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ウォークスルーとは?他のレビュー手法との違いやメリット・デメリットを解説

目次
この記事では、レビュー手法の一つであるウォークスルーについて、他のレビューとの違いやメリット・デメリット、やり方などを解説しています。また、ウォークスルーを成功させるための工夫や実例を交えて紹介します。
レビューとは
ソフトウェア開発におけるレビューとは、開発工程全般において関係者が集まり、成果物の内容を確認・評価し、意見交換や承認を行うプロセスです。
JSTQBでは、レビューは「静的テスト」の一種とされており、プログラムやシステムを動かさずに、文書や設計などの成果物を検証する手法として位置付けられています。
ウォークスルーとは
ウォークスルー(Walk through)とは、作成者が自ら設計書・仕様書・ソースコードなどの成果物について関係者に説明し、フィードバックを受けるレビュー手法の一つです。
レビュー対象における誤りの早期発見を目的としており、事前に日程を定めることなく、必要に応じて柔軟に実施できます。
複数人による意見交換を通じて進行する対話形式のため、認識のずれに早期に気付ける他、ナレッジ共有や教育の機会としても有効です。
特に、設計や仕様の初期段階に適しており、「この方向性で問題ないか?」といった確認に役立ちます。レビューを通じてドキュメントの品質が向上するだけでなく、手戻りの防止や、チーム内の認識共有にもつながります。
ウォークスルーと他のレビューの違い
レビューはその目的に合わせて、いくつかの形式があり、その代表的なものを以下に記載します。
ウォークスルーは、ドキュメントレビューにおいて広く利用されている手法の一つです。
種類 | 概要 |
---|---|
非形式レビュー |
※パスアラウンド、ペアレビューなどもここに含まれる |
ウォークスルー |
|
テクニカル |
|
インスペクション |
|
※上記以外にもマネジメントレビューや、監査レビューなどもありますが、今回は、開発メンバーが主体となって実施するものに焦点を当てています。
ウォークスルーのメリット・デメリット
レビューは、レビュー対象となる成果物において誤りの発見を主な目的としていますが、対話と合意形成を重視するウォークスルーでは、特に以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- ドキュメントの誤りだけではなく、認識のずれや矛盾を早期に発見できる
- チーム内の知識共有が進み、属人化の防止につながる
- 内容の具体性が増すことであいまいな箇所が減り、ドキュメントの品質が向上する
- 対話を通じてチーム内のコミュニケーションが活性化する
デメリット
- 一方的な仕様説明になってしまうことがある
- 発言しやすい雰囲気が作れないと、期待する効果が得られない
- 記録とフォローアップのためのリソース(人と時間)が必要
デメリットは、後述でご紹介する“進め方”や“成功の工夫”によって改善が可能です。
ウォークスルーの進め方(やり方)
ウォークスルーの具体的な進め方についてステップごとにご紹介します。
事前準備
目的の明確化とレビューワの選定
レビューの目的を明確にし、 “仕様に漏れが無いか”、“設計は妥当か”、“使いやすい機能か”などの確認したい観点に応じて、適切なレビューワを選定します。 活発な意見交換を促すために、必要に応じて管理者(PM、人事評価者)をあえて招かないケースもあります。推奨されるグループサイズは最大で7名程度です。
開催案内と資料の事前配布
対象物のボリュームにもよりますが、レビューの数日前には開催案内と併せて資料を共有しておくと、当日の議論がスムーズに進みます。
※成果物そのものだけではなく、背景や概要を説明した補足資料を事前配布しておくと、レビューワ全員が、同じベースラインに立つことができ、活発な意見が引き出せます。
ボリュームが多い場合は、区切りのよい単位で分割するなどの工夫を検討します。長くても1時間以内に収めるのが理想です。
レビュー開始(ウォークスルー)
作成者が資料を読み上げながら説明し、その場でレビューワからの質問や指摘を受け付ける形式が一般的です。
双方向のコミュニケーションを意識し、発言しやすい雰囲気をつくることが重要です。章ごとに質問タイムを設けると、議論が活性化しやすくなります。 話が深まり過ぎた議論になりそうな場合は、一旦区切りを付け、宿題事項として持ち帰ります。
Webミーティングの場合は、チャット機能やリアクションを活用すると、「気軽に話せる」雰囲気づくりに役立ち、建設的な意見交換がしやすくなります。
指摘事項、コメントの記録
※ウォークスルーでは、正式な議事録は必須ではありませんが、指摘事項や決定事項などの記録は必要です。
結果があいまいなまま終了することを防ぐためにも、指摘事項や意見は、リアルタイムで記録します。 作成者が書記を兼任することもありますが、別のメンバーが担当すると進行がスムーズです。
最近では、共同編集が可能なドキュメントツールを活用し、全員で書き込みながら進める方法も一般的です。さらに、オンラインミーティングツールの記録機能や自動議事録作成機能を併用することで、議事録作成の手間を軽減し、記録の補助として活用することもできます。
最終確認
レビューの最後に、指摘事項や決定事項について参加者全員で確認を行い、認識のずれがないようにします。
レビュー後の対応
修正対応
作成者は、レビューでの指摘事項を基に修正・反映を行います。大きな変更が発生した場合は、再度ウォークスルーを実施することもありますが、軽微な修正であれば机上レビューで対応可能です。
修正版の展開
修正対応が一通り完了したタイミングで、関係者に修正版を共有します。指摘リストにステータス欄を設けておくと、そのまま記録として活用ができます。
振り返り・改善
必要に応じて、レビューのメトリクス集計や振り返りを実施し、次回以降の改善につなげます。
ウォークスルー成功の工夫
ウォークスルーを効果的に行うためには、ちょっとしたコツや工夫が有効です。
以下に、実践的なポイントを紹介します。これらを意識することで、一方的な説明会となってしまうケースを防ぎ、対話型のレビューが実現できます。
心理的安全性を意識し、対話を重視する
お互いの理解を深めることを目的として、質問や意見が出やすい、安心できる雰囲気づくりを心掛けるよう促します。 間違い探しに終始するのではなく、「仕様の意図」に注目することで、より本質的な理解が深まり、建設的な会話が生まれやすくなります。
質問や誤りをネガティブに捉えず、受け入れる姿勢を持つことが大切です。これはウォークスルーに限らず、チーム全体の健全な文化形成にもつながります。
参加者のベースラインを事前にそろえる
参加者が同じ理解レベル(ベースライン)に立っていると、より活発で有意義な意見交換が可能になります。 そのため、事前に概要や観点をまとめた資料を展開、説明しておくと効果的です。
進行サポート役を事前に依頼しておく
ウォークスルーでは通常モデレータを置かず、作成者が進行を担いますが、当事者のため、議論が深まり過ぎた際に話を切り上げるのが難しいこともあります。
特に作成者がレビューに不慣れな場合や若手メンバーである場合は、レビュー経験のあるメンバーや書記役に、さりげなくファシリテーションのサポートを依頼しておくことも効果的です。
オンラインレビューでの実践例(チームでの工夫)
筆者のチームでは、オンラインでレビューを行う際、章や節などの区切りごとに「質問タイム」を設けています。その際、「thinking time」として、PC上のタイマーを画面共有しながらBGMを流す工夫を取り入れています。
これは「考える時間が欲しい」、「沈黙の時間が気まずい」という声から始まった取り組みですが、リラックスした空気が生まれやすく、参加者が落ち着いて考え、発言しやすくなる効果がありました。
また、指摘や質問だけでなく、「ここは分かりやすかった」などのポジティブなコメント(褒め言葉)も積極的に発信し、記録にも残すようにしています。
こうした姿勢が、前向きで開かれたレビュー文化の定着につながっています。
レビューでのメトリクス
ウォークスルーがある程度定着してきたら、その効果の可視化と、改善のために、メトリクスを収集した評価も有効です。
特にレビューのメトリクスは、Excelやスプレッドシートなどの指摘リストのフォーマットに組み込むのみで自動的に収集できるものが多く、分析コストもかからないため、非常にお勧めです。
レビューメトリクスもさまざまな種類があります。ウォークスルーでも取り入れやすいものを以下にご紹介します。
プロダクトメトリクス (製品の品質を測定)
- 指摘の数・重要度
レビューで発生された指摘の数と、その重要度を記録します。 - 成果物サイズ
ドキュメントのページ数や、ソースコードであれば行数などが該当します。
- 誤り密度
指摘の数と成果物サイズから算出可能です。
プロセスメトリクス(プロセス活動の品質を測定)
- レビュー実施時間・準備時間
レビューにかかった時間や、事前準備に要した時間を記録します。 - 欠陥検出効率
発見欠陥数をレビュー工数や時間で割った値です。投入リソースに対する成果を図ります。効率には重要度も加味して評価するとよいでしょう。
例えば、検出効率が良かったとしても、それが誤記ばかりであれば、別の手段での改善アプローチも可能となります。
QA視点で見るウォークスルー
筆者は現在、QAやPMOとして開発プロジェクトに携わっています。その中で多くの不具合の原因が、実装ミスではなく「仕様の考慮漏れ」や「認識の齟齬」といった、開発初期のミスコミュニケーションによるものであると実感しています。これらが引き起こす手戻りは、プロジェクトに大きな影響を及ぼします。
そのような認識のズレを未然に防ぐ手段として、ウォークスルーは非常に効果的です。
「テストでバグを見つける」よりも、「作る段階でズレを正す」ことでのシフトレフト効果、そしてチーム全体の前向きな雰囲気づくりにもつながります。
うまく活用することで、レビューが単なるチェック作業ではなく、メンバー間の対話の場となり、チームビルディングの一環としても機能します。
また、現場ではQAがテスト設計以降のフェーズから関与し、「バグを見つける人」として開発者と対立関係になってしまうケースも残念ながら少なくはありません。
しかし、QAが要件定義や設計といった初期フェーズからウォークスルーに参加することで、「品質を共に作るパートナー」としての立ち位置が自然と定着し、チーム内の関係性もより良好なものになります。
QAが早期から関与することで、以下のようなメリットが得られます。
- 要件や設計の段階で矛盾・漏れ・不整合を早期に発見し、バグの発生を未然に防げる
- 仕様の背景や意図を深く理解することで、より効果的かつ実践的なテストシナリオを設計できる
ウォークスルーを通じてQAが初期段階から開発に関わることは、品質の向上だけでなく、チーム全体の認識の統一や信頼関係の構築にも大きく貢献できると考えています。
準備も少なく気軽に開始できるウォークスルー、ぜひ取り入れていただければと思います。
■参考文献■
- JIS X 20246:2021(ISO/IEC 20246:2017)
- ソフトウェア品質知識体系ガイド – SQuBOK Guide V3- 第三版
- ISTQBテスト技術者資格制度 Foundation Level シラバス 日本語版 Version 2018.J03
- ISTQB® テスト技術者資格制度 Advanced Level シラバス 日本語版 テストマネージャ Version 2012.J03
- IEEE Std 1028-2008(2025年5月時点でStatus: Inactive-Reserved)
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