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【連載】品質をめぐる冒険: ケアコム・鈴木孝一氏「品質とは人間力なり」

株式会社ケアコム取締役 品質管理機能/医療機器ビジネス機能主担当鈴木孝一さん

幾徳工業大学(現:神奈川工科大学)卒業。建設設備、事務機器業界勤務を経て、2009年に株式会社ケアコム入社、品質管理部配属。2017年に品質管理機能/医療機器ビジネス機能主担当取締役、現在に至る。個人情報保護管理者、各マネジメントシステムエレメント管理責任者、お客様接点活動に関する価値共創推進に従事中。

お客様に鍛えられ、自らを律する

――まずは会社概要について教えてください。

ケアコムグループは、ナースコール・緊急通報システム機器の企画、製造販売業を基本とし、お客様との継続した価値共創を行動原理に据え、ソリューション事業、地域医療・介護連携システム&コンサル事業、サービス事業等を関連多角化事業として展開する企業集団です。

大きくは、ナースコールシステムやベッドサイドソリューション全般を提供する株式会社ケアコム、総合医療介護連携システムなどを推進する株式会社ヘルスケアリレイションズ、療養環境の調査・研究・提言などを行う株式会社ケア環境研究所という三つの法人組織の集合体です。

通信技術を強みとする拡張性高いシステム連携サービスを基幹技術に据え、健康・生きがいなど、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)ニーズ全般を対象市場としています。

――鈴木さんが品質管理や品質保証に関わるようになったきっかけは?

前職は事務機器関連メーカーに在籍していました。エンジニアから技術営業を経て、2000年に品質保証部門へ部署異動となりました。以来、2009年にケアコムに転職してからもずっとグループ全体の品質管理を担当しています。

当グループの品質管理・品質保証の基本的な考え方は、モノ品質だけではなく、コト品質、さらには言動・行動品質(モラル的側面を含む)までを管理対象としていることです。今やChat GPTなど生成AIの登場によってさまざまな業務において効率的活用が広がっていますが、だからこそ人間系感性を品質管理・品質保証の主要となる特性の一つとして捉えることを重要視しているのです。

――具体的にどういうことを取り組みとして進めていますか?

『2030年の品質保証』(著:IoT時代の品質保証研究会、監修:中部品質管理協会)という書籍の中では「人間中心の経営」と書かれています。あらゆるものが新たな情報テクノロジーに取って代わられるけれども、何かを想像するという領域は現状コンピュータ系では困難なため、人間中心の経営が標榜されているわけです。このことはまさに当社に当てはまります。

人間は判断を間違うこともありますが、その判断の誤りを「間違った」と素直に言え、かつ、その感覚を次に生かし切る企業文化が当社にはあります。失敗を明示することによって企業の土台が強くなっていくことを実感しているからこそ、人間そのものの品質を重視しているのです。まさに経験から学ぶ、です。

この考え方を確実に実行に移すため、主に以下の施策を展開しています。

  1. お客様価値共創を品質経営&開発コアプロセスとするための新企業理念発出
  2. お客様接点品質良化のための共創宣言書リリース&ホームページ公開
  3. 経営目標を達成し続けるための行動/判断基準上位方針化
  4. ワークライフバランス最適化のためのフラット組織化、新たな勤務配置方式、在宅勤務&スーパーフレックス制度
  5. ケアコムグループ農園展開
  6. お客様価値共創思考力を強化し行動を目標化できるラダー制度

これら改革施策を継続運用し、価値共創成果、すなわち、お客様生涯価値向上に努力し続けています。

――こうしたことは昔から行っているのでしょうか?

ケアコムは創業70周年を迎えますが、従前より品質第一主義は徹底されていたようです。ただし、どちらかと言えばモノ品質に特化していたように思いますし、人間系の相互成長という概念が弱かったように感じています。

時代によって品質管理・品質保証定義、そして目指すべきコト、大切にするべきコトの本質は変化していきます。

そのような環境変化、お客様の思いを的確に捉えるべく、モノコト品質、人間品質という風に企業風土変革に関係者全員で努力してきました。お客様のあらゆるお困りごとの実態を「見える化」するだけではなく、そこからさまざまな情報加工・仮説検証を施し、「使える化」にシンカ(進化、深化、新化)させようと。その次フェーズには、お客様と私たちが「そうだったのか!(そうだったの化)」と相互納得するような形にすることで、価値共創実態を明示する。このプロセスサイクルが私たちケアコムグループの存在価値だと考えています。

――その品質を高めていくために、会社としてどういった仕組みを設けているのでしょうか?

当社には品質保証を含めた品質管理部門があって、品質管理メンバーも目標管理を通して品質遂行責任を持ちます。全社員、人間系品質を重視する関係上、緊張感を持って思考を張り巡らす、これこそ成長を促すには必須要件となります。当社は間接部門だろうが直接部門だろうが、責任もそれ相応に案分するという考え方を持っているからです。人間力を育てる組織文化というのは、そういうことなのだろうなと実感しています。

もう一つ、品質を高めてくださるのはお客様、つまり病院、福祉関連施設、そこに至る流通関係者、さらに言えば健康を標榜する全ての個人です。医療・福祉・健康に携わっている方々はさまざまなご意見、ご要望をお持ちですし、これは生きることの本質ですから当然です。対応シーンによっては強いご指摘を頂戴する場合もあります。ですから、会社がこと細かに教育をしなくてもお客様から自然と鍛えられます。その結果、自ら行動検証ができ、経験が積み上げられ、それが自信や面白みとなり、自らを律していくことができるのです。

QOLに関係するもの全てがターゲット市場

――日本科学技術連盟が主催する「企業の品質経営度調査」において、2022年と2024年に連続で最高評価を得ました。この結果についてどう見ていますか?

この調査には2014年から参加していて、最初は81位でした。その後、2016年は32位、2018年が15位。そして2022年の調査から評価方法が変わり、ランキング方式から格付け方式になりました。格付け方式に変わった初年度に「5つ星」評価を頂いたのです、正直大変驚きました。そして昨年2024年第12回調査においても2調査機会連続で「5つ星」評価を得ることができました。

要因の一つとして考えているのは、私たちの市場定義を明確にしたことではないでしょうか。一般的には病院系・福祉介護系システム提供プロセスそのものが市場だと考えがちですが、私たちがターゲットとしているのは「QOL」です。QOLに関係する事象全てが私たちの対象市場だと定義し、極論すれば生きること、健康を維持向上するべきことは全て対象市場だと捉えています。従って、「お客様」というのは取引先だけではなく従業員やその家族、ビジネスに関係する全ての方々が対象になりますし、結果としてそうした発想が評価されたのだと思います。

――このような外部評価を得ることで、社員のモチベーションは変わりましたか?

良くなりましたね。過去には品質管理に対する当事者意識が全社的にやや弱いと感じたこともありました。ところが、こうした調査結果が新聞などに掲載されるとお客様から「あなたの会社が出ているけれど、これはどういうもの?」などと担当者に聞いてくださるので、一人一人が自然に自分事として自覚するようになるわけです。

この調査はケアコム経営陣もそれぞれに重視しています。調査票の記述内容には社長をはじめ役員が全て目を通す、それぞれの立場から内容を精査し、経営陣間でコミットメントされたものを提出しています。

一人一人が会社の品質保証

――改めて、「品質」とは何でしょうか?

人を育てないと、ものの良しあしは判断できないし、計測もできません。繰り返しになりますが、ケアコムグループの品質とはズバリ「人間力」です。そして人間力を育てるためには、言い方は良くないかもしれませんが、アメとムチが必要。そういうもので経験というn数を増やしていき、真にお客様に寄り添える、豊かな感性が育まれていくのです。

――もう少し具体的に、その人間力とは会社にどういった効果をもたらしているのですか?

ポジティブに言えば、個人商店化していく状態です。当社はフラットな組織で、基本的には間接部門を除き、機能別部門というものがありません。一般的に組織変更する度に業務スラックが生じ、そのための改善が必要になります。要するに、ネガティブな改善、やらなくてもいいようなことが発生するわけです。それを避けるためにも組織を全部フラットにして、業務単位、製品単位でタスクを組んでいます。現在、全国にオフィスが分散していますが、例えば北海道地区のオフィスにいる人たちが、他の地域メンバーとタスクチームを組むことなどはよくあります。

可能な限り組織をフラット化し、かつ上司と部下という立場の概念を撤廃させた時に、例えばAさんとBさんのコミュニケーションは「価値共創」という言葉だけで成り立ちます。理由は志向対象がお客様の課題そのものだからです。そうすると人間の五感から来るコンフリクトなどのネガティブな感情が生まれにくくなるのです。

マネジメントをする集合体としての会社は存在するわけですが、社員一人一人が会社の品質保証を担うのだということです。だからこそ、当社の品質とは「人間力」だと言い切れるのです。

――ありがとうございました。

株式会社ケアコム取締役 品質管理機能/医療機器ビジネス機能主担当鈴木孝一さん

幾徳工業大学(現:神奈川工科大学)卒業。建設設備、事務機器業界勤務を経て、2009年に株式会社ケアコム入社、品質管理部配属。2017年に品質管理機能/医療機器ビジネス機能主担当取締役、現在に至る。個人情報保護管理者、各マネジメントシステムエレメント管理責任者、お客様接点活動に関する価値共創推進に従事中。

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