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【連載】概念モデリングを習得しよう:概念情報モデルと圏Iのモデルとの関係(第14回)

【連載】概念モデリングを習得しよう:概念情報モデルと圏Iのモデルとの関係(第14回)

【前回の連載記事はこちら】
【連載】概念モデリングを習得しよう:“is-a”リレーションシップと特徴値による意味の厳密化(第13回)

読者の皆さん、こんにちは。Knowledge & Experience 代表の太田 寛です。

この連載コラムでは概念モデリングの解説を行っています。

今回は、概念情報モデルと圏Iのモデルとの関係について解説します。

概念情報モデルと圏Iのモデルとの関係

概念情報モデルは、数学的な観点からみると、圏I のモデルとはまた別の圏を成すと考えられます。ここでは、概念情報モデルの圏を、圏C と呼ぶことにします。

圏論の用語を使うと、圏C は圏I と圏同値な関係にあると言えます。圏Cは、圏Iを抽象化した圏であり、圏Iを構成する概念を成り立たせる根本の枠組み、つまり「理念」に相当します。意味的な根本の枠組みのことをスキーマと一般的に称するので、以降、圏Cは圏Iを規定するスキーマ圏であると呼ぶこともできます。圏同値については、第5回目の記事で説明しているので復習してみてください。また、“圏論の道案内”の第三章①関手の定義のP67に詳しい解説があるので読んでみてください。

以上のことから、概念情報モデルが、意味の場に対する認識の基盤であることが、数学的にも言えたことになります。

モデル化対象の変化に応じて、その時々で千変万化に変化し、かつ可能性としては無限の規模を持つ圏I のモデルとは異なり、認識の基盤である概念情報モデルは変化しづらく、かつ有限のモデルになります。

ここで今一度、概念情報モデルを構成する基本要素を、モデル化対象の意味の場との関連も交えて、おさらいしておきます。

  • 概念クラス
    >意味の場に在る事柄の分類
  • 特徴値 ― 概念クラスにひも付き、データ型で値が制約される
    >意味の場に在る事柄の性質の一面を記述する値の分類
  • リレーションシップ ― 二つの概念クラスをつなぎ、両端に多重度と意味を持つ
    >意味の場に在る事柄間の意味的なつながりの分類
  • データ型
    >意味の場にある事柄の性質の一面を記述する値の制約

日常の会話や文章において、それに含まれる単語が、個々の事柄を指すのか、事柄の概念(分類)を指すのか、大体曖昧です。例えば、

“犬はかわいい”

という文章の場合、定冠詞がない日本語の場合は特に、実際に誰かが飼っている特定の犬がかわいいのか、一般的に犬というものはかわいいと言っているのか、この文章では判断が付かず、どちらでも解釈が可能です。

第4回の記事で、言語を前提とした人間の思考の基本は、

  • 事柄
  • 事柄の特徴
  • 事柄の間の意味的なつながり

であると解説しましたが、この3つの文章もまた同様で、

  • 事柄 ⇒ 概念クラス
  • 事柄の特徴 ⇒ 特徴値
  • 事柄の間の意味的なつながり ⇒ リレーションシップ

と、概念情報モデルの基本要素を対応付けても問題ないでしょう。

概念情報モデル(圏C)は、圏Iのモデルのスキーマ圏であり、より意味・概念の本質を記述しているのですから、概念情報モデルが思考の基本と同型であるのは、むしろ当然のことと言えるでしょう。

概念情報モデルは、無限に存在し得る対象の意味の場の状態全てを包含します。有限の内容しか持たない概念情報モデルから、無限に変化し得る圏Iのモデルを導出・包含できると言うのはちょっと不思議な気がします。しかし概念情報モデルが、言語による人間の思考と同型であることを考えれば、日本語(英語でもよいですが)で文章を作るとき、語彙と文法は有限であるにもかかわらず、無限の文章を紡ぎ出せるのと同じ、何ら不思議なことはありません。

また、ウィトゲンシュタインの言語哲学における、

単語の意味は言語が構成する論理空間全体において確定する

ことを踏まえると、

意味の場を通じて認識した現実世界=論理空間

であることになります。それを踏まえれば、

概念情報モデル=意味の場(=論理空間)のスキーマ

であると言えるでしょう。以前の記事で、概念モデリングを始める時点では、意味の場の説明は数行の簡潔なテキストで構わないと説明しました。なぜなら、意味の場を明確に記述していく作業こそが概念モデリングだからです。

結果として、意味の場を通じて認識した現実世界を構成する存在の、根本的な枠組みを記述する概念情報モデルは、

意味の場の厳密な定義=概念情報モデル

ということになります。概念情報モデルで厳密に記述された意味の場、より正確に言えば、意味の場のスキーマのことを、概念モデリングでは、“概念ドメイン(Conceptual Domain)”と呼ぶことにします。

この連載コラムでは既に“ドメイン”という言葉が使われていますが、上の定義を持つ概念ドメインを正式名とします。

ここまでの説明で、モデル化対象の、意味の場を通じて認識した現実世界を構成する存在の、根本的な枠組みを記述するための道具が一通りそろいました。

  • 概念ドメイン ― 意味の場のスキーマ
    >概念クラス ― 事柄の分類
     ▶特徴値 ― 事柄の性質の分類
    >リレーションシップ ― 事柄間の意味的なつながりの分類
    >データ型 ― 特徴値のデータ型の分類

この基本構成が守られていれば、モデルの記述は図でもテキストでも構いません。

概念モデリングにおいては、概念情報モデルを基盤として、対象世界の動的な振る舞いを記述する概念振る舞いモデルを作成します。概念振る舞いモデルは、後ほど詳しく解説するのでお楽しみに。

次回は、ソフトウェアの設計・開発における概念情報モデルの利用についてご紹介します。

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