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DXを加速させる
最新テクノロジーとリスキリング

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企業がビジネス変革を実現し競争に勝ち残っていくためには、もはやDX=デジタルトランスフォーメーションが不可欠です。本稿ではこのDXの重要性と、それを加速させるIoT、デジタルツイン、AI(人工知能)といった最新テクノロジーを紹介しながら、これらのテクノロジーがビジネスや社会にもたらすインパクトについても論考。さらに、デジタルテクノロジーを効果的に活用し、時代の変化に適応するためのリスキリングの必要性やその進め方などをお伝えします。


※この記事は、『ベリサーブ アカデミック イニシアティブ 2023』の講演内容を基にした内容です。

西脇 資哲 氏

日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員 エバンジェリスト
日本デジタルトランスフォーメーション推進協会
アドバイザー
ノーコード推進協会 NPCA 理事
西脇 資哲 氏 

DXと最新テクノロジー

■DXなしでは企業は生き残れない

今やDXは「待ったなし」です。
世界のビジネスシーンにおいては、DXを実現し、業界の垣根を越えて新しいビジネスを生み出していかなければ激しい競争についていけず負け組に転落する可能性があります。経済産業省も「DXが進まなければ、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる」と報告しています。また、カーボンニュートラルやサスティナビリティ、SDGsといった時代の要請に応えるためにもDXやデジタルテクノロジーは必須です。もしあなたの会社がまだDXに取り組んでいないとしたら、今こそ積極的なデジタル化で企業文化を刷新しDXを推し進めていただきたいと思います。

■日米におけるDXの理解の違い

それでは日本におけるDXへの理解の現状はどうなっているでしょうか。
図表1は「DXによって何に取り組むか」を日米で尋ねたアンケートデータです。アメリカでは「新規事業」または「新しいサービスの開発・提供」といった回答が多数ですが、日本では「業務オペレーションの改善」が最も多くなっています。アメリカがDXによって新たな価値の創造や大きな変革を目指しているのに対して、日本はDXで「現状の改善」をしようとしているわけです。これは本来DXでやるべきことなのでしょうか。私はまずこうした日本独自の考え方から変えていく必要があると思います。

日米におけるDXの理解の違い

出典:2021年 JEITA / IDC Japan調査
図表1:日本のDXは業務改善にとどまり、考え方を変えていく必要がある

■DX推進に必要な環境、技術

DXは、それ以前の「デジタイゼーション(局所的なデジタル化)」や「デジタライゼーション(デジタルによる製品やサービスの価値向上)」とは異なり、これまでにない顧客体験をもたらし、新しいビジネスの創造を可能にするものです。DXは新しい職業や新しい経済活動を生み出します。DXに取り組むに当たっては、このような「ビジネスから社会環境まで大きく変えていこう」という意志や発想が求められます。

また、それには企業環境も求められます。
まずデジタル人材の育成で、デジタル技術を扱える人材を増やし、常に研究する場を設けることです。次に世代や組織(企業や業界)を超えた議論の場を作り、多様で斬新な発想を出し合う環境が必要です。そして、経営陣や管理職の理解も重要です。DXはトップダウンとボトムアップの両輪で実施し、会社全体で行うのが理想的です。従って経営者の皆さんはぜひDXを経営課題として掲げてください。このような環境がそろえばDXは飛躍しやすくなります。

では、デジタルテクノロジーの導入やDX化はどのように進めていけばいいのでしょうか。

●アナログからデジタルへ

まず身の回りの環境や業務をデジタル化していかないと始まりません。まだアナログのまま見過ごされているものはありませんか。紙とハンコが必要な稟議書や申請書、行先掲示板、回覧板、伝言メモ…、組織内にこれらがあったら赤信号です。これらのアナログ情報は、誰かが管理していても、検索や共有ができません。こうしたところからまず、デジタル化を進めていってください。これが第一歩です。

●IoTによるビッグデータの収集

次にデジタルデータを集めていきます。それも精度の高い予測や分析を行うためのビッグデータが必要です。昨今はIoTが普及し、PCやスマートフォンのみならず自動車や工場の機器等さまざまなデバイスがインターネットにつながっています。このIoTを通じてビッグデータを収集し、クラウドに保存し、共有することが重要なステップになります。

●データの可視化(デジタルツイン)

さらに収集されたビッグデータを可視化、分析していきます。一例を紹介しましょう。
これは欧州で実際に稼働しているトラックの輸送管理システムなのですが、モニターの地図上には数千台ものトラックがどこを走行しているかが表示されます。その中で異常のあるトラックは赤色表示され、管理者に報告されます(図表2)。これをドリルダウンしていくと今度はモニター上にトラックが表示され、冷却装置に問題があることが分かります(図表3)。車両のパフォーマンスデータをセンサーで収集し、遠隔送信されたデータをモニター上に再現しているわけです。遠隔地で起こっている状況をIoTによって収集し、これをコンピュータ上に再現するこの技術はデジタルツインと呼ばれるものです。

データの可視化(デジタルツイン)01

図表2:ビッグデータを可視化した一例。トラックの走行状況が表示され、異常があると管理者に報告される

データの可視化(デジタルツイン)02

図表3:トラック内のどの装置が異常を検知したのかを確認できる

■AI(人工知能)の活用

そしていよいよAIの出番です。
AIは人間が使う自然言語を理解し、理論的な推論を行い、経験から学習する、そのようなコンピュータプログラムで、その能力は人間と同等またはそれ以上です。このAIが収集されたビッグデータを分析し、これを基に精度の高い予測を行い生産性向上やリスク回避に役立てられています。その一例を紹介していきます。

●機械の故障予測

海外のある製造会社では、工作機械の故障予測をAIが行っています。機械上に多数のデータポイントがあり、ここから機械・部品のパフォーマンスデータが収集され、これを基にAIが「〇月〇日〇時頃に故障」と予測します。各センサーから収集されるデータは膨大なもので、人間の力でこうした予測を行うのは困難です。この会社では故障予測を基に修理を自動スケジューリングすることでダウンタイムを最小限にする等の成果を上げています。運用効率も向上し、コストは最大10%改善されたといいます。

●需要予測と発注の自動化

これは国内の外食チェーンの例ですが、お客様の来店予測・注文等の需要予測をAIが行っています。これまで店舗ごとに、店長の経験や勘に頼っていた需要予測をAIが行うようになり、さらに仕入れ発注の自動化までを実現しました。需要予測の正確性が増すだけでなく、発注作業にかかる時間がなくなり、店長・スタッフは調理や接客に専念できるようになりました。もちろん食品ロスの削減にもつながっています。

●異常検知による現場の安全確保

AIの画像(動画・空間)認識機能を生かして新しいサービスや危機回避のソリューションを導入しているケースも増えています。図表4は、ガソリンスタンドに設置されたAI搭載カメラの映像ですが、利用者の危険な動作(タバコの喫煙等)を検知するとアラームを発報します。ガソリンスタンドだけでなく、工場等でも今やAI搭載カメラは事故や危険を未然に防ぐために必須となりつつあります。

異常検知による現場の安全確保

図表4:ガソリンスタンドにAIカメラを設置し事故や危険を防止している

ChatGPTが生産性革命を起こす

■ジェネレーティブAIの時代が来た

このAI・人工知能の歴史は古く、50~60年ほどさかのぼることができます。初期の人工知能から進化が進み、機械学習(マシーンラーニング)、深層学習(ディープラーニング)を経て、2021年には生成AI(ジェネレーティブAI)の時代が到来しました。
そしてこのジェネレーティブAIの代表格がChatGPT(OpenAIが2022年に公開)です。これは人間の言葉に対しAIが回答するいわゆる人工知能チャットボットですが、公開1年目にもかかわらず、今や世界中で使われています。その能力は非常に高く、MBA(経営学修士課程)、米国医師免許試験、司法試験に合格できるレベルと言われます。
ChatGPTがどんなことをしてくれるかというと、世界中のインターネット上の情報(オンラインニュース、書籍、学術論文など)を学習して、それを基に文章の作成、要約や解説までしてくれます。一度使い始めた人は手放せなくなります。そしてChatGPTなしでは仕事ができなくなります。

このChatGPTの最大のメリットの1つは「時短」です。

■ChatGPTが価値ある時間を生み出す

図表5にChatGPTによって時短が期待される作業項目とこれからの仕事の在り方を示しました。

ChatGPT:生産性革命“今まで”と“これから”

図表5:ChatGPTの活用によって時短がもたらされ、時間が生まれる

例えば情報収集や調査。今までなら、インターネットで検索し、リンクをクリックし、翻訳して、長い文章を読まなければなりませんでした。
これからは違います。「どういう情報が欲しいのか」、これをChatGPTに聞いてください。またアウトプットについても指示します。「箇条書きで」、「400字の文章にまとめて」、あるいは「PowerPointのスライド形式で」といった具合です。ChatGPTがあなたの指示通りに情報をまとめてくれます。

相談もできます。
例えば「こんなアイデアを考えたけど、どうかな?」と聞けば、MBAレベルの頭脳が、アドバイスを提供してくれます。アドバイスを受けてアイデアを修正したら、ぜひもう一度、聞いてください。何度でも繰り返し対話していくことでアイデアがブラッシュアップされていきます。

海外のニュースサイトから情報を収集していく時にも便利です。外国語の文章を長々と読んでいるのは時間もかかるし、そもそも英語力が必要になります。こんな時もChatGPTを利用してください。CNNやBBC等の画面上で、「この情報を箇条書きで要約して」と指示すれば、膨大なニュースも短時間で理解することができます。

また社内会議にはメンバーにぜひChatGPTを加えてください。これはMBAや司法試験に合格できるレベルの人材が会議に参加するようなものです。議論の内容をChatGPTに相談してみてください。会議のレベルがぐんと上がります。

このようにChatGPTは、情報収集から資料作成、相談、議論、上申・稟議、進捗分析などあらゆる活動に時短をもたらします。この結果、「空き時間」が生まれ、今までなかなかできなかったことができるようになります。例えば、我々人間でしかできないアイデア出しに使うのもいいでしょう。店舗や工場、取引先などの現場に足を運ぶ回数が増えれば顧客対応の時間や密度も増します。もちろん休暇を取ってプライベートタイムを充実させたり副業したりすることも可能になります。生成AIはこのような生産性革命を実現するツールなのです。

全従業員が学ぶリスキリングの重要性

次にリスキリングの重要性について考えてみます。
リスキリングとは職業能力の再開発、再教育のことです。特に仕事のデジタル化・自動化などの新技術に対応できる能力開発を行うリスキリングは今世界中で始まっています。ここまで見てきたDXの推進、IoTによるデータ収集、デジタルツインやAI等の最新テクノロジーを仕事に取り入れたり、有効に活用したりする上でも、一人一人のリスキリングは不可欠になります。

ここでしばしば耳にするのが、「日常業務がある中で、勉強する時間が取れない」という声です。
本当に時間はないのでしょうか。統計によると、人の生活時間の中には隙間時間が1日2時間程度あるといいます。隙間時間とは、移動時間や次の会議までの待ち時間、食事を注文してから届くまでの時間等を指しますが、こうした時間が10分でもあれば勉強は十分にできます。勉強する方法も多様化しています。スマートフォンから得られるネット情報の他、YouTubeやTikTok、Instagramでもビジネスコンテンツが増えてきています。こうしたツールを利用して短時間でも徹底して情報をインプットしてください(詳しく調べるのは後からでも、いつでもできます)。

■リスキリングを経営方針に入れる

また企業や組織にお願いしたいのは、リスキリングを経営方針の中にしっかりと入れることです。すべての社員が学ぶ時間と場所を、会社として提供してほしいと思います。毎週決まった日にラーニングアワーを設けるのもいいでしょう。オンラインでみんなに参加してもらうのもいいでしょう。同じ教材で一緒に学び、その後チャットで議論することも学習効果を高めます。さらに、外部からの学びを増やすことも重要です。「社内の常識」にとらわれていては斬新な発想は生まれません。学びの幅を広げるためにも、企業や業界の垣根を越えて外部の知見を積極的に取り入れてほしいと思います。

■リスキリングが必要とされる背景

これから会社にはデジタルネイティブ世代が続々と入っていきます。特に1996~2010年生まれのZ世代は生まれた時からインターネットが普及していた世代で、スマホを使いこなすことはもちろん、インターネットで人と知り合うことにも抵抗がありません。また社会問題にも関心があり多様性を受け入れる傾向も高くなっています。
ある調査によれば、この世代の人たちの90%は「プログラミングは必須」と考え、50%以上が「プログラミングができる」と回答しています(図表6)。
こういう人たちが今後は社内の主流になっていきます。そして、これから企業では「プログラムができる」ことが当たり前になっていきます。今会社にいる人たちのリスキリングが急務とされる理由もここにあります。

また時代の要請に伴って、人材に求められる能力も変わっていきます。
図表7は、経済産業省が調査した「求められる能力需要」についてのデータですが、今まで(2015年)は、「注意深さ」や「責任感・真面目さ」「スピード」等でしたが、これから(2050年)は、「問題発見力」が1位で、次に「的確な予測」、「革新的なアイデア」です。今まで求められていた能力は、もはやデジタルで代用され、それ以上のものが求められると考えていいでしょう。こうした能力需要の変化に応えていくためにも、今リスキリングをしっかり進めていくことが重要なのです。

求められる能力需要の変化

出典:2022年5月31日 経済産業省 未来人材会議「未来人材ビジョン」議事録
図表7:人材に求められる能力は変化していくためリスキリングを進めることが重要

おわりに

DXは「待ったなし」であり、デジタル化は急務です。そしてデジタル化の次段階では、IoTやデジタルツイン、AIといったテクノロジーを使って業務の自動化・効率化を進めてください。そこから生まれた時間を使って私たちは新しいアイデア、新しいビジネスの創出に挑戦することができます。豊かな発想と最新テクノロジーを駆使して、ぜひ皆さんの会社を一緒に変えていこうではありませんか。

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