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汎用人工知能(AGI)とは?定義やシンギュラリティとの関係、具体例など紹介

汎用人工知能(AGI)とは?定義やシンギュラリティとの関係、具体例など紹介

現在、人工知能は文章生成や画像・動画生成、対話など多くの場面で使われるようになりました。

その先に注目されているのが「汎用人工知能(AGI)」です。人間のように幅広い課題をこなし、未知の状況にも対応できる存在として研究開発が進められています。実現すれば社会や産業に大きな変化をもたらすと考えられており、定義や現状、実現の見通しから社会的影響、シンギュラリティとの関係まで、多方面から議論されています。

この記事では、こうしたAGIに関する主要なポイントを整理して解説します。

汎用人工知能(AGI)の定義

人工知能はすでに検索支援や文章生成、画像処理など、生活や仕事のさまざまな場面に入り込んでいます。その先にある概念が「汎用人工知能(AGI)」です。

ここでは基本的な意味と生成AIとの違いを解説します。

用語解説

汎用人工知能は英語で「Artificial General Intelligence」と表記され、略して「AGI」と呼ばれます。日本語では「汎用人工知能」や「汎用型AI」と訳されています。 

AGIは人間並みの知能を持ち、状況や文脈を問わず多様な課題に柔軟に対応できる人工知能のことを指します。未知の問題や新しい環境に直面しても、人間のように判断し、解決策を導き出せる存在になるものと期待されています。

対比されるのが「特化型人工知能(Narrow AI、弱いAI)」で、これは音声認識や画像生成のように特定の目的に限って力を発揮します。

関連語として「強いAI(Strong AI)」があり、AGIとほぼ同じ意味で使われることもあります(図1)。

図1:強いAIと弱いAIのイメージ(DALL-E-3で生成)
図1:強いAIと弱いAIのイメージ(DALL-E-3で生成)

ChatGPTのような生成AIは「特化型人工知能」の一種に位置付けられます。高度な自然言語処理や文章生成の能力を持つ一方で、人間のような知能を持っているわけではありません。

つまり、ChatGPTが巧みに会話をこなし多様な文を書き分けられるとしても、抽象的な思考や未知の課題に柔軟に取り組む力までは備わっていないのが現状です。

また、生成AIは大規模言語モデル(LLM)や拡散モデルを基盤とし、膨大なデータから学習してテキストや画像を生成します。

ただし、その推論の範囲は訓練データの分布に縛られています。これに対してAGIは、以下のような能力を統合的に持つだろうと想定されています。 

項目

生成AI(例:ChatGPT)

汎用人工知能(AGI)

主な役割

テキストや画像の生成

多様な課題の解決・意思決定

学習の基盤

大量の既存データ

経験や環境からの継続的学習

未知課題への対応

限定的

高い柔軟性

実現段階

すでに社会実装

研究段階、未実現

このように生成AIとAGIの間には明確な違いがあります。2025年10月現在、AGIはまだ実現していませんが、生成AIの進展がその基盤を作りつつあります。

汎用人工知能(AGI)の特性・実現できること

AGIが注目されるのは、現在の人工知能にはない「汎用性」と「自己進化力」を持つと期待されているからです。 

ここではその特性と、実現した場合に可能になるだろうとされていることを解説します。

AGIの特性

大きな特性は、一つの分野に限られない知能を持つことです。文章の理解や計算だけでなく、状況を見て判断したり人とのやり取りを通じて考えを深めたりと、さまざまな分野をまたいで力を発揮できるとされています。

次に、新しい状況への対応力です。今のAIは学習した範囲において能力を発揮できますが、全く未知の課題に直面すると弱さが出ます。一方、AGIは学んだ知識を応用して、初めて与えられた課題にも柔軟に取り組めるだろうと考えられています。

さらに、自らで目標を立てて学びを続ける力も特徴に挙げられます。単に与えられたタスクをこなすだけでなく、長期的なゴールを考え、経験を踏まえてやり方を改良していく点が従来のAIとは異なります。

AGIが実現できること

AGIが実現すれば、社会の幅広い影響を与えます(図2)。 

例えば、医療では一人一人の体質や症状に合わせた診断や治療法を導くことが可能になるかことが予想されます。製造業では、工場のトラブルを技術面と経営面の両方から分析し、効率と品質を同時に高めるような判断が期待されます。

教育の分野でも、学ぶ人の理解度や進度に合わせた指導がしやすくなり、個別に最適化された学習が進む可能性があります。

さらに、人の感情や価値観を理解しながら対話を支援するなど、人間に寄り添った関わり方ができるだろうとも考えられています。

図2:AIの進化イメージ(DALL-E-3で生成)
図2:AIの進化イメージ(DALL-E-3で生成)

汎用人工知能(AGI)の現状

2025年現在、AGIはまだ実現されていませんが、各国の研究機関や企業がロードマップを公表し、その技術開発は着実に進んでいます。

OpenAIは「Planning for AGI and Beyond」というメッセージの中で、AGIは段階的に到来し、人間による監督と安全性の確保が不可欠であると強調しています。同社はGPTシリーズを基盤に、次世代モデルの開発と同時にアラインメント(人間の価値観との整合性)のための研究を進めています。 

Google DeepMindも「Gemini」プロジェクトを通じてマルチタスク学習を強化しており、CEOのデミス・ハサビス氏は「2030年前後のAGI登場」に言及しています。一方で、Metaは数兆円規模の投資を掲げ、AGIを超える「スーパーインテリジェンス」まで視野に入れた研究を打ち出しました。

市場規模も拡大しています。スタンフォード大学のAI Index 2025によれば、2024年の世界における民間のAI投資額は339億ドルに達し、前年比18.7%増と報告されています。

さらに、新しい知能評価ベンチマーク(ARC-AGI-2、AGITBなど)の登場により、AIが汎用的知能に近づいているかを測る枠組み作りも進んでいます。 

総じて、AGIに対する研究・投資・評価の面で進展が目立ち、社会的議論も深まっている段階であると言えます。

汎用人工知能(AGI)はいつ実現する?

AGIがいつ実現するのかは、研究者や企業の間で意見が大きく分かれています。

研究者アンケートでは2040年代を一つの目安とする回答が多い一方で、企業経営者の中にはより早い時期を示す人もおり、DeepMindのデミス・ハサビス氏は「2030年ごろ」と述べています。

予測サイトMetaculusでは「2027年前後」という見通しが提示されており、予測の幅広さがうかがえます。

また、OpenAIは「Planning for AGI and Beyond」の中で、AGIは突然現れるのではなく段階的に進展し、人間による監督や安全性の確保と並行して進める必要があると強調しました。スタンフォード大学のAI Index 2025も、社会的・倫理的議論と技術開発を両輪で進める重要性を指摘しています。

このようにAGIの実現時期は「数年以内から数十年後」まで予測が幅広く、現段階では断定できません。ただ、研究と投資が加速していることは確かであり、その歩みを社会がどう受け止めるかが今後の焦点になるでしょう。

汎用人工知能(AGI)が社会にもたらす影響

AGIが実現すれば、社会や産業に大きな恩恵をもたらすと期待されています。

マッキンゼー・アンド・カンパニーは、AGIの普及によって世界のGDP成長率を年間3〜4%押し上げる可能性を指摘しました(McKinsey, 2023)。医療分野では膨大な研究データと患者情報を統合し、より精緻な診断や治療を提案できるようになると考えられています。

製造業では生産効率と品質の同時改善が見込まれ、教育分野では一人一人の理解度に合わせた学習支援が可能になるだろうといわれています。こうした変化は、人間の創造性や意思決定を補完し、社会全体の生産性向上につながるものと予想されています。

人類にもたらすリスク

一方で、AGIには制御が難しくなるリスクがあります。

研究者の間では、AGIが人間の価値観とずれて行動する「アライメント問題」や、制御が効かない知能になるリスクも議論されています。こうした可能性はSFの話ではなく、国際的なAIガバナンスの場でも重視されています。

オックスフォード大学のFuture of Humanity Instituteは、AGIによる存在論的リスク、すなわち人類滅亡に至る可能性を「5〜10%」と試算しました(Oxford FHI, 2022)。

また雇用の再編も避けられず、専門職や事務職を含む多くの仕事でスキルの再教育が必要になるでしょう。さらに、個人情報や感情を深く読み取れるようになれば、誤用や悪用の危険性も高まります。

利点を生かしつつリスクを管理する仕組みを構築することが今後の大きな課題となっています。

汎用人工知能(AGI)と「シンギュラリティ」との関係

「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは、人工知能が人間の知能を超え、自らを改良し続けることで進化のスピードが一気に加速する瞬間を指します。未来学者レイ・カーツワイル氏は2045年前後に到来すると予測しましたが、その時期や実現性を巡っては今も議論が続いています。

AGIは、このシンギュラリティの入口だと考えられています。現在のAIは特定の分野に限られますが、AGIが登場すれば幅広い課題に対応できるようになります。さらに、もしAGIが自らの仕組みを改良できる段階に進めば、その知能は指数関数的に成長し、人間の理解を超える「超知能」へ至る可能性があります。

一方で、制御の難しさも懸念されています。先に挙げたオックスフォード大学の研究でも、人間の価値観から外れた判断を行うリスクを警告しており、国際社会では安全性をどう確保するかが課題となっています。G7やEUの議論でも、AGIやシンギュラリティに備えたルール作りが進められています。

シンギュラリティは確定的な未来ではありませんが、AGIの発展を考える上で避けて通れない事象だと言えます(図3)。

図3:GAIとシンギュラリティの行方のイメージ(DALL-E-3で生成)
図3:GAIとシンギュラリティの行方のイメージ(DALL-E-3で生成)

AGIが投げかける未来への問い

AGIの存在は私たちの社会や経済の在り方に大きな問いを投げかけています。

AGIが登場すれば、産業構造や働き方、教育や倫理の枠組みまでが大きく変わるからです。また、人間が制御できない知能にどう向き合うのかという課題も避けられません。

重要なのは「到来を待つ」のではなく、研究や制度作りを通じて備えていく姿勢だと言えます。国際的なルール作りや倫理的な議論に関心を持ち、AIと人間がどのように共存していくかを考え続けることが求められています。

参考: 
Planning for AGI and beyond | OpenAI 
Google leaders Hassabis, Brin see AGI arriving around 2030 
The 2025 AI Index Report | Stanford HAI 
[2401.02843] Thousands of AI Authors on the Future of AI 
Date of Artificial General Intelligence|Metaculus 
Meta to announce $15bn investment in bid to achieve computerised ‘superintelligence’ | Artificial intelligence (AI) | The Guardian 
[2505.11831] ARC-AGI-2: A New Challenge for Frontier AI Reasoning Systems

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