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【連載】品質をめぐる冒険: インターステラテクノロジズ・中山聡氏「“自分のプロジェクトだ”という情熱こそが品質を高める」

インターステラテクノロジズ株式会社代表取締役 President中山聡氏
大学院修了後、三菱プレシジョンに入社。ロケットや衛星等の搭載機器開発に12年間従事。基幹ロケット含む国内主要ロケットに搭載される航法センサー開発ではプロジェクトマネジャーを担当。2021年1月にインターステラテクノロジズ入社、アビオニクス開発、信頼性設計、品質保証を担当し、同年9月から開発部ゼネラルマネジャー。2024年5月にロケット開発トップとなる取締役 VP of Launch Vehicle、2026年2月より代表取締役 Presidentに就任。
忘れ難いH-IIAロケットの開発プロジェクト
――まず、中山さんのご経歴から伺います。三菱プレシジョンで長年ロケット開発をされていましたが、もともと宇宙航空工学に興味があったのですか?
いえ、違います。私は大学院時代にバーチャルリアリティー(VR)の手術シミュレーターを研究していました。当時はまだ宇宙には興味がなく、手術シミュレーターの開発がやりたくて、当時その分野で唯一のメーカーだった三菱プレシジョンに新卒入社しました。
ところが、会社に入ったらリーマンショックのあおりを受けて、民需が落ち込んでしまった。一方で、宇宙分野が盛り上がっていて人手が足りないからと、そちらへ配属されることになったのです。
――最初はどのような仕事を?
衛星開発の担当となり、大学の先生と一緒に研究開発をしていました。具体的には、太陽観測のための駆動装置の開発です。そのモーターを動かす基板の回路設計をして、さらに自分でソフトウェアも作っていました。
――今回のインタビューのテーマは「品質」ですが、仕事の中でその重要性を意識するようになったきっかけは何だったのでしょうか?
大きく潮目が変わったのは、H-IIAロケット29号機に搭載する航法センサーを開発した時です。カルマンフィルターでGPS信号とIMU(慣性計測装置)の加速度計などを複合して計算し、位置や速度、姿勢を推定するシステムを作りました。日本では初めての試みで、航法の計算からシステム全体の基本設計からソフトウェアの設計、そしてコーディングまでを全て一人で担当しました。
コードはおそらく数万行書いたと思います。デバッグからテストまで何から何まで全部一人で。1月1日も出社していたことを良く覚えています。デバッグに時間がかかるんですよ。途中でバグを発見しては直して、というのを繰り返し、何回かやって初めてうまくいった時に、誰もいない会社で雄たけびを上げました。
「自分のプロジェクトだ!」という情熱が不可欠
――それほど必死だった理由は?
システムを出荷したら、当然のように触れられませんよね。それが怖くてたまらなかった。自分が作ったものが他のところで動いていて、何かしでかしたら大変なことになる。ロケットの打ち上げが遅れるかもしれない。そうならないためには出荷までの時間を絶対に無駄にはできないという自分自身との戦いでした。
開発は2012年に始まって、2015年の打ち上げまで約3年間ずっと携わりました。ソフトウェアの設計だけでなくシステム全体を担当していたので、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の審査会で数十人を相手に説明することもありました。

特に2015年は本当にハードで、連日深夜まで働いて、すぐに朝が来るような生活でした。でも、その経験が今の私のベースになっています。
当時は品質うんぬんというよりも、ゴール、つまり打ち上げを成功させることに専念していました。絶対に達成するのだという意地ですね。どんな仕事でもエンジニアの意地が見える瞬間というのがあると思うのですが、まさにそれでした。結局、100パーセント完璧な品質なんてないじゃないですか。だから、どれだけ検証するか、とことんやり切るかという意識を持つことが大事だと実感しました。
振り返ると、その意識がある人とない人では雲泥の差があります。例えば以前、ソフトウェアのデバッグを20日間やろうとなった時に、10日目辺りから来なくなるメンバーがいました。でも、プロジェクトマネジャーの私はずっと張り付いています。「これは俺のプロジェクトだから、俺がやるんだ」という意地というかプライドというか、情熱みたいなものが品質確保につながるのだと思っています。
余談ですが、ロケット打ち上げ時のブロックハウス(発射管制棟)に入る前に健康診断を受けるのが一般的です。なぜなら極度の緊張のあまり体調を崩す人がいるから。私は普段、血圧が110程度なのですが、その時は心臓がバクバクして170くらいに上がりました。
そこまで緊張した原因の一つに、H-IIAロケット29号機は久しぶりに電気系を一部変えた機体であり、その部分は私が作ったものだったからです。他のパーツは維持設計でした。自分の責任であることは明確なので、相当なプレッシャーでした。
打ち上げの十数時間前にロケットの電源が入ってから、ずっと自分が作った製品をモニタリングし続けました。何かあれば打ち上げ中止ですから。このような経験をして以降、品質には非常に厳しくなりましたね。
標準化と組織改革
――2021年1月にインターステラテクノロジズに転職されました。品質保証の面で、どのような役割を担っていますか?
私自身は品質保証の直接のマネジャーではありませんが、大きく二つのことに取り組んでいます。
一つは製品の品質、つまり作り方や不具合が出ないようにすること。もう一つは、われわれのロケットについて分かりやすく示すこと。つまり、こういう標準に基づいて作っています、こういう考え方で作っていますという説明責任を果たすことも、広義の意味での品質だと考えています。当社はスタートアップ企業であるにも関わらず、標準文書などをしっかり作成している点が特徴的だと思います。これは航空・宇宙業界の人たちにアピールする意味でも重要です。
――これは中山さんが入社されてから始めたのですか?
そうですね。観測ロケット「MOMO」の打ち上げ時はできていませんでしたが、小型衛星打ち上げロケット「ZERO」の開発に向けて最初に取り組んだのは、民生部品を使う際の考え方をまとめることでした。ZEROは主要なコンポーネントを自社で開発していますが、一部では民生部品も取り入れています。当時は「秋葉原で部品を買ってきているんだろう」と誤解されることもあったので、そのイメージを払拭したかったんです。
例えば、民生部品を使うとき、通常の宇宙開発では1個1個スクリーニングするのですが、それだとコストが高くなってしまう。そこで基板に全て実装して、基板全体をスクリーニングするようにしました。バスタブ曲線(故障率曲線)を示しながらここまでバーンイン試験するという説明をすると、「であれば、しっかりしているね」と納得いただけます。そこまでやって初めて「民生部品を使っている」と胸を張って言えるわけです。
――組織面での改革はありましたか?
同時期に入社した他のメンバーとともに、社内コミュニケーションをとる文化を根付かせようとしたことですね。特に部門間の壁を取り払うことは一生懸命やりました。組織の質によって製品の不具合の出方が変わりますし、もし出てしまった時でも「自分の担当した部品じゃない」とひとごとにならないようにするのが肝心です。また、不具合に対するキャッチアップの速さも、組織がいかに有機的に結合できているかに関わってきます。
ロケットはさまざまなコンポーネントが統合されたシステムであるため、誰か一人が落第点をとったらおしまいなのです。逆に一人だけ満点をとっても意味がない。皆が平均点以上をとるというバランスがすごく重要であり、そのコントロールは私を筆頭にマネジメント層がしっかりやるべきだと自覚しています。
――具体的にどうやってコミュニケーションを向上させたのですか?
一番は、マネジャー同士やグループリーダー同士が風通しよく連携することです。上が連携できているとメンバー同士も交流できるのです。加えて、常に言っているのは、コミュニケーションを断絶するのは許さないということ。「それは良くないよ」と、常日頃の私自身の姿勢や価値観をいろいろなところで示していかなければならないと感じています。
日本の宇宙産業への覚悟
MOMOは宇宙空間に到達した後に海に落下する観測ロケットですが、現在開発しているZEROは地球周回軌道に衛星を投入するロケットなので、技術的な難度は桁違いに大きくなります。試験や運用面などMOMOの経験が活きている部分はありますが、品質に関して言えば、ZEROは人工衛星のお客様がしっかり付きますし、宇宙活動法の許可も必要なので日本政府にもきちんと説明しなければなりません。お客様に信頼していただけるモノづくりをしなければならない段階に入っています。ZERO初号機では、既に国内外の民間衛星が7機搭載されることが決まっています。
設計の進め方も大きく変わりました。きちんとドキュメントを残す、要求に対してコンプライアンスを順守することなどは徹底していますし、これからも引き続き強化していきます。他のスタートアップ企業から入社してきた人たちはびっくりされていますね。

われわれのミッションは「社会で使われる宇宙のインフラを提供する」であり、ビジョンは「宇宙産業に変革をもたらす」です。強調したいのは、技術変革ではなく、産業変革なのです。
技術だけがやりたいというメンバーは合わないかもしれません。われわれに求められているのは、産業を変革して次の世代に残すこと。エンジニアリングというのは、社会に何を貢献するかということです。だから手段を選ぶのではなく、あくまでも結果を求めるのです。
日本の宇宙産業を良い形で次に引き継ぐためにはどうしたらいいか。ZEROを打ち上げるしかない。そこにコミットするなら何でもやるというのが今のマネジャーたちに一貫する意識です。
昨年からトヨタ自動車さま、ウーブン・バイ・トヨタさまとロケットのモノづくりにおける連携が始まりましたが、これは日本でロケット開発する上では最も強力な味方がついたということです。日本のロケット製造を「一点モノ」から「工業製品」へと変革させ、高頻度で競争力のある宇宙輸送サービスを確立していきます。
これで失敗したら、後世の宇宙エンジニアに顔向けできない。ここで成功しないと、もうこういう機会はないと思った方がいいでしょうね。ですから、責任を感じています。これは私だけでなく、当社の他のエンジニアも同様だと思います。
品質とは何か
――改めて、中山さんにとって品質とは何でしょうか?
品質というのは、プロジェクトに対してどれだけの思いがあるか、その尺度なのではないでしょうか。
もちろん、時間やコストなどの制約条件はあります。でも、例えば、期日までにどれだけやり切れるかどうか、結局はその人たちの思いだと私は考えています。そのためには、先ほど話したように、「これは自分のプロジェクトだ」という情熱がなくてはなりません。逆にそれがなければ仕事としてつまらないのではないでしょうか。
ですから、現場の担当者が「ここまでやり尽くしたのできっと大丈夫です」と言ってくれれば、たとえ不具合が生じたとしても、それは組織として真摯に受け止めるべき結果だと言えます。不具合が起きた時のリカバリーや誠実な説明責任を果たすこと。それらすべてを含めた姿勢こそが、その人の、そして私たちの『品質』だと思っているからです。
――自分ごと化する上でのポイントはありますか?
結論的には、これは素質かもしれませんが、強い思いを持てるかだと思いますね。そして、その素養を持っている人をプロジェクトや組織においてしかるべき立場に据えられるかどうか。そこをリーダーが見極められるかが鍵を握ります。
全員に素質がある状態は難しいでしょうが、例えば、10人中2〜3人いたら、とことん経験を積ませてあげて、コアな人材に育てていくべきだと思います。

インターステラテクノロジズ株式会社代表取締役 President中山聡氏
大学院修了後、三菱プレシジョンに入社。ロケットや衛星等の搭載機器開発に12年間従事。基幹ロケット含む国内主要ロケットに搭載される航法センサー開発ではプロジェクトマネジャーを担当。2021年1月にインターステラテクノロジズ入社、アビオニクス開発、信頼性設計、品質保証を担当し、同年9月から開発部ゼネラルマネジャー。2024年5月にロケット開発トップとなる取締役 VP of Launch Vehicle、2026年2月より代表取締役 Presidentに就任。
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