Technical Information
よりよい未来の実現に向け、
強い信念を持って活動するSkyDriveに迫る
今回、我々が取材する株式会社SkyDrive(以下、SkyDrive社)の設立の経緯は、約8年前まで遡ります。2012年9月、さまざまな企業のメンバーが集まり、「空飛ぶクルマ」の開発に取り組む業務外有志団体であるCARTIVATORが発足しました。「空飛ぶクルマ」の開発をさらに加速させるべく、そのメンバーが中心となって、2018年7月に設立されたのが、SkyDrive社です。
現在、SkyDrive社は2つのテーマにおいて、事業化に向け、取り組んでいます。1つは、無人機であるカーゴドローン、もう1つは有人機である「空飛ぶクルマ」の開発です。今回、我々は、代表取締役の福澤 知浩氏、カーゴドローンの事業開発を担当する佐藤 剛裕氏、「空飛ぶクルマ」の開発を担当する山本 賢一氏の3名に、これまでのSkyDrive社の歩みや、それぞれが大事にしていること、「空飛ぶクルマ」の実現に向けてどんなことに取り組んでいるのか、お話を伺いました。
※本記事に掲載されている機体および人物の写真は、SkyDrive社より提供されたものです。
※この記事は2020年6月8日に発行した「ベリサーブナビゲーション2020年6月号」にも掲載されています。
想定仕様
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重農作物の運搬(積載荷重30kg) |
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インタビューにご協力いただいた
SkyDrive社の皆様
SkyDrive社とCARTIVATOR
CARTIVATORは、自動車・航空業界・スタートアップ関係の若手メンバーを中心とした有志団体として発足しました。『モビリティを通じて次世代に夢を提供する』ことをミッションに、「空飛ぶクルマ」の技術開発と事業開発に取り組んでおり、2014年には5分の1スケールの無人試験機の飛行に成功しました。CARTIVATORの由来は『クルマ(CAR)でワクワクする体験を生み出す(CULTIVATOR)』という想いからきています。
当初はメンバーで費用を負担し合い、モーターやバッテリーなどを購入していましたが、
2017年にスポンサーを募ったところ、数千万円の支援を受けることができました。これにより、これまで費用面で手が届かなかった資材調達が可能となりました。2018年、目標としている2020年のデモフライト実現への開発加速化と「空飛ぶクルマ」の事業化を進めるべく、
CARTIVATORの一部メンバーがフルタイムで参加するSkyDrive社が設立されました。
SkyDrive社の社名はCARTIVATOR時代に、機体の名前をSkyDriveと皆で決めたことに由来します。SkyDrive社創業時に、この機体への皆の想いとリスペクトを込めて踏襲し、「空を飛ぶだけではなく、空を走り、クルマのように日常的に使う移動手段としての市場を創造していきたい」という意志を込めて、社名を決定しました。
現在、SkyDrive社とCARTIVATORは、2020年夏のデモフライトに向けて共同開発に取り組んでいます。
「空飛ぶクルマ」でモビリティの歴史に変革をもたらしたい
福澤 知浩 氏
――SkyDrive社の現在の状況について、教えてください。
2019年12月に有人飛行試験を開始しました。直近では、2020年夏のデモフライト、カーゴドローンの販売、2023年の「空飛ぶクルマ」販売開始に向けて取り組んでいます。いずれもハードルが高いのですが、多くの人が欲しい、乗ってみたいと思う製品づくりに向けて、社員一丸となって取り組んでいます。
――重点的に取り組んでいることはどんなことですか?
SkyDrive社の事業を加速させることが私のミッションだと思っています。例えば、採用面だと「最強」な人を連れてくることですね。具体的には、問題があるから諦めるのではなく、問題をどう乗り越えていくのか、解決することを楽しめるような人です。そんなマインドを持つ人を採用し、最大限力を発揮しやすい環境を作ることが私の役割です。また、政府や関係会社の方など、我々へのサポーターが増えてくるにつれて、メディアに取り上げてもらえる機会も増えています。それがSkyDrive社の認知につながり、これまでスタートアップに興味を持っていなかった、夢を実現させる志のある人に来てもらえることを期待しています。
また、スポンサーに認知してもらうことも重要です。ビジネス誌などを読んで、SkyDrive社を知り、出資を検討してもらえることもありますが、実はテレビの特集番組を見たスポンサーご自身の家族から「空飛ぶクルマって知ってる?」と言われるほうが、出資を前向きに考えてもらうことに効果的なんです。そんな風に、知ってもらうきっかけを多くするために、海外の講演に登壇したり、メディアに出たり、興味を持ってくれた方の元へ自ら出向き、直接話したりするなど、認知度を高める活動を積極的に行っています。
現在は採用活動もスポンサー募集も行っていますが、直接の関りがなくても、活動状況の進捗をFacebookやTwitterなどのSNSで見て、知ってもらったり、話題にしてもらえたりするだけでも嬉しいです。
――仕事をする上で、大事にしていることはありますか?
設立当初からのメンバーも加えると、今では総勢50名以上となっています。コミュニケーションを円滑に進めるために、全メンバーとの1on1を行っています。※1 1on1をやることにより、色々な要望が出てくることもあるので、組織全体に反映できる場合には反映し、反映できなかったとしても、フィードバックしたり、議論したりする機会として活用しています。こういった場を設けることは、双方にとってとても意義のあることだと思います。
また、社内のコミュニケーションツールは、メールではなく、チャットツールを使っていて、タイムリーなやり取りを心掛けています。そうすると、社内全体でそれが普通となり、返信を早くすることで、判断の待ち時間が減り、結果的に物事が早く進捗します。
もう1点、心掛けているのは、あまり細かいことまでは口を出さないことです。基本的に、メンバーが考えたことを優先するようにしています。ただ、どんな考え方で物事を進めようとしているのか、その方向性だけは合わせるようにしています。判断する際に、判断するための材料をしっかりと揃えた上で、ロジカルに考えることを徹底してもらっています。
――「空飛ぶクルマ」を開発する意義と、SkyDrive社の目指す未来について教えてください
歴史上、モビリティの変革の機会は滅多にありません。自動車においては、T字フォードが誕生し、大量生産が始まってから既に100年以上経っています。※2 そして、現在、飛行機と自動車の良さを併せ持つ、「空飛ぶクルマ」が生まれようとしています。「空飛ぶクルマ」により、日常的に空を飛べるようになれば、生活に関しても相当大きなインパクトがありますし、100年後、200年後の未来にも「空飛ぶクルマ」が存在していると確信しています。そんな歴史に残るモビリティを事業化することにはやりがいを感じます。
我々のビジョンとして、2030年頃に「空飛ぶクルマ」の自動運転を実現させることを目標にしていますが、更にその先の2040年頃には、乗り捨てサービスを実現させたいと思っています。携帯で「空飛ぶクルマ」を呼んで乗り、目的地までたどり着いたら、車が勝手に充電ポートまで戻っていくようなサービスですね。実際にそんなサービスが始まると、点から点への移動ができますし、その主要なブランドとしてSkyDrive社が存在している未来を実現したいと思っています。
※1:ワンオンワン。定期的に上司と部下が1対1で話し合うことを指す。
※2:フォード・モーター・カンパニーにより、1908年にT型と呼ばれる自動車のモデルが発売された。
1927年に生産が終了するまでの生産台数は1,500万7,033台に上った。
より安全・簡単に物資が運べる未来に向けて、カーゴドローンの普及を目指す
佐藤 剛裕 氏
―――SkyDrive社での佐藤さんの役割について、教えてください。
私はSkyDrive社の設立時から参画しており、当初は、勤怠管理や経費精算など、会社の機能として必須である業務全般を担当していました。現在はカーゴドローンの事業開発を中心に取り組んでいます。SkyDrive社では、「空飛ぶクルマ」よりも先に、事業として市場にリリースできるものとして、当初からカーゴドローン事業を構想していました。設立当初はカーゴドローンに関わる人数も少なかったのですが、2019年7月頃から10名弱程度のメンバーで本格的に取り組みを始めました。これまで、プロトタイプ機を使っての実証実験を進めてきましたが、2020年5月から販売を開始していますので、今後は販売体制の強化を進めて参ります。
――カーゴドローンの技術課題や、事業に関わる法整備の状況について教えてください。
カーゴドローンの開発を進める上での課題は多くありますが、技術的な面で言えば、バッテリーの改善が挙げられます。カーゴドローンの稼働時間を増やすためには、バッテリーの改善が必要不可欠ですが、著しく改善がなされる技術分野ではありません。ただ、1年ごとに、約8%ずつバッテリー効率が改善してきた実績があるので、その実績を前提に我々も予測を立て、カーゴドローンの開発活動を進めています。産業が立ち上がれば技術が進化し、技術が進化すれば産業もさらに広がっていくと考えていますので、各省庁にも技術課題を認識してもらい、投資が積極的に行われれば、カーゴドローンに必要な技術開発のスピードも加速していくと思っています。
また、現在、政府がドローンの利活用推進を進めようとしており、2022年にドローンについての法改正が行われる見込みです。その法改正では、これまで人の上を飛ばしてはいけなかったドローンが、法規を満たしている場合に限り、人の上を飛行することが可能になるかもしれません。これは非常に画期的なことだと思っています。ユースケースの幅が広がり、ドローン活用の可能性が大きく広がるからです。我々としては、そういった法改正を見据えながら、「この時期にこんな機体を出すことができるよう、開発を進めよう」と取り組んでいます。
――カーゴドローン事業における、今後の取り組みを教えてください。
カーゴドローンの販売に向けて、現在のプロトタイプ機に次ぐ新たなモデルの開発・製造を行い、実機としての使い勝手を改善していく必要があります。もちろん安全な機体を作ってはいますが、実運用では、一日に複数回の往復フライトをする可能性もありますし、よりハードな要求に耐えられるよう、品質をより向上させなければなりません。これからカーゴドローンを販売し、事業として成り立たせるためには、これまでの開発スピードは維持しつつも、安全な製品を納めていく品質管理の仕組みとルールづくり、その運用を行うことのできる体制構築にも取り組む必要があると認識しています。同時に、販売施策の検討も進めなければなりませんので、課題もやることも山積みですね。
SkyDrive社は、社会的な課題を解決するための事業というよりも、こんな技術が活用される可能性があるのではというプロダクトアウトから始まっています。今、皆さんがお使いのスマートフォンも、当初はどれだけ便利か分かりませんでしたが、使ってみたら便利で、今では世界中に普及していますよね。
ドローンも既に撮影用途なので、一般にも普及し始めていますが、「重いものを運搬する」という用途での使用方法は、あまりイメージが沸かないかもしれません。我々が開発するカーゴドローンは、物資や資材の運搬用途での普及を目指しています。現在、人が資材を運搬するのに時間がかかっている現場でも、カーゴドローンを導入できれば、生産性の向上につながります。「これまでドローンを使ったことがないし、必要ない」「事故が起きる可能性がある」との声もあるのですが、「カーゴドローンの導入により、これまでにない価値をもたらすことができる」という確固たる自信、信念をもって取り組んでいます。
自らの目指す未来をつかむため、チャレンジしたからこそ今がある
山本 賢一 氏
――SkyDrive社での山本さんの役割について、教えてください。
私は、技術渉外責任者という立場で、技術的見地からSkyDrive社の戦略を考えることが役割です。共同研究先との研究において、どのようにシナジーを生み出していくのかを考えたり、資金調達に携わったりと、さまざまな業務に幅広く関わっています。元々、工学部出身で、前職では医療機器の開発を担当しており、リスクアセスメントを強みとしていたことから、協力会社との製品の安全性解析業務の窓口も担当しています。
――2019年12月に有人飛行試験を開始されていますが、「空飛ぶクルマ」の開発で、特に苦労してきた点はどんな点ですか?
「空飛ぶクルマ」の開発においては、機体のスケールが大きくなることにつれて、課題が増えていきました。まず、大きな機体を飛ばすことは難易度が高いのですが、機体が大きくなるに連れ、指数関数的に難易度が増します。小さな機体では、全体をほぼ剛体として捉えられていたものが、大きくなると変形量を無視できず、機体制御を成功させるまで長く時間がかかりました。小さな機体を実験する際には、部屋で飛ばすこともできましたが、大きくなると、部屋で飛ばすわけにもいかず、場所の確保が必要になります。また、バッテリーの充電などの準備にも時間がかかるようになり、PDCAサイクルを回しにくくなっていきました。
次に、人を乗せるという課題があります。人を機体に乗せることを想定すると、外からラジコンのように機体をコントロールしていたものを、実際の運転ではどのようにコントロールするかなど、小さな課題がどんどん顕在化してきて、解決に時間がかかるようになりました。
それでも開発スピードを維持するために、参考にできるものは積極的に取り入れていました。空飛ぶクルマは、これまでにない新しいモビリティではありますが、要素技術に分けると、世界中どこにも存在しないというわけではありません。例えば、航空機の椅子やコックピットの画面など、既に実現しているものを参考にしていました。
――今後の「空飛ぶクルマ」開発における技術的な課題を教えてください。
これまでは、大きな機体を安定して飛ばすことや、人を安全に乗せるということを目標としており、課題を認識しやすいフェーズでした。今では、そのフェーズが終わり、今後は実安全と計算上の安全、乗る人の安心感などを向上させていく必要があります。安心・安全を向上させるためには、安全に飛行できる「空飛ぶクルマ」を開発して終わり、というわけにはいきません。自動車でいう車検のようなメンテナンスをする技術者の育成も、安全を守り続けるには必要となります。さらに「空飛ぶクルマ」に安心して乗ってもらうためには、安全性解析の分野には入りませんが、飛行時の機体の振動なども、抑制していかなければなりません。
これまでは、機体が落ちてしまったら、その時に壊れてしまった部品が駄目だとか、ちゃんと飛ばないから駄目だという、飛行できるか否かに焦点が当たっていましたが、徐々にフェーズが変化してきたことを実感しています。具体的には、多くの選択肢の中から、何をやるのか、どんな風に進めるのかを決めて、取り組んでいく必要がある段階です。例えば、コスト面や操作性を考慮した際に、本当にこれまで通りの進め方でいいのか、進め方を変えるのであれば、どのように変えていくのかを検討しなければなりません。
――SkyDrive社に参画して、1年半が経った今、山本さんが感じていることを教えてください。
実は、私が今、SkyDrive社にいるのは、前職でのシリコンバレーへの赴任がきっかけでした。6年前、前職のトレーニングプログラムに立候補し、1年間シリコンバレーに行くことになったのです。現地では、技術系のミートアップが多数あり、そこでできたベンチャー企業の友人から、多くのインプットを得ることができました。
その楽しさが忘れられず、帰国後、自社技術者の有志団体のイベントに参加したのがきっかけで、CARTIVATORを知り、参画することになりました。その後、SkyDrive社に入社することを決めたのは、『今の仕事を続けるよりも、「空飛ぶクルマ」の開発に本気で取り組む方が面白そうだ』と思ったからです。
前職の仕事を続けていたとしたら、自分のアウトプットを実現しやすい立場で働くには、10年近く時間が必要だったと思います。会社を辞め、現在、SkyDrive社の技術渉外責任者という立場で、エンジニアリング以外の資金調達や企画にも携わることができ、自分自身の可能性がより広がったように感じています。
このような経験を経て、自分自身の未来に対する当事者意識を持ち、「こうであったらいいなあ」という未来を実現するために、チャレンジすることが重要だと感じるようになりました。私にとっては、会社を辞めて、「空飛ぶクルマ」の開発に専念することがチャレンジでした。もし、やりたいこと、実現したいことがあるならば、考えるだけではなく、まずはアクションをとってみることが大事なのではないかなと思います。
インタビューを終えて
今回はお忙しい中、3名の皆さまにインタビューにご協力いただきました。このインタビューを通して、皆さんが強い信念を持って、よりよい未来の実現に向けて取り組んでいるという印象を持ちました。SkyDrive社の「空飛ぶクルマ」や「カーゴドローン」が社会の中で活用され、大きな変革が起きる瞬間を、ぜひ見届けたいと思います。ご協力いただき、ありがとうございました。
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