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【連載】QAの変遷を語る:ベリサーブ・佐々木方規さん「QA・テスト業界の共通言語が不可欠だった」

株式会社ベリサーブ品質保証部 技術フェロー佐々木方規さん

1985年CSK(現SCSK)に入社。組み込み機器からOS、グループウェア、データベースおよびデータベースデベロッパーソフトウェアなどのテスト実行/テストマネジメントを実施。1994年から開始したシステムテスト理論の研究を通じ、2004年にはテスト技術の研究開発/推進部門を設立し、R&D専任となる。品質マネジメント、ソフトウェア品質のコミュニティ活動やソフトウェア品質のキャリア人材育成などを主な責務として現在に至る。JSTQB認定テスト技術者資格 技術委員会 委員長、NPO法人ソフトウェアテスト技術者振興協会 理事、SQiP研究会 ODC分析研究会 運営委員会 委員長など。ソフトウェアテスト教科書 JSTQB Foundation 共著(翔泳社)、ソフトウェア不具合改善手法 ODC分析工程の「質」を可視化する 共著(日科技連出版)など。

外資企業の日本進出で潮目が変わる

——QA・テスト業界に携わるようになってから現在までのキャリアを教えてください。

1985年4月に株式会社CSK(現SCSK株式会社、以下CSK)に入社しました。学生時代の専攻は機械工学だったのですが、ビデオゲームのグラフィックが好きだったので、当時、株式会社セガを買収したCSKグループに入ればゲームの仕事に関われるのではと思い、この会社を選びました。

でも、配属はソフトウェアテストの部署で、すぐにあるメーカーのテスト業務に従事することに。このクライアント企業はテスト実行のためのフレームワークがしっかりと用意されていたため、基本的にはそれに従ってテストをしていました。実は当時、そのような会社は珍しかったのです。

1990年代に入ると、米マイクロソフトや米IBM、米オラクルをはじめ外資IT企業が日本市場でソフトウェア製品を本格的に販売することになります。ただし、日本ではそもそもソフトウェアテストを専門とするカテゴリが無かったため、技術者が集まらなかったこともあり、製品をテストする受託案件がCSKに数多く舞い込みました。その頃の私の役割は、各プロダクトチームのマネジメント業務が中心でしたので、メンバーと共にさまざまなソフトウェア製品の品質保証に携わりました。ほとんどの大手パッケージベンダーと取引があったと思いますよ。

そして、2001年にベリサーブが設立されると、現場業務よりも主にテスト業界に関する普及・啓発活動に注力するようになります。例えば、「JaSSTソフトウェアテストシンポジウム」のようなコミュニティーの活動に積極的に参加しました。その他にも JSTQB(Japan Software Testing Qualifications Board)の技術委員会委員長や、日本科学技術連盟のODC分析研究会運営委員長等を歴任して今に至ります。

携帯電話の普及で日本にもテストが根付く

——業界のこれまでを振り返り、QA・テストの在り方はどのように変化していきましたか?

私が社会人になった1980年代当時、メーカーがテスト業務を外部委託する発想は皆無で、営業をかけても1件も案件を獲得できないことなどザラにありました。とはいえ一応、テスト業務自体は存在していて、ソフトウェア開発者自身によって行われていました。そうすると何が起きるか。どのようなテストを実施したかというエビデンスがほとんど残らないため、バグが発生した時の手戻り作業が大変でした。

ただし、それは日本企業のケースであって、外資系企業ではテスト業務のアウトソーシングが当たり前のように行われていました。ですから先ほどお話ししたように、90年代半ば以降はこうした外資系の案件が増え、それが日本のテスト市場全体を押し上げることとなりました。

日本でテスト業務が根付くことになったきっかけは、携帯電話の登場および普及です。象徴的だったのはNTTドコモの「iモード」。これ以降、組み込みソフトウェアが増加し、そのための動作確認などが必要になりました。結果、日本のテスト市場も加速度的に急拡大しました。この時はとにかく人手不足で、技術やスキルがなくても頭数をそろえるために大量のテスターを各社採用していましたね。

“バブル”がひと段落すると、QA・テスト人材の価値向上が業界全体の課題として浮き彫りになりました。価値が低いと見られていた結果、案件の単価も低かったわけです。それを払拭するために、テスト技術の確立や、標準作りなどが業界団体を中心に進められました。もちろん、私も当事者として普及にコミットしました。

価値向上に伴い、テスト業務の必要性は日本企業においても認知が徐々に進みました。また、今やIT機器でも家電でも製品単独で動くものはほとんどなく、ソフトウェアの比率が高くなっていることも大きいでしょう。従って、ソフトウェアテストは当たり前に必要なものであり、専門的な企業に任せた方がいいという認識は広まっていると言えます。

——QA・テストエンジニアのスキル面などで大きく変わった点はありますか?

共通言語が確立され、定着したことがエポックメーキングだと考えています。以前はエンジニア、発注者など、人によって使う用語がバラバラで、コミュニケーションがスムーズにいかないことが多かったです。非効率であり、それに起因するミスなども多発していました。例えば、テスト業務についてデバッグ作業までしてくれるのは当たり前だと思っていた顧客がいたほどです。

共通言語がないことの課題については、私も身をもって経験しました。ベリサーブが東京大学と共同研究を始めたとき、最初に担当教授に指摘されたのが、QA・テストに携わる人たちに共通する言葉がないこと。「これではダメだ」と、一つ一つの用語の定義を明確にするよう強く言われました。

そこでまずはベリサーブで用語の定義を作り上げていくとともに、業界団体でも標準化を進めていきました。JSTQBの認定テスト技術者資格試験等もそこに寄与しています。十数年がたち、今では新人でもベテランでも同じ言語でコミュニケーションを取ることができ、業務面での効率化などが図られました。

品質とは文化である

——一方、課題に感じていることは?

これはテスト技術者だけではなく、日本のIT系エンジニア全般に言えることですが、アーキテクチャに対する理解が低いことを懸念しています。

原因の一つは、日本ではIT領域を水平展開して、例えば設計者、プログラマーのように役割を分けて、その専門スキルしか教えてこなかった点にあると思います。工場のライン業務と似ていて、分業制になっているのです。その背景にはITを「デザイン」するのではなく、「製造」するという考えがあったからでしょう。いずれにせよ、このようにバラバラに分割して専門領域化したため、各エンジニアからはソフトウェアの全体構造が見えにくくなってしまったわけです。

——顧客の求める品質がどんどん高まる中、専門企業としてベリサーブでは今後どう担保していくべきでしょうか?

まず、品質とは文化であり、必ずしも機能が豊富なものが高品質とは言えないと私は考えています。日本企業はよく製品を作る際に松竹梅の3パターンの商品をラインナップして、ハイクラスの製品にはふんだんに機能を盛り込みます。日本の消費者も”いつか使うだろう”と高価で機能も多い製品の方が安心するし、それを求めるという側面がある。他方、米国などでは価格に見合った品質で十分だと考える傾向にあります。例えば、100ドルのプリンターだと、最低限印刷さえできれば顧客は納得します。

また、これは実際に私自身が体験したことですが、海外のソフトウェアを日本でローカライズした際、一部が文字化けしていたり、表示が崩れていたりする事案が発生しました。日本人としてはあり得ないと思うでしょうが、そのことを米国の担当者に伝えたところ、問題ないと取り合ってくれませんでした。取り扱った製品はエンジニアが利用するものであり、文字が多少化けていても業務には影響ないし、それ以上にこれからリリースするバージョンにはメリットをもたらす機能がサービスに織り込まれているわけだから、軽微な修正に注力するよりそちらを売り込んだほうがユーザーは喜ぶという説明でした。利用するユーザーのコンテキスト次第になりますが、その話を聞いて、確かにそうだなと納得しましたし、QA・テストの仕事はこうしたビジネス感覚も必要になるのだと再認識しました。

品質に関してもう一つ。これは主観ですが、ベリサーブ固有の品質という概念はないと思います。顧客のビジネスモデルに対して私たちが作ったもの、もしくは活動が良いと評価されれば、それは良い品質だからです。他社との比較ではなく、ベストプラクティスを提供し続けることが自分たちのポリシーだと考えています。

裏を返せば、顧客が求める品質を提供できなければ、2度とその業界では仕事が得られなくなるでしょう。「ベリサーブに頼むよりも、自分たちでやった方がいいや」と思われたらおしまい。常にお客さんの期待を上回る水準を提供するべきだと肝に銘じています。

株式会社ベリサーブ品質保証部 技術フェロー佐々木方規さん

1985年CSK(現SCSK)に入社。組み込み機器からOS、グループウェア、データベースおよびデータベースデベロッパーソフトウェアなどのテスト実行/テストマネジメントを実施。1994年から開始したシステムテスト理論の研究を通じ、2004年にはテスト技術の研究開発/推進部門を設立し、R&D専任となる。品質マネジメント、ソフトウェア品質のコミュニティ活動やソフトウェア品質のキャリア人材育成などを主な責務として現在に至る。JSTQB認定テスト技術者資格 技術委員会 委員長、NPO法人ソフトウェアテスト技術者振興協会 理事、SQiP研究会 ODC分析研究会 運営委員会 委員長など。ソフトウェアテスト教科書 JSTQB Foundation 共著(翔泳社)、ソフトウェア不具合改善手法 ODC分析工程の「質」を可視化する 共著(日科技連出版)など。

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