探索的テストとは？目的や観点、やり方、モンキーテストとの違いなど解説

探索的テスト（Exploratory Testing）は、経験ベースのソフトウェアテスト技法の一つで、事前に詳細なテストケースを用意せず、エンジニアの知識と直感を生かしながら、システムの探索と学習を同時に行うアプローチです。

この技法は、近年のソフトウェア開発現場で注目を集めています。

探索的テストの定義

探索的テストは、テスト設計と実行を同時にする動的なプロセスです。探索的テストの実施者はソフトウェアを実際に操作しながら、その振る舞いを観察し、学習を深めていきます。

従来のスクリプトベースのテストとは異なり、テストに携わるエンジニアの知識、経験、直感を生かし、リアルタイムでテスト設計と実行を繰り返しながら進めます。

探索的テストは比較的古くから存在するテスト技法ですが、近年のソフトウェア開発環境の変化に伴い、その重要性が再認識されています。

現代の開発環境では、探索的テストの特性がより適合しやすくなっているからです。

どのような点から注目を集めているのか、具体的な理由を紹介します。

理由1）プロダクトの目的と価値の重視

探索的テストが注目されている理由の一つとして、「プロダクトの目的と価値の重視」が挙げられます。

探索的テストでは、テストに携わるエンジニアがプロダクトの達成目的や提供する価値を深く理解し、その視点からテストを行えます。この目的指向のアプローチにより、テストは単なる機能確認ではなく、プロダクトが実際にビジネス上の目標を達成できているかどうかを評価するものとなります。

また、探索的テストの柔軟性によって、テスト戦略をプロダクトの目的や価値に合わせて調整することが可能です。これにより、テストがビジネス価値との整合性を保ちながら行われ、プロダクトの成功に寄与しやすくなります。スクリプトテストでも目的と価値の重視は可能ですが、探索的テストの方が目的と価値を考慮に入れながら柔軟にテスト設計をしやすいため、比較的目的と価値の重視がしやすい、ということです。

理由2）アジャイル開発の普及

探索的テストが注目されている理由には、アジャイル開発の普及も関係しています。

アジャイル開発では、2週間から1カ月程度の短いスプリントで機能を開発・リリースするサイクルが一般的です。この迅速な開発サイクルでは、探索的テストの即時性と柔軟性が非常に役立ちます。

また、アジャイル開発では、詳細なテストケースを事前に設計する時間が限られており、テスト実行と同時にテスト設計を行う探索的テストの特性がこの環境に適していると言えます。

理由3）ソフトウェアの多様化

ソフトウェアの多様化も探索的テストのニーズを高めています。

モバイルアプリケーションやウェブアプリケーションが普及する中、ユーザーインターフェースが多様化し、さまざまな操作パターンでの評価が必要になります。探索的テストは、その柔軟性から、こうした多様なUIに対してユースケースを把握しながらテストケースを組み立てることができ、効率的に検証できるため有効なアプローチです。

また、クラウドサービスやIoTデバイスの進化に伴い、ソフトウェアの使用環境が多岐にわたります。テストに携わるエンジニアがユースケースを考えながら実施できる探索的テストは、使用環境に応じた多様なシナリオに対応しやすいという強みを持っています。

理由4）柔軟性とユーザー中心アプローチの必要性の高まり

ソフトウェアの多様化により、全てのシナリオを事前にテストケースとして網羅することが難しくなっています。この点で、探索的テストは、テスト中に新たな条件や状況を見つけ、その場でテストに反映できるため、柔軟な対応が可能です。

また、ユーザー体験（UX）の重要性が増す中で、実際のユーザー行動に基づいた操作による評価が求められています。探索的テストは、テストに携わるエンジニアがユーザー目線でシステムを使い、ユーザビリティの問題の発見に適した方法と言えるでしょう。

これらの要因により、テストに携わるエンジニアの経験や知識と直感を生かしてリアルタイムで柔軟にテストを進める探索的テストの特性が、現代のソフトウェア開発により適していると認識されてきています。探索的テストは、これらの現代的な課題に対応する一つの技法として、その役割が再評価されているとも言えるでしょう。

探索的テストがなぜ重要なのか、その主要な側面を解説し、効果的な活用方法についても触れていきます。

ユーザー視点での品質評価

探索的テストでの重要なポイントの一つとして、ユーザー視点での品質評価が挙げられます。

このテストアプローチでは、実際のユーザーによる行動を想定し評価することで、ユーザビリティの問題を効果的に発見することが可能です。

探索的テストは、実物を触りながら動的にテスト設計を行うため、必然的にユーザー行動を想定しやすくなります。これによってテストに携わるエンジニアがユーザーと同じような操作をすることで、従来のテストケースでは見つけられなかった課題を見つけ出せる可能性を高められるという利点があります。

予期せぬ問題の早期発見

探索的テストは、テストに携わるエンジニアの創造性や直感を生かして、後ほど説明するテストチャーターに基づいてシステムを探索することで、事前には予測できなかった仕様上の問題やバグを発見しやすくなります。これにより、想定外のシナリオやエッジケースに対しても対応できます。

テストに携わるエンジニアのスキル向上と創造性の発揮

探索的テストは、テストに携わるエンジニアが実際にシステムをテストしながらプロダクトに関する理解を深め、継続的に学習できる副次効果が見込めます。これにより、テストに携わるエンジニアのプロダクトの知識が向上します。

また、探索的テストは、テストに携わるエンジニアに対して創造的なアプローチを奨励するため、スクリプトテストでは見落としがちな問題を発見しやすくなります。

柔軟性と適応性

探索的テストの利点である「柔軟性と適応性」により、変化する要件や新たな機能に迅速に対応できます。探索的テストでは、テストの進行中に発見された学びや知見をすぐにテスト戦略に反映することが可能です。

ただし、この技法にもメリットとデメリットがあり、それらは後の章で詳しく解説します。

探索的テストを効果的に活用するためには、その特徴を十分に理解し、他のテストアプローチと適切に組み合わせることが重要です。

探索的テストは、その柔軟性と適応性により、さまざまなテスト戦略に組み込むことができます。

ここまでで説明した探索的テストの主な特性は以下の通りです。

• 柔軟性：テスト実行中に得た情報を即座にテスト方針に反映できる
• 創造性：テストに携わるエンジニアの知識と経験を生かした独自の視点でテストできる
• 即時性：問題点を素早く発見し、フィードバックできる
• 学習重視：テスト中にシステムについての理解を深められる

これらの特性を生かし、テスト戦略に応じて探索的テストの目的を設定することが重要です。

テスト戦略に探索的テストを組み込む際は、以下の点に留意してください。

• 探索的テストの目的と範囲を明確にする
• 適切な時間配分を行い、効果的なテスト実行を心がける
• スクリプトテストなど、他の技法と適切に組み合わせる
• 発見事項を効果的に記録し、チーム内で共有する

探索的テストの特性を理解し、テスト戦略に適切に組み込むことで、効果的かつ効率的なテスト実施が可能になります。

探索的テストを行う際の観点の例として「機能適合性」「使用性（ユーザービリティ）」「性能効率性」「信頼性」の４つが挙げられます。これらの観点は探索的テストに限った観点ではありません。しかし、探索的テストを行う際の切り口の一つとして有効です。

これらの観点を念頭に置きながら操作を行い、システムの振る舞いを観察します。テスト中に得た情報や洞察を基に、テストの方向性を調整していくことが重要です。

また、探索的テストを行う際は、プロダクトの目的を常に意識することが重要です。プロダクトが何を達成しようとしているのか、どのようなユーザーを対象としているのかを理解し、それに基づいて各観点の重要度を判断します。

例えば、高度な計算を行うソフトウェアであれば機能適合性と性能効率性に重点を置き、一般消費者向けのアプリケーションであれば、使用性により注目するなど、プロダクトの特性に応じてアプローチを調整します。

この方法により、プロダクトの目的に沿った効果的な探索的テストを実施できます。

ここでは探索的テストのデメリットについて解説していきます。

1）再現性の課題

探索的に行ったテストは、同じ手順を正確に再現することが難しい場合があります。これにより、バグの再現や修正の確認が困難になることがあります。

2）テスト漏れのリスク

体系的なアプローチではないため、重要な機能や条件をテストし忘れる可能性があります。

3）エンジニアのスキルへの依存

テストに携わるエンジニアの経験や知識によって、テストの品質は大きく左右されます。経験の浅いテストエンジニアでは、効果的な探索的テストを行うことが難しい場合があります。

これらのデメリットを克服するためには、テストチャーターの活用や、セッションベースドテストの導入など、探索的テストを構造化する工夫が必要です。

探索的テストにはいくつかのアプローチがあります。探索的テストでは既存のテスト技法と組み合わせることも可能です。以下に主な方法を紹介します。

セッションベースドテスト（SBTM ：Session-Based Test Management）

セッションベースドテストは、探索的テストをより構造化したアプローチです。

主な特徴は以下の通りです。

• 固定された時間枠（通常30-120分）でテストセッションを行う
• セッションの目的と範囲を事前に定義する
• セッション中の発見事項を詳細に記録する
• セッション後にデブリーフィング（振り返り）を行う

テストチャーターを使用する方法

テストチャーターとは、探索的テストのセッションにおける目的や範囲を定義した簡潔な文書です。これにより、テストに携わるエンジニアに方向性を与えます。

テストチャーター作成のポイントは以下の通りです。

• 具体的かつ簡潔に記述する
• テストの目的を明確にする
• 時間制限を設ける
• テストの範囲と制約を定義する

ツアーベーステスト

「観光」するように、特定の視点や目的を持ってシステムを探索する技法です。

代表的なツアーの例を挙げます。

• ガイドブックツアー：プロダクトの公式文書（ヘルプファイルなど）に基づき、主要なポイントを外さないように操作する
• マネーツアー：営業の担当者が顧客向けにデモを行うことを想定してテストを行う
• ランドマークツアー：アプリケーションの主要機能や特徴的な部分を特定し、それらを巡回してテストする

ペア探索的テスト

2人のエンジニアがペアを組んで行う探索的テスト技法です。

一人が実際にテストを実行し、もう一人がその様子を観察・記録します。役割を交代しながら進められるため、テストの視点が固定されず、多角的に問題を捉えることが可能です。

探索的テストとモンキーテストは、どちらも事前に定義されたテストケースに依存しない点で類似していますが、その目的、アプローチ、適用場面には大きな違いがあります。 

これらの違いを理解することで、各テスト技法の特徴を生かした効果的なテスト戦略を立てることができます。

目的の違い

探索的テストとモンキーテストにおける主目的と焦点の違いを図表1にまとめました。

図表1：探索的テストとモンキーテストの違い＜主目的と焦点＞

アプローチの違い

次に探索的テストとモンキーテストにおけるアプローチの違いを図表2にまとめました。 

図表2：探索的テストとモンキーテストの違い＜アプローチ＞

 ​​両者はそれぞれ異なる目的と価値を持っており、効果的なテスト戦略では両方を適切に使い分けることが重要です。​

探索的テストを導入する際に押さえておきたいポイントを図表3にまとめました。

図表3：探索的テスト導入時のポイント 

お勧めの書籍や参考資料

探索的テストの学習や実践に役立つ書籍を3つ紹介します。

• 「Explore It!: Reduce Risk and Increase Confidence with Exploratory Testing」by Elisabeth Hendrickson
• 「Exploratory Software Testing: Tips, Tricks, Tours, and Techniques to Guide Test Design」by James A. Whittaker
• 「Agile Testing: A Practical Guide for Testers and Agile Teams」by Lisa Crispin and Janet Gregory

オンラインで学べる資料には、​探索的テスト入門​があり​​ます。

探索的テストは、ソフトウェア開発の進化と共に以下のような発展を遂げていく可能性を秘めています（図表4）。

図表4：AI支援型と分散型 

探索的テストを効果的に導入し、継続的に改善していくことで、ソフトウェアの品質向上だけでなく、開発チーム全体の問題発見能力と創造性を高めることができます。

テストに携わるエンジニアの皆さんには、この強力なツールを活用し、より良いプロダクト作りに貢献していただきたいと思います。

■参考■

（※1）～（※5）「ソフトウェアテストで使う標準用語集（ ISTQB Glossary, V4.5）」より引用