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HQW! 新春企画:有識者に聞く「2025年、私が注目するビジネス&技術テーマはこれだ!」(後編)

HQW! 新春企画:有識者に聞く「2025年、私が注目するビジネス&技術テーマはこれだ!」(後編)

いよいよ2025年が幕を開けました。「VUCA」(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)というワードがビジネスの世界でも語られるようになって久しいですが、年を追うごとに社会は混迷を極めています。予測困難な時代を生き抜くべく、企業およびビジネスパーソンはさらなる知見やスキルが求められることでしょう。

そこで本稿では、前編に続き、各業界の有識者たちが注目するテクノロジーやビジネスモデルを聞きました。

中央大学 理工学部ビジネスデータサイエンス学科 教授 中條 武志さん

2025年の注目テーマ:「品質管理」

私の専門分野である「品質管理」に照らし合わせて考えたいと思います。今、多くの企業にとって、新しいビジネスモデルを見つけることが重要になっています。ただし、新たなビジネスの形を見つけても、それを実現できる組織的な能力がないと、うまくいきません。どういったビジネスを目指すのかを決めることも大事なのですが、その上で必要な組織能力を獲得していかないとなりません。

ビジネスのアイデアを見つけるのは経営者のセンスですから、われわれ研究者がどうこう言う話ではありませんが、たとえ見つけたところで最終的には組織の能力が高くなければ具現化できません。従って、どんなことを目指すにしろ、組織能力の向上に真面目に取り組まないと駄目なのです。

このような組織能力を獲得するために従来のさまざまな方法論をどのように活用すればいいかを考えるのが、今の品質管理の大きなテーマとなっています。ただし、この答えが2025年にすぐに得られるかと言えば、ちょっと難しいでしょう。まだまだ時間がかかると思います。

そのような中、品質管理の観点で特に気になっているのは、多様な事例を横断的に分析することのできる組織能力です。

例えば、昨今問題になっている不祥事についても、組織全体で「悪さ」をどんどん出して、それらを横断的に俯瞰し、自分たちの弱いところを明確にできればきっと克服できるはずです。ところが、意外とうまくできていない企業が多いのです。部署ごとに個別の問題に対応することはできても、いろいろな問題を横断的に見てそれらの背後に共通する自分たちの弱みを明らかにすることができていません。

品質管理の分野には、「RCA(Root Cause Analysis)」という、組織で発生するさまざまな問題やインシデントの根本原因を分析する手法があり、このように活用すればうまくいくというポイントもある程度明らかになっています。ただ、なかなか活用できていません。みんなが取り組んでみようと思えるようなRCAの成功例が作れればいいなと思っています。

株式会社 MagicPod 代表取締役 伊藤 望さん

2025年の注目テーマ:「開発生産性向上への取り組み」

書籍「LeanとDevOpsの科学」(Nicole Forsgren Ph.D、Gene Kim、Jez Humble著)で取り上げられているような開発組織の生産性を測定するための指標がここ数年、日本でも非常に注目され、サービスのデプロイ頻度やリードタイムがビジネスの競争力と相関関係のある重要な指標であるとの理解が広がってきました。

いわゆる「Four Keys」を指標とした開発生産性向上の取り組みが多くの組織で行われています。とりわけ先進的な組織では、QA・テストの活動にもそうした取り組みを導入し始めています。

特に顕著なのはシステムテストの自動化です。かつては1カ月から数カ月に1回の手動テスト作業を効率化するための手段として導入されていたテスト自動化が、最近では開発生産性を向上させ、週次・日次単位でのサービスのリリースやデプロイを実現するための重要なツールとして利用されるようになってきています。

そして、このような取り組みが活発な組織では、QAと開発は分断された活動ではなく、密に連携し合う活動となり、開発・テスト生産性の向上を目的として互いに協力し合うようになってきています。 

こういった傾向は、ビジネスのサイクルが速くなり、企業の内製化の取り組みが活発化する中で、今後ますます進んでいくと思われます。2025年は、生成AIのテスト分野への適用などももちろん大きなテーマですが、個人的にはテストや自動化の位置付けを大きく変え得る、「開発生産性向上」のための取り組みが、各社でどこまで進むかを注目しています。

株式会社ベリサーブ 上席執行役員 東 弘之

2025年の注目テーマ:「日本のモビリティ業界」

私は現在、モビリティ業界へのソフトウェア品質サービスを担当しています。従って、日本のモビリティ分野における関心事は多く、いくつか注目する領域も当然あります。

本題に入る前に、まずはソフトウェアの観点からモビリティ業界の現状について触れておきましょう。

車載ソフトウェアのソースコード分量は増加を続けており、私が社会人となった2000年頃は車1台当たり100万行程度のコード行数だったものが、現在は数億行になっています。昔から(現在も)ソフトウェアは、変更した時の影響やその範囲を想定することは簡単ではなく、さまざまな開発手法や分析手法が研究、提案され続けています。

今後の車載ソフトウェアは、ソフトウェア定義車両(SDV:Software Defined Vehicle)への進化と共により規模や複雑度が増すことは必至で、かなりの頻度でソフトウェア更新が行われ、市場投入されるようになるでしょう。この辺りは、米国テスラ社や中国BYD社といったメーカーが2、3歩先を行っているのですが、日本の自動車メーカーが追従し、超えていく未来に、ソフトウェア品質面で寄り添っていかねばと思案しています。

私たちが取り組まねばならないのは、上記のような展望に対し、この先の品質ニーズを想定し、ソリューションを準備していくことです。世の中が求めるソフトウェア品質ソリューションの開発や適応を進めていかなければなりません。では、どのようなものが世の中で求められるか、優先すべき事項は何か。そこで下記例のような変化に注目しています。

【日本のモビリティ業界における今後の変化予測と関心事】

  1. Software Defined Vehicle化:ソフトウェア肥大化、複雑化とソフトウェア価値の向上
  2. 開発組織の複雑化:サプライチェーン構造改革やSDV化に伴う組織改編と遷移
  3. システム開発スタイルの融合:Agile開発とWaterfall開発の組み合わせ
  4. ソフトウェア組み合わせの多様化:内製、ベンダー、サプライヤー、OSSソフトウェアなどの結合
  5. 開発環境の進化:シミュレーション・モデル開発領域の拡張、開発上流での品質活動の進化
  6. AI技術の取り込み: AIの進化とシステムへの取り込み、品質確保のための手法開発
  7. ソフトウェア更新スパンの短縮化:Over The Airによる頻繁なソフトウェア更新、テスト短サイクル化 
  8. 車載セキュリティーの重要性:自動車サイバーセキュリティ ーへの確保に向けた対応
  9. 自動車のニーズ検証:SDV化に伴うモビリティ分野での市場ニーズの高まり
  10. 自動運転の進化と普及:自動運転レベル2の機能進化、レベル4の普及速度
  11. 自動車のコネクテッド化:エッジ(自動車)からサーバーサイドまで一気通貫の品質戦略
  12. MaaSの発展:日本におけるMaaSサービスの普及や浸透の予測、事業者間の連携状況
  13. 自動運転技術の物流分野への拡張:自動配送ロボット、トラック隊列走行等の普及、物流の将来の姿 
  14. ソフトウェア品質ソリューションの発信:業界への品質ソリューションPR活動
  15. ソフトウェア品質技術者の育成・確保:ソフトウェア品質技術の発達、リスキリング方法
  16. 電動化:世界情勢も鑑みたEVシフトのスピード、充電インフラの整備状況

書き始めると際限がないのですが、私の担当領域である「自動車のソフトウェア化」に伴うさまざまな変化を見定め、深耕し、つなぎ、進めるべきことを見いだす、という流れを短スパンで進めていければと思っています。

変化の速度は日に日に速まっています。上記の関心事は1カ月後には解決策が見つかり、課題ではなくなっているかもしれません。自動車業界、ソフトウェア業界、その他業界の情報を集め、これら業界の知見者の話をよく聞き、相談しながら、開発せねばならない品質ソリューションを見定めてまいります。

また、当社は品質ソリューションの進化に欠かせないツール群を開発、販売しています。情報のトレーサビリティーを担保するツール、テスト項目を自動生成するツール、世の中のコンシューマーニーズを短スパンで捉え分析するツール。これらのツールを生かし、品質ソリューションのスピード化を図ることができれば、より社会のお役に立てると考えます。 

最後に、近年の日本は自動車分野のみならず、ロケットやeVTOLの開発といった航空宇宙分野でも他国に後れを取っていると思いますし、日本企業のDX化も同様で、日本企業の競争力は世界の成長に置いていかれていると感じています。日本企業の生き残りをかけた戦いに、ソフトウェア品質の側面で貢献できる大きなチャンスですので、当社としても、私としても2025年を楽しみたいと思います。

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