スキルアップNEW
「CES 2026」 現地視察リポート ―ロボティクス/フィジカルAIの急加速と、品質観点からの一考―

アメリカ・ネバダ州のラスベガスで2026年1月6日~9日に開催されたCES(Consumer Electronics Show)2026に、技術動向の視察を目的として参加してきました。筆者は株式会社ベリサーブ モビリティ事業本部に所属していますが、今回はモビリティ領域に限定せず、世界の技術トレンドを俯瞰(ふかん)することを意識して会場を回りました。
今年のCESを一言で表すなら、モビリティが主役というよりも、ロボティクス、特にフィジカルAIが主役の年だったと感じています。

ロボティクス/フィジカルAIの急速な進化
今回、最も強いインパクトを受けたのはヒューマノイドロボットを中心としたロボティクス分野でした。
過去のCESで展示を見たことのある企業が、2年前は四足歩行ロボットによる比較的シンプルなデモを行っていた(図 2)のに対し、今回は二足歩行のヒューマノイドがダンスやボクシングといった高度な動作を実機で長時間にわたり安定して実演していた(図 3)ことには、大きな衝撃を受けました。
ロボティクスの成果は、動画などで理想環境下の成功例を見る機会は多いものの、会場というノイズ(外乱)が多い環境で継続的に動作し続けている様子を間近で確認できたという点は、これまでとは次元の異なる体験でした。


別の展示では、卓球やカードゲームのディーラー役をこなすヒューマノイドが紹介されていました。このヒューマノイドは、トランプを一枚ずつ配るという繊細なマニピュレーションを基盤としながら、
- カードの文字や数字の認識
- プレイヤーの手札状態の把握
- プレイヤーとの対話を通じた行動の切り替え
といった一連のタスクを実行しており、物理的実体を伴ったAIエージェントとしての振る舞いを実現していました(図 4)。いわば、AIエージェントがスマートフォンやPCの中から飛び出してきた世界、と言い換えてもよいでしょう。

ロボティクス/フィジカルAIを支えるオンボードAI/エッジAIデバイス
ロボティクス/フィジカルAIの進化を支える要素技術として、オンボードAI/エッジAIデバイスの重要性も強く印象に残りました。
ヒューマノイドのようなロボットとしての移動体にAIを適用する場合、AIエンジンをシステム全体のどこで実行するか、という設計判断(機能配置の問題)が生じます。言い換えると、「AIの頭脳をクラウド側に置くのか、それともロボット本体に置くのか」という選択です。
移動体の運動制御に AI を適用することを前提とすると、
- 応答遅延の低減
- システムとしての安定稼働
といった要件が重要となり、エッジ(ロボット本体)側にAIを配置する必要性が高まります。
さらに、エッジ側にAIを配置する場合、
- 小型化
- 消費電力の低減
- コスト最適化
といった制約条件が厳しくなるため、汎用(はんよう)GPUとは異なるAI推論に特化した専用チップ(NPU等)へのニーズが高まっていることも、展示から明確に読み取れました(図 5)。

消費電力については、単に移動体に搭載できるかどうかという観点にとどまらず、AI活用が拡大する社会全体でのエネルギー消費やGX(グリーントランスフォーメーション)の観点からも重要なテーマであると感じました(図 6)。

自動車分野:派手さはないが、着実に変化が進む
自動車分野に目を向けると、ロボティクスほど「一目で分かる衝撃」は少なかったように思います。
ロボットがボクシングをしたりディーラーをしたりする展示は分かりやすく視覚的なインパクトを持ちますが、現在の自動車技術のトレンドはそうした新しい動きを獲得する方向性ではありません。SDV(Software Defined Vehicle)に代表されるように、ソフトウェアアップデートによって機能が進化していく世界である以上、展示としての見た目の変化が分かりにくいことは、ある意味必然とも言えるでしょう。
車内ディスプレイの大型化と新しい表示技術
そうした中でも目を引いたのが、コックピットおよび車内ディスプレイの大型化・多様化です(図 7、図 8、図 9)。
- 前席・後席を含めた大画面ディスプレイ
- 透過型ディスプレイ
- 裸眼立体視
- 曲面や可変形状ディスプレイ
といった多様な提案が見られました。人間にとって、視覚情報が依然として大きな影響力を持つインターフェースの一つであることを、改めて実感しました。



SDVを支える検証環境・基盤環境の変化
ベリサーブとも関わりの深いテーマとして強く感じたのが、検証環境のトレンド変化です。
従来から指摘されてきた実機検証から仮想環境下での検証へのシフトが進む中で、実車・実機検証環境であるHILS( Hardware In the Loop Simulation)から仮想環境でソフトウェアを検証するSILS(Software In the Loop Simulation)への移行に向けたソリューションが着実に増加していました。
具体的には、バーチャルECU(Electronic Control Unit)の生成、SILS環境構築・クラウド化といったソリューションが数多く展示されており(図 10)、SDVの開発加速と検証環境の変化が強く結び付いていることを改めて認識しました。

SILSへの移行や開発環境のバーチャル化が進むほど、それらをシームレスにつなぐ開発基盤環境の重要性が高まります。AI活用や高度な自動化を進める上でも、前提となるのは情報管理基盤でしょう。
情報が適切に構造化され、構成管理されていなければ、AIツールや効率化ツールは部分最適にとどまり、期待した効果は得られないからです。個人的には、種々のAIツール・効率化ツールの導入もさることながら、前提となる堅牢なデータベース、構成管理、パイプラインの整備が不可欠であると感じました。
理想と現実、あるいは価値観の違い
最後に、技術展示とは別の意味で印象に残った体験について触れたいと思います。
CES会場への移動ではモノレールを利用しましたが(図11)、チケット購入や改札通過といった極めて基本的な体験の中で、幾つかのつまずきを体験しました。

券売機でのクレジットカード決済手順が直感的でなかったり(カードを差し込んですぐに抜かないと正しく認識されない)、領収書が正しく発行されなかったり(白紙の領収書が発行された)、改札機が乗車券を認識しないことがあり係員による手動対応が常態化していたり、といった場面です。
この体験を品質という視点でどう捉えるかについては、一考の余地があるように思います。
一つの見方は、理想と現実のギャップです。CESで展示されるような最先端技術の前に、まずは交通インフラという日常の基盤において、基本的な体験品質を整える余地があるのではないか、という捉え方です。
もう一つは、品質に対する文化や期待値の違い、という捉え方です。多くの日本人にとっては見過ごしがたい体験であっても、「最終的に目的地には到着できる」「イベント期間中は係員が補助すればよい」といった割り切りが、合理的な判断として受け入れられている可能性もあります。
この体験をどう捉えるべきかについて結論付けることはしませんが、状況や背景に応じて品質を問い続けて判断していくことこそが重要でしょう。
細部まで磨き込む品質観と、一定の不完全さを許容しながら前進する品質観。その間にどのようなバランスを見いだすのかは、品質やテストに携わる立場として、改めて考えさせられる体験でした。
おわりに
CESは単なる技術展示会ではなく、技術と社会、文化、価値観が交差する場でもあります。1~2年置きに定点観測的に参加することで、技術の進化だけでなく、その受け止められ方の変化も含めて、より深い気付きを得られるのではないでしょうか。
この記事は面白かったですか?
今後の改善の参考にさせていただきます!












































-portrait.webp)
































