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【連載】MBAホルダーのエンジニアが影響を受けた5選書:『経営者の条件』

【連載】MBAホルダーのエンジニアが影響を受けた5選書:『経営者の条件』

こんにちは。Mark Ward(河原田政典)です。

ぼくは2020年10月から2022年9月までの2年間、仕事をしながらMBAプログラムに通って経営学修士(専門職)、いわゆるMBAを修了したエンジニアです。エンジニアとしての専門性であるソフトウェア品質保証とアジャイル開発を深める一方で、特に品質という観点から、技術だけでなくビジネス全般の知見を深めてきました。

本連載では、これまで読んだ書籍の中から、技術・ビジネス・自己成長に役立つ5冊をご紹介します。それぞれの本から、ぼくの考え方や業務の進め方にどのような影響を受けたのかもお伝えしつつ、皆さんの日々の仕事や生活に取り入れられるヒントをお届けできればと思います。

初回は、マネジメントの大家であるピーター・F・ドラッカーの名著『経営者の条件』です。

『経営者の条件』という古典

「VUCA」と呼ばれる不安定な時代を生きるビジネスパーソンであれば、自己成長・自己実現を求めるのは必然ではないでしょうか。しかし、それがなかなかうまくいかないと歯噛みしている方もいらっしゃるかもしれません。

現代マネジメントの父と呼ばれたピーター・F・ドラッカーは『マネジメント』『現代の経営』など多くの名著を残していますが、その中で今回取り上げる『経営者の条件』(原著1966年・原題 “The Effective Executive”)は、上司に命じられたこと以上の仕事をする知的労働者ならば誰もがエグゼクティブ(「経営者」という意味)であると断言したうえで、いかに自分自身をマネジメントして成果をあげるかにフォーカスしています。自らの時間や強みを最大限に生かして組織全体へのコミットメントを高める方法論を説いた本書は、仕事だけでなく生活にも応用できる普遍的な指針を示しています。

まさに「古典」の名にふさわしいこの書籍を自己成長・自己実現を求める現代のエンジニアやビジネスパーソンが読むことで、新たな視点や実践的なヒントが得られるでしょう。何度読んでも新たな学びが得られる、ドラッカー畢生の名著です。

成果をあげる8つの習慣

本書の冒頭では、成果をあげるための8つの習慣が提示されています。

  1. なされるべきことを考える
  2. 組織のことを考える
  3. アクションプランをつくる
  4. 意思決定を行う
  5. コミュニケーションを行う
  6. 機会に焦点を合わせる
  7. 会議の生産性をあげる
  8. 「私は」でなく「われわれは」を考える

これらの言葉だけでも、すでに学びや気づきがありそうな雰囲気を感じられますね。このすべてに言及するわけにはいきませんから、今回は(1)皆さん自身が集中して仕事をすることと(2)リーダーとしてメンバーが一人称複数視点で考えて動けるように育てること、に絞ってお話をします。

集中して仕事をするという難題に取り組もう

皆さんは日々の業務の中で、集中して仕事ができていますか。ぼくはほとんど集中できていません。朝ノートPCを開けば、社内外からのメールだけでなくSlackなどからの通知がたまっています。やっと片付けても、それらはほぼ一日中ひっきりなしに届きます。カレンダーにはミーティングの予定が詰まってミルフィーユのようになっています。「あぁ、また気を抜いてしまったな」と思います。何度も『経営者の条件』を読んで気を引き締め直しているぼくでも、こうしてあっさり気を散らされてしまうことが多い環境なのですから、集中して仕事をすることは難しいのです。

何が一番重要かを見極め

ドラッカーは成果をあげるためには、目の前のタスクをただ片付けたり「やりたいこと」をやるのではなく「なされるべきこと」に集中せよと説きました。重要なのは、最も成果に直結するタスクを見極める力です。たとえば、カレンダーの中で最も重要なミーティングを見極め、他の会議は議事録で済ませる。あるいは、部下に任せられるタスクを委譲し、自分は本当に重要な業務に専念する。このように、限られた時間をどのように使うかが成果を左右します。

成果をあげるというと曖昧に感じられる方には、組織貢献という観点で捉えると少しわかりやすいかもしれません。皆さんも所属組織で目標を設定し、その達成度合いで人事評価を受けていると思います。その目標は、自分一人が成長することではなく、組織に貢献して成果をあげることに直結しているのではないでしょうか。というより、そうなっていなかったら目標設定も人事評価も改善すべきポイントがありそうな気がします。

しかし、立てた目標は成果をあげることにつながっていても、どうも日々の業務を考えてみると、成果をあげることを要求されながら、同時にそれを困難にする力が働いているように思います。「アイゼンハワーマトリクス」でいう、緊急だけど重要でない仕事や、緊急でも重要でもない仕事に追い立てられることが多いのではないでしょうか。今期のあなたの目標が「メールを1,000通やりとりする」といったものであれば筋は通っていると思いますが、実際はもっと成果をあげることに直結した目標が立てられているはずです。そのことに関係のない作業がいかに多いことでしょうか。

「全部大事」にあらがう

このように書くと「いや、全部大事なんだよ、緊急で大事なんだよね」という声が聞こえてきそうです。あなたの仕事の中で大事ではないタスクはないし、大事ではないミーティングもないですよね。アイゼンハワーマトリクスの右上(緊急かつ重要な仕事)のマスは満タンで、他のマスはスカスカですよね。

では、一つずつ視点を変えて検討してみるのはいかがでしょう。それらのタスクをあなたが実行することで最大の成果につながるでしょうか。カレンダーを埋めるミーティング全てに出席することが最も成果をあげるために欠かせないのでしょうか。タスクは部下に要点を伝えて任せ、ミーティングは後で議事録を確認することにすれば、あなたにしかできない最も重要な仕事だけに時間を使うことができるかもしれません。

ドラッカーはこう書いています。「時間を無駄に使わせる圧力は常に働いている。何の成果ももたらさない仕事が時間の大半を奪っていく。ほとんどは無駄である。地位が高くなれば、その地位がさらに時間を要求する。」

ご自身が重要なこと、本当に成果をあげるために必要なことに取り組めるよう、もう一度時間の使い方を考えてみてはいかがでしょうか。全部大事という状況にあらがうために割く時間は、決して無駄ではないと思います。こうして検討した結果を仕事の軸にして動くことで、周りの理解も得られるようになります。

余談ですが、ぼくにとって今一番重要なのがこの文章を書くことなので、メールやSlackの通知を切り、SNSを見ないようにして取り組んでいます。カレンダーとにらめっこして確保した空き時間で原稿を書き進めているわけです。ドラッカーがいなかったらこの連載は実現しなかったかもしれません……。

一人称複数視点で考えて動けるメンバーを育てよう

エンジニアという職種は、品質保証・テストの世界に限らず、つねに人手不足です。求められる業務のボリューム(量)が多いことに加えて、普通はクオリティー(質)も高くなくてはならないからです。

クオリティーの高い仕事をするためのポイントとして、8つの習慣の8番目で言及されている「視野を広げること」が重要です。「私は」と一人称単数で仕事に取り組んでいるメンバーが「われわれは」と業務に対する視野を広く取ったときの効果と成長幅には目を見張るものがあります。それにもかかわらず、日々の業務の中でメンバーを育成していると指導が難しいためか、あまり注目されない印象があります。

「われわれは」という視点を持つメンバーは、チーム全体の目標を意識するようになります。それによって自分の役割を果たすだけでなく、他のメンバーの進捗をサポートしたり、プロジェクト全体を調整したりすることができるようになります。たとえば、タスクの遅れを察知して事前にスケジュール調整に動いてみたり、想定外の問題が発生したときに柔軟に対応したりするでしょう。普段からこのような動きを積み重ねていくことで、チーム全体の成果を押し上げることにつながりますし、個人としても大きな達成感を得られるようになります。自身の能動的なチーム視点の動きがチームの成果にダイレクトにつながっていると理解しているからです。

ぼくがリーダーとして携わっているチームのメンバーにも、この「われわれは」で考えることを課題としています。個人の能力や責任感が高いメンバーほど「私が」という視点で課題解決をしようとしがちですが、それではチームの成果にまでスケールさせることは難しいです。「私が」から「われわれは」に切り替えることで、チームの一体感が生まれ、高い成果を安定して出せるようになると、メンバーとも繰り返し話し合っています。

メンバーが「われわれは」という視点を持つまでには時間がかかるかもしれません。リーダーとしての具体的なフィードバックやサポートを続けることと、やはり自身が率先垂範することが肝要です。リモートワーク全盛の時代に「背中で教える」というのはいかにも古いようですが、それでも、リーダーの姿こそがメンバーに向けた一番の教材になるのだと思います。

メンバーの育成には粘り強さが求められますが、リーダーにとって一番大切な価値貢献だと思います。どんな場所でも成果を出せる「われわれは」で動けるメンバーを育てることを目標にしてみてはいかがでしょう。自分一人だけではなく、メンバー全員が成果をあげられる組織の方がすごいことができると思いませんか。

出発点は理想よりも自分自身

『経営者の条件』は誰が読んでも学びがありますから、ぜひご一読いただきたいです。メンバー育成のポイント集としてもたいへん優れています。

その一方で「読んだはいいけれど具体的にどうしたらいいかわからない」という方もいらっしゃるかもしれません。これは『経営者の条件』に限らず、あらゆるビジネス書に通じることかと思います。ぼく自身、いろいろな方と読書会を開いていますが「理論はわかるけれど……」という質問を、ほぼ必ずいただきます。それほど皆さん困っていらっしゃるのだと思います。

自身があげた成果の解像度を高めよう

どんなに優れた書籍も、あなたの状況を100%反映させて書かれたものはありません。言い換えると「あなたのためには書かれていない」と言えるでしょう。ですから、読者であるぼくたちが書籍から得た学びを実際に生かすためには、能動的に「書かれていることを自分に引き寄せて再構築する」ことが必要です。

ご自身が最近あげた「成果」にはどのようなものがあるでしょうか。うまくいったプロジェクトやタスクについて思い出してみましょう。そのプロジェクトやタスクは、どうしてうまくいったのでしょうか。たとえば、物事がスムーズに進むように振る舞ったり、ミーティングをうまく主導したりしたのではないでしょうか。ミーティングで話題が本筋からそれてしまったときに「今はOOについて話をしていたのでしたっけ」と参加者の注意を元のテーマに向けたりしたかもしれません。もしそうなら、これは『経営者の条件』で示されている「会議の生産性をあげる」行動にほかなりません。

さらに「もし『経営者の条件』を読んだあとに取り組んでいたら、このプロジェクトはどう変わっただろう?」と考えてみましょう。たとえば、時間の浪費の原因を整理して不要な業務を取り除いたり、取り掛かるタスクの順番を見直したりして、納期に対して余裕のある仕事ができるかもしれません。

学びを生かす道を歩みはじめよう

ご自身のあげた成果を再評価して解像度を高め、それを出発点にすることで、ビジネス書から得られた学びを実践に結びつけることができます。書籍に書かれた理論は、いくら現実の事例をもとに書かれていたとしても、あなたにとっては理想的すぎて現実味が薄いかもしれません。理想からではなく、あなた自身の状況から出発して、その解像度を高めるという能動的なアクションを取ることで、自己成長・自己実現の第一歩となります。

2025年の幕開けと同時に始まったこの連載を通じて、皆さんのレベルアップを少しでもサポートできれば幸いです。……と言いつつ、もしかしたら執筆者であるぼくが一番勉強になる連載かもしれないなぁとワクワクしています。

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