キャリア

【連載】冒険者の地図:ゲーム好きが興じてQAエンジニアに、第一線で奮闘するLayerX・松山晃大さんの成長の軌跡(前編)

【連載】冒険者の地図:ゲーム好きが興じてQAエンジニアに、第一線で奮闘するLayerX・松山晃大さんの成長の軌跡(前編)

「すべての経済活動を、デジタル化する」というミッションを掲げ、2018年に創業したSaaS企業の株式会社LayerX(以下、LayerX)が今、注目を集めている。

請求書処理、経費精算、法人カードなどの支出管理を一元化するサービス「バクラク」は、電子帳簿保存法やインボイス制度にも対応し、業務効率化と法令対応の両立を支援する。さらに2024年秋には、勤怠管理を効率化する新サービスを開始する予定だ。新旧の多くの競合企業が存在するこの分野で生き残るためには、ソフトウェア品質の高さが鍵を握ることになる。

LayerXでQA(Quality Assurance:品質保証)エンジニアを務める松山晃大さんは、まさにそれらサービスの品質レベルを高めるべく、日夜奮闘する若手のホープである。「単なる技術の枠を超え、業界全体に影響を与えるようなQAのスタンダードを築きたい」と話す松山さんは、10代の頃、ネットゲームに夢中になったことがきっかけで、アルバイトからQA・テストの世界に飛び込んだ。本稿では彼が歩んできたユニークなキャリアを紹介する。

ゲームを起点に見つけた天職

湘南エリアを代表する街、神奈川県茅ヶ崎市で育った松山さん。子どもの頃はサッカーやサーフィンに夢中になるなど「アウトドア派」だったが、高校生くらいから徐々に「インドア派」へと転向。端的に言えばゲームにどハマりした。

松山さんが初めてネットゲームに触れたのは、小学6年生の時に興味本位で訪れたインターネットカフェだった。ネット経由で数百人から数千人規模のプレーヤーが同時にゲームをプレイするMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)が強く印象に残った。「特にオンラインゲームは(コンピュータ対戦のゲームと異なり)他のプレーヤーとリアルタイムで関わる必要があり、そこに惹かれました」と松山さんは回想する。

高校に入ると自分のPCを購入し、ネットゲームにのめり込むようになった松山さんは、ゲーム業界への興味を深めていく。大学進学後、特に打ち込むものが見つからない中、ある時、求人サイトでゲーム業界の仕事を探していると、ゲームテスターのアルバイトが目に留まった。すぐに応募して難なく採用される。これが、松山さんの今に至るキャリアのスタートとなった。

ゲーム攻略が得意だった松山さんは、アルバイト初日にしてテスターの仕事が「天職」だと感じた。なぜならば、ゲームの攻略もテストも、本質的には問題を発見し、それをどう解決するかを考えるという部分で共通点があり、これまでゲームプレイで培ったノウハウを応用できたからだ。さっそくバグ発見の才能が花開き、チーム内で高い評価を受けた。例えば、ソーシャルゲームのテストチームにおいて5日間で100件以上のバグを見つけた際、その3分の1は松山さんによるものだった。

この仕事に手応えを得た松山さんは、その後、大学を中退。アルバイトからの社員登用という形で業務領域を広げ、テスターからQAエンジニアへとキャリアアップを図っていくことになる。

メルカリでQAエンジニアとしての腕を磨く

松山さんにとって大きな転機となったのは、24歳の時に、フリマアプリ大手のメルカリに転職したことである。契約社員での採用だったが、米国でのプロジェクトや、スマホ決済サービス「メルペイ」の立ち上げに参画するなど、重要な役割を担うことになる。特にメルペイの立ち上げには、初期メンバーの一人として参画し、プロジェクトの進行をリードした。当時、メルカリのQAチームはわずか8人ほど。松山さんはリーダー職としてチームをまとめ、アジャイル開発の環境でQAテスト業務を進めていった。

とはいえ、最初は苦労の連続だった。アジャイルでサービス開発が進む中、ソフトウェア開発エンジニアやプロダクトマネジャーとの連携は必須だったが、周囲は優秀で技術レベルの高いエンジニアばかり。がむしゃらに働くことで必死に食らいついていった。「求められるレベルに全然達していなかったと思いますよ」と松山さんは打ち明けるが、キャッチアップの速さが次第に評価されていく。

「ドメインやアーキテクチャなど技術面をキャッチアップするスピードが周りの人たちと比べても速かったのだと思います。そして、それが自分の強みなのだと初めて感じました」

メルカリでは短期間でサービス開発、テスト、リリースすることを重視し、常に効率化を図っていた。松山さんらQAチームもまた、短時間で高い品質を保つために、自らのスキルを磨き続けた。テストの実施を任されるものの、テスト対象となるサービスの開発が全て完了するのを待ってテストを開始するのでは、リリーススケジュールにまったく間に合わない。そのため、事前に開発され、触れられる部分だけをテストするといった感覚でアジャイルに進めていった。仕様を並行して作成しながらテストすることさえあった。

「メルカリのQAは、テスト項目書を作らずに品質を担保するという独自のアプローチを取り入れていました。最初は戸惑いましたが、それがメルカリのスピード感ある開発に適した方法だと理解しました。ただし、出来上がっていないものをテストしながら、最終的にはお客様に納得してもらえる品質を守らなければならない。それがすごく難しかったですね」

素早いリリースを前提に、限られた時間の中でいかに効率的に価値を提供できるか。それがQAエンジニアの腕の見せどころというのが、松山さんの考えだ。

開発者に気を使われないように

2023年11月、松山さんは次なるステージとしてLayerXに転職した。スタートアップならではの自由なカルチャーの中で新たなプロダクトを開発していることに魅力を感じた。加えて、同社には既に有能なQAエンジニアが何人も在籍していることを知り、その場所に身を置くことで自身のスキルをさらに高められるはずだと考えた。

LayerXでは、ソフトウェア開発のライフサイクルの中に品質保証活動を組み込む「インプロセスQA」を担当するエンジニアとして、開発チーム内でQAテスト業務を進めた。その際に大いに生きたのが、松山さんの技術に対する深い理解力だった。

「開発者と対等に話せるようにならないとうまく仕事を進められないと感じています。通常、QAエンジニアは開発者の細かい用語が理解できないと思われて、気を使われたりすることがあります。システムのソースコードまで細かく理解していなくてもいいですが、例えばアーキテクチャやデータ設計がどうなっているかなど分かっていると、お互いのコミュニケーションコストを減らせます」

LayerXの開発チームは、一つのプロダクトに7〜10人が関わり、QAは一人といった少人数体制で動いている。松山さんは、アジャイル開発プロジェクトの中からソフトウェアの品質を高めるインプロセスQAとしてどんな価値を出せばいいのかといったテーマを与えられている。インプロセスQAを7年ほど手掛けてきた松山さんにとって、やりがいのある役割だ。

「自分のチームで価値を出すのは当然であり、他のメンバーにも良い影響を及ぼせるようにするといったイメージです」

あらゆるプロダクトにユーザーは高品質を求める

冒頭の通り、LayerXは勤怠管理の新SaaSを提供する計画がある。全ての経済活動をデジタル化するというミッションが示す通り、LayerXは今後もさまざまな内容のソフトウェアを開発することが見込まれている。

松山さんは既に一つのSaaS開発プロジェクトを任されており、その中で新たな挑戦に臨んでいる。それは、サービスの品質保証に当たって必要となる、業務に関連する知識の習得である。また、法律要件をはじめ、従来経験してこなかったさまざまな情報が複雑に絡むシステムであるため、QAテストも非常に難しい。

「一つの機能が他の機能にも影響を与えるため大変です。サービスのリリーススピードも求められており、まだ完成していない部分をテストしなければならないケースもあります」

これに加えて、既存ユーザーの多くが高く評価している「バクラク」のブランドにひも付くものとして開発しているため、求められている「当たり前品質」が非常に高いという実情がある。決済基盤など、テストケースが1万件を超えるような複雑なシステムではあるものの、テスト自動化ツールを駆使して効率化を図るなど、これまでのキャリアで培った松山さんの経験が、目の前のプロジェクトでも生かされている。

QAのスタンダードを作れ

松山さんがQAエンジニアとして強く意識しているのは、単にソフトウェアのバグを見つけるだけではなく、チーム全体で「価値」を提供することだ。QAがサービスリリースのボトルネックになることを避けつつ、品質とスピードを両立させる方法を模索する。

加えて、松山さんはQAのスタンダードを構築したいと意気込む。

「QAに関して、ベストプラクティスや正解みたいなものはあまり聞かないし、メルカリ時代も言語化できていないノウハウが多いと感じていました。であれば、僕らが今LayerXでやっていることを言語化、体系化して、いわゆるQAのスタンダードを作れるといいなと考えています」

現時点ではまだ対外的に発表できる状況ではないが、社内では四半期に一度のペースでバージョンアップさせているそうだ。

QAの未来について、松山さんは明確なビジョンを持っている。今後、AIの発達や自動化が進む中で、人間にしかできない「探索的テスト」の重要性が増してくると指摘する。

特に目指すのは、テスティング技術の進化だけでなく、QAエンジニアリングそのものが持つ価値を社会に広め、業界全体のレベルアップを図ることである。松山さんのキャリアは、単なるエンジニアとしての枠を超え、業界全体のスタンダードを築こうとする挑戦を含んでいることが特徴だろう。

後編では、AI、自動化の活用などQAエンジニアが目にしている環境変化に着目する。マイクロサービスやAPI(Application Programming Interface)活用など、アプリケーション開発がますます柔軟になる一方で、そのQA・テストには新たな課題がついて回ることになる。その辺りの展望について、松山さんの考えを聞く。

後編に続く

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