌年には出向して職員として常駐する。当時、ベリサーブは東大と共同研究を行っており、社員が研究室に在籍していた。前任者が退社したため、若手のホープだった谷﨑さんに白羽の矢が立ったというわけだ。

東大では医療の品質向上をテーマに研究活動にいそしんだ。その中で最も大きな学びになったのは「思考プロセスの可視化」。どういうことだろうか。

「簡単に言うと、自分が普段何を考えているのかについて、順を追って丁寧に書き出していく作業です。頭の中でごちゃっと考えて、何となくアウトプットできていたものを、段階を分けて整理していきます。まずは自分で書いて、それを東大の先生などにフィードバックをもらったり、議論したりしながら思考を整理しました」

これは、ベリサーブの本業でも生かせるスキルだった。

「従来は一言で『テスト設計する』と言っていたものを、まずはテストする対象の機能や特徴を書き表しましょうとか、その中でバグを起こしそうな部分はどこかを考えましょうとか、段階分けで進めていくイメージです。ベテランのテストエンジニアが何となくできていたことを、プロセスを言語化することで、教育に使えたり、他の人でも理解しやすくなったりします。最終的にはどういう順番で設計できたのかが明確になるので、レビューする際に品質のチェックも容易になります」

これは後々、新製品開発に携わる上で大きな武器となった。

新製品のアイデアを発案

東大に約3年間在籍した後、本社に戻りしばらくは顧客現場でのテスト設計支援と、大学での研究を並行していた。

2017年、ベリサーブが製品開発の専門部署を立ち上げることになり、そのメンバーに加わるよう声がかかった。これまで同社が取り組んでいた人月ビジネスとは異なり、ツール販売ビジネスを進めていくことが新部署設立の主な狙いだった。

そこで谷﨑さんは、テスト分析・設計支援ツール「TESTRUCTURE(テストラクチャー)」(※2023年3月にサービス提供終了)という新製品開発に関わった。これは自らの起案だった。

「現場にいた時に、エクセルの表をたくさん埋めていくだけの泥臭い作業があって、それを効率化できるツールを作りたいという思いがありました」

まだ東大に出向中だった2014年12月、社内の勉強会である「システム検証研究会」においてツールの素案を何度か発表したところ、新堀義之社長の目に留まり、「ぜひこれを開発しよう」とプロジェクトに発展したのである。こうした経緯で生まれたTESTRUCTUREは当時、業界初のテスト分析・設計支援ツールといわれ、特許も取得した。

テスト技法の概念をツール化する難しさ

以降、谷﨑さんは製品開発に従事することとなる。2019年5月ごろ、TESTRUCTUREの次なる製品として着手したのが「GIHOZ」だ。

「上長だった松木(晋祐)さんから出てきたアイデアが、テスト技法のツール化でした。昔から存在するいろいろなテスト技法をそろえて道具箱として提供したら、より多くの人たちに使ってもらえるのではという思いのもと、開発がスタートしました」

立ち上げメンバーは松木さんをマネージャーに、谷﨑さんとエンジニアの2人。加えて、外部の開発ベンダーという体制だった。ここから谷﨑さんは生みの苦しみを味わうことになった。

形も何もイメージのない状態から、画面デザインや機能、操作性、ユーザー体験など、あらゆるものを決めていくことの大変さを思い知った。さらに、ベリサーブは開発会社ではないため、最初はそのノウハウも持ち合わせていなかった。製品のコンセプト作りでも苦心した。

「われわれのプロダクト開発は、製品企画自体のノウハウもない中で、私を含めたエンジニア上がりの人間が、『こういう技術があるから、ツールにすれば売れるのではないか?』と、ニーズではなくシーズから企画を出していました。そこに後付けでビジョンを考えたり、コンセプトを議論したりしましたが、なかなか方向性が定まらずに苦労しました」

しかし、悪戦苦闘の末、最初にツール化したテスト技法の「ペアワイズテスト」に谷﨑さんらは光を見る。

ペアワイズテストを選んだ理由は、他社のツールが既にあったため、どういう製品を作ればいいのかというイメージが湧きやすかった。それを参考にしつつ、クラウドサービスであるGIHOZ上ではどういう形で表現すればいいのかを決めていった。

いざツールが完成した後、ブラウザ上で手軽に動き、ボタン一つでテストケースが出力されるような状況を目の当たりにした時に、谷﨑さんはようやく「われわれが目指していたテスト技法ツールとはこれなのだ」と実感できたという。

ただ、それで満足している場合ではない。クラウドサービスとして提供するには、作ったデータを保存できるようにするとか、ログイン認証する機能を構築したりするとか、テスト技法以外の部分も精巧に作り上げなければならなかった。

一つ形になるものができたことでイメージは湧いたものの、谷﨑さんによるとテスト技法それぞれに特徴があるため、単純にテンプレートを横展開するわけにはいかなかった。

「例えば、『境界値分析』という技法の概念を正しくツール化することが大変でした。当社の品質保証部にはテスト技法に詳しい人間がいるためレビューをお願いしましたが、『それは意味が違う』『概念として標準的な理解とずれている』などいろいろな指摘をもらい、何度もやり直して作りました」

さらに難しいのは、正しい概念をツールにするのと、それが使いやすいかどうかは別の話。双方のバランスを取りながら各テスト技法のツール化にこぎ着けた。ただし、それで終わりではない。

「一度ツールとして完成しても、ユーザーに実際触ってもらい、フィードバックを元に改善をずっと繰り返しています」

GIHOZは2020年1月に社内でリリースし、そこから一般ユーザーへの正式ローンチに向けた最終準備を進めた。その期間では主にテスト技法の種類を増やすことがミッションだった。

「TESTRUCTUREもそうでしたが、テスト分析やテスト設計のやり方は人によってまちまち。それをツールとしてどのような形で表現するかが最大の挑戦でした。GIHOZのローンチ後にテスト分析手法をツール化することが決まった際は、電気通信大学の西康晴先生とも議論して、何とかツールに仕上げることができました」

プロダクトオーナーである谷﨑さんの仕事は製品開発だけではない。GIHOZをローンチするに当たり、周辺業務も谷﨑さんの役割だった。その一つが利用規約作りである。

「これまで当社は法人向けの契約しかなかったので、個人ユーザー向けの規約に関するノウハウがありませんでした。そこで法務担当と一緒に顧問弁護士の元に何度か相談に行きました」

その他にも、セールス部門への事前レクチャーや、広報・マーケティング部門との打ち合わせなど、谷﨑さんがやるべきことは多岐に渡った。「ベンチャー企業みたいに、全部自分でやらなければという感じでした」と谷﨑さんは振り返る。

“二刀流”だからできること

2020年11月、苦労して世に送り出されたGIHOZは早速話題となり、テスト業務の初心者からベテランまで幅広く支持された。SNSなどでも好意的な意見が飛び交い、ファンが付いてくれたと谷﨑さんは手応えを感じている。

「コンセプトに掲げたテスト技法の道具箱。それをクラウド上で手軽に使えるようにしたことが、多くのユーザー層に響いたのだと思います」

今後は、GIHOZをより多くの人に利用してもらえるように機能アップしていくことがチーム全体のミッションだとする。谷﨑さん個人としては、テスト分析とテスト設計のツール連携を強化したり、同社のテスト管理ツール「QualityForward(クオリティフォワード)」とのつなぎ込みも検討したりしていく。ツール連携のためのI/Fを強化することで、CI/CDにも対応できるツールチェーンの構築はぜひ対応していきたいと意気込む。

谷﨑さんには「研究者」という別の顔がある。

以前から論文を定期的に書いていて、博士(工学)の学位も取得した。現在は名古屋大学の森崎修司准教授と共同研究を進めており、シンポジウムや研究会などで研究成果を発表することもしばしば。プロダクトオーナーと研究者という“二刀流”は、ベリサーブにおいて唯一無二の存在である。

この強みを最大限に発揮していきたいと谷﨑さんは考える。例えば、製品開発の中で得られたデータを自身の研究に活用したり、あるいは、研究で構築した理論を製品開発の現場で実践したりと、できることは多いという。製品開発と研究、この両輪でテストに関わるエンジニアをはじめ、さまざまな人たちを支援していきたいと意気込む。

「テスト分析やテスト設計をもっと効率良く、質を良くするための取り組みはまだまだあるはず。私はそうした領域に興味があって今まで研究してきたので、それをツールという形で提供できるようにしたい」

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