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リグレッションテスト(回帰テスト)とは。デグレとの関係や自動化について解説

目次
本記事では、リグレッションテストについて、デグレとの関係や確認テストとの違いを交えて解説します。
また、そのやり方や実施のタイミング、自動化のためのツールについても紹介します。
リグレッションテスト(回帰テスト)とは
リグレッションテストは回帰テストとも呼ばれ、ISTQBのシラバスで以下のように定義されています。
リグレッションテストでは、すでに確認テスト済みの修正を含め、変更によって悪影響が生じないことを確認する。
※ISTQBテスト技術者資格制度 Advanced Level Specialist シラバス テスト自動化エンジニア 日本語版 Version 2016.J01より抜粋
リグレッションテストとは、既存のソフトウェアに変更がなされた際、変更していない従来の機能が期待通りに動作することを確認するテストです。このテストタイプは、品質保証の一環として重要であり、新しいコード変更が既存の機能を損なわないことを確認するために行われます。
なぜリグレッションテストが重要かというと、ソフトウェア開発の過程において新しい機能を追加したり、バグを修正したりすることは日常的な作業ですが、これらの変更が他の部分に意図せぬ影響を及ぼすリスクが常に存在するからです。
例えば、ある機能のバグを修正したとしても、修正したコードがソフトウェアの別の部分で新たな問題を引き起こす可能性があります。
具体的な例として、ショッピングカート機能を持つEコマースサイトを考えてみましょう。開発者が「支払い」の部分に新しい支払いオプションを追加したとします。この変更により、同サイト内の支払い方法と依存関係のある「合計金額計算」機能にも影響が及ぶかもしれません。そのため、変更後にリグレッションテストを行うことで、他の既存の機能が意図通りに動作することを確認できます。
このように、リグレッションテストは、新しいコード変更による不具合を防ぎ、全体のソフトウェアの品質を維持するために不可欠な工程です。
リグレッションテストとデグレの関係
リグレッションテストとデグレは密接な関係にあります。
デグレ(デグレードの略で、エンバグ、リグレッションバグなどとも呼ばれます)は、ソフトウェアの変更によって既存の機能が従来通りに動かなくなったり、性能が悪化したりすることを指します。一方、リグレッションテストはデグレが発生しないことを確認するためのソフトウェア品質保証プロセスの一つです。
デグレが発生する理由はさまざまですが、大きく分けて以下三つの原因があります。
- 仕様変更に対する理解不足
- テスト範囲(影響度)の見誤り
- 依存関係の把握不足
これらの要因が重なることで、意図せぬデグレが発生してしまうことがあります。
例えば、新しいUIを更新するプロセスにおいて、開発者がバックエンドの依存関係を見落としたとしましょう。その結果として、フロントエンドは美しく更新されるものの、バックエンドのデータ処理がうまく連携せず、ユーザーデータが正しく更新されない不具合が発生することがあります。このようなデグレを防ぐために、リグレッションテストは変更前後の機能を広範にテストします。
結論として、デグレを防ぐための最良の方法は、徹底したリグレッションテストです。これにより、ソフトウェアのリリース後に発生する可能性のある意図しない不具合を未然に防ぐことができるのです。
リグレッションテストと確認テストの目的
リグレッションテストと確認テストは、ソフトウェアテストプロセスの重要な要素ですが、異なる目的を持っています。
確認テストは、「バグが修正できていることや、変更した仕様が期待通りに動作することを確認するため」のテストであるのに対し、リグレッションテストは「その修正が他の機能に影響を与えていないことを確認するため」のテストです(図表1)。
確認テストの目的の一つは、特定の問題が修正されたことを証明することです。例えば、ユーザーインターフェースのボタンが反応しないというバグがあった場合、開発者が修正した後、そのバグが再発しないことを確認します。
一方、リグレッションテストの目的は、修正された機能以外の機能に影響がないことを確認することにあります。たとえ確認テストで特定のバグが解決できていたとしても、機能全体を通して影響がないことを保証しなければ、仕様通りに動作せず、ユーザー体験が損なわれるリスクが残ります。
Eコマースサイトを例に挙げると、修正されたログイン機能が変更した仕様通りに動作するかを確認するのが確認テストであり、そのログイン機能の修正が他のマイページ機能や支払い機能に影響を与えないかを確認するのがリグレッションテストです。
結論として、確認テストとリグレッションテストは、ソフトウェアの品質を高めるために補完関係にあります。それぞれのテストが果たす役割を理解し、しっかりと行うことで、ユーザーに安定した機能を提供できるのです。

リグレッションテスト(回帰テスト)のやり方
リグレッションテストを効果的に実施するためには、ソフトウェア品質を確保するための計画的な工程が必要です(図表2)。
リグレッションテストの工程
工程1 | 影響範囲の分析 | 変更箇所の特定を行い、変更箇所が他のモジュールやコンポーネントにどのように依存しているかを調査します。また、どの機能が変更の影響の可能性があるかを予測します。直接的な影響以外にも、データフローや共有リソースの変更による影響など、間接的な影響も考慮します。 |
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工程2 | テストケースの選定 | テストケースを選ぶ際は、変更箇所やその影響範囲、過去に不具合が多発した箇所を優先的に対象とします。全てのテストケースをリグレッションの対象にするのは非効率的なため、リスクの高い部分を見極めることが重要です。 |
工程3 | テスト環境の整備 | 本番環境に近い条件でテストを行える環境を準備します。異なるプラットフォームやブラウザ、デバイスでの動作確認も行い、不具合の発生を防ぎます。この準備が不十分だと、ユーザー環境での問題が見逃される可能性があります。 |
工程4 | テストケースの実行 | リグレッションテストは繰り返し行う必要性があるため、限られたリソースで最大の成果を上げることが重要です。リグレッションテストで行うテストの中でも、更新内容にひも付いた処理や機能のテストや不具合の出やすい処理や機能のテストを優先して実行する必要があります。 |
工程5 | 結果の記録と報告 | テスト実行において、過去のテスト結果を基に、実行するテストの優先順位を付ける場合があり、結果の記録は重要です。また、報告を基に不具合を修正するため、結果の記録と報告は開発側とのコミュニケーションとしてリグレッションテストの中でも重要な成果物です。 |
図表2:リグレッションテストの工程
リグレッションテストの例
リグレッションテストの具体例として、Eコマースサイトの機能更新に伴うテストを改めて考えてみましょう。新しい機能を追加したり、既存の機能を修正したりする際は、既存の操作が意図通りに行えるかを確認する必要があります。
例えば、ショッピングサイトで新たに「複数アイテムの一括購入」という機能を追加したとします。この機能が追加された後、リグレッションテストでは他の重要な機能、例えば「商品検索」、「カートに追加」、「価格計算」などが問題なく機能するかどうかをテストします。
また、リグレッションテストは、特定のユーザーシナリオでも行えます。その場合、購入までのシナリオを再現し、プロセス上の全てのステップが順調に動作するか、ユーザーフレンドリーであるかを確認します。UI変更による影響確認は特に重要で、見た目の変化が操作性に影響を与えていないかもチェックします。
このようにリグレッションテストのそれぞれのテストケース例は、既存機能が影響を受けていないことを確認するための具体例です。特に異なる機能間の複雑な相互作用がある場合でも、徹底したリグレッションテストを行うことで品質保証につながります。
リグレッションテスト(回帰テスト)の自動化について
リグレッションテストを効率的に行う方法の一つが、自動テストの導入です。自動テストは、人間が手動で実行する負担を大幅に軽減し、頻繁にテストを実施できるようにして、開発生産性の向上と品質確保に貢献します。特に大規模なリグレッションテストを行う場合、手動テストだけでは時間とコストがかかり過ぎるため、自動化することで効率化が図れます。
自動テストの利点は多くあります。第一に、繰り返し行う作業において、結果の一貫性を確保します。手動でのテストでは、テスト担当者による操作や手順の違いが生じる可能性がありますが、自動化することによって、全テストが常に同じ手順で実行されます。
第二に、テストのスピードと頻度が増します。自動テストによって、特に夜間や週末に定期的なビルドを設定することで、変更があった度にリグレッションテストの実行が可能になります。これによって、早期に問題の発見が可能となり、修正時間の短縮が期待できます。
注意点としては、全てのリグレッションテストが自動化できるわけではなく、手動で実行すべきテストと自動で実行するべきテストを切り分け、より確実性や効率性の高い自動テストを実装することが肝要です。一部であっても自動化することにより、デプロイ頻度が向上し、ソフトウェア開発ライフサイクルの加速に寄与することでしょう。
テスト自動化の詳しい解説はこちら
テスト自動化とは?メリット・デメリットや向き不向き、テストを自動化できるツールを紹介
リグレッションテストの自動化ツール
自動化ツールとしては、WEBやモバイル領域ではPlaywright、ノーコードローコード領域においてはMagicPod、Autify、mablなどが広く利用されており、これにより迅速にテストを回すことが可能です。
具体的な手法としては、Playwrightなどのテスト自動化ツールを用いて、WEB/モバイルベースのソフトウェアのリグレッションテストを自動化することができるでしょう。あるいは、Postmanを使って、APIの機能テストを自動化することも一般的です。これらのツールは、スクリプトを組むことや、ノーコードツールであれば簡単な操作でさまざまなテストケースを自動化することができます。
自動テストはリグレッションテストを効果的かつ効率的に行うための強力な手段です。手動テストと比べて短期間で多くのテストを実施できるため、品質の確保に重要な役割を果たします。
リグレッションテスト(回帰テスト)を行うタイミング
ソフトウェア開発ライフサイクルにおいてリグレッションテストを行うタイミングは非常に重要です。適切なタイミングでリグレッションテストを実施することで、不具合を検出でき、手戻りによる修正にかかる時間とコストを削減できます。
コードの統合後
リグレッションテストの実施タイミングとしては、まず「コードの統合後」が挙げられます。複数の開発者が作業したコードを統合した際、予期せぬ相互作用が発生しやすいため、このタイミングでリグレッションテストを行うことで、複数処理で動作する機能が問題なく動作していることを確認できます。
修正作業後
修正作業後にも必ずリグレッションテストを行います。特定のバグを修正した後、その修正が他の機能に影響を与えていないかを確認するためです。ここでの重要なことは、修正部分だけでなく、関連機能全体を検証することです。
リリース前
リリース前にもリグレッションテストは欠かせません。リリース時にはユーザーに対する直接的な品質保証が求められます。リリース前のリグレッションテストは、リリース前の開発側による最終確認としての位置付けです。
リグレッションテストの適切な実施のために
以上のようにリグレッションテストは、既存機能の動作を担保する重要なテストタイプです。リグレッションテストを適切に実施するためには、クリティカルなテストケースを見極め、自動化ツールを活用し、環境を整備することが必要です。これにより、効率的かつ包括的にテストを行うことができ、ソフトウェアの品質確保につながります。
ベリサーブでは手動でのリグレッションテストの他に、テスト自動化サービスも行っています。テスト自動化を行うことで、より効率的なリグレッションテストの実施が可能です。テスト対象に適した自動化ツールの選定いたしますので、ぜひご相談ください。
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