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品質をめぐる冒険:デザインとプログラミングが交差する実践的カリキュラムとは? ~徳島県 神山まるごと高専

神山まるごと高専デザイン・エンジニアリング学科 教授 テクノロジー教育竹迫 良範氏
広島市立大学卒、日本語検索エンジンNamazu for Win32のオープンソース開発に参加。独立系ITベンチャーを経て、サイボウズ・ラボに入社。現在は大手広告代理店に勤務。Shibuya.pm二代目リーダー、SECCON初代実行委員長、SecHack365トレーナー、IPA未踏PM、セキュリティ・キャンプ講師総合主査を務め、日本の若手IT人材育成に従事。2024年10月より神山町に移住し、実務家教員としてパラレルキャリアに挑戦中。
神山まるごと高専デザイン・エンジニアリング学科 准教授 デザイン教育本末 英樹氏
デジタルプロダクトデザイナーとして、Webサイトやモバイルアプリを含むサービス全体のUX設計とUIデザインを行う。Web制作会社やフリーランス、スタートアップを経て、2021年5月より株式会社フライヤーへジョイン。またAdobe MAXやSchooなどで講師も務める通称「オロちゃん先生」。神山まるごと高専ではデザインの授業を担当。単著に『現場のプロがわかりやすく教えるUI/UXデザイナー養成講座』。
ソフトウェア品質や技術検証の領域が複雑化する中で、未来の産業を担うエンジニアやものづくりに携わる人にとって、創造性と実装力を往復できる学びの場が求められています。ソフトウェアの品質向上支援のパイオニアであるベリサーブにとって、その未来を支える人材がどのように育まれるのかは、単なる教育テーマではなく、産業基盤そのものに関わる重要領域です。
ベリサーブが運営するオウンドメディア「HQW!」では、これまで品質・安全性の裏側を支える人や研究の最先端、試行錯誤の道のりについてインタビューを行ってきましたが、今回はその“源流”とも言える、次世代エンジニア、デザイナー、起業家を育成する学び舎にフォーカスしました。
2023年、神山まるごと高専は、人口約4,500人の徳島県神山町に開設されました。文科省認可としては19年ぶりの高専の新設校で、Sansan株式会社代表取締役社長の寺田親弘氏が中心となり、発足しました。
起業家精神を養う教育を目的とし、実践力を養成するためのテクノロジー×デザインを学ぶカリキュラムが組まれ、設立に際しても、多くの企業や起業家精神あふれるクリエイターら、地域住民が関わるなど、ユニークさが際立つ教育機関であると言えます。
そんな神山まるごと高専で教鞭を執る、プログラミングとUI/UXデザインの分野でそれぞれキャリアを築いてきたお二人の授業スタッフに、実践的学びの最前線を伺いました。
授業スタッフ同士のユニークなキャリアパスが交差する神山まるごと高専
ーーまずは先生方のご経歴について、簡単に教えてください。

竹迫:私はWebエンジニアでしたが、保守中のOSS(オープンソースソフトウェア)に脆弱性指摘があった経験から、セキュリティを意識して品質向上できる開発者を増やしたいと考えるようになりました。それがきっかけとなり、若手のIT人材育成事業に関わるようになりました。その中でとがった人材を育成した後、それらの人材を受け入れる企業側でもエンジニアのキャリアパスや職場環境を整える重要性を感じ、大手広告代理店で内製開発組織の体制強化を行ってきました。そこでは新規事業開発も活発で、企画者自らが手を動かしてプロダクトづくりを進められる優位性を実感できました。神山まるごと高専の開校準備中というニュースを聞き、神山町に寄付をしたことが最初のきっかけでした。それ以来、学校のことが気になっていました。その後、開校からしばらくして、テクノロジー教育を担う授業スタッフをさらに募集しているということで、お声がけをいただきました。
実はその頃、現在勤めている企業で完全リモートワークが可能になり、子供たちを自然豊かな環境で育てたいという思いから、すでに家族で神山町へ移住していました。こうして学校とのご縁がつながったのです。現在は、週の半分は高専での教育に、もう半分を企業での業務に充てるパラレルな働き方をしています。

本末:私はウェブデザイナーからキャリアをスタートしました。その後、事業会社やスタートアップ二社でプロダクトデザイナー、UI/UXデザイナーを務め、スタートアップではデザインチームの責任者も経験しました。その傍ら、社会人向けの講師も務め、その延長でUI/UXデザインの書籍も出版しました。それがきっかけで神山まるごと高専の存在を知りました。
UXデザインの業界で有名な千葉工業大学の安藤昌也先生に献本したところ、返信で神山まるごと高専が授業スタッフを募集していることを教えていただきました。当時は東京在住で、移住は現実的ではないと思っていましたが、実際に訪れてみると、とてもすてきな環境だと感じたのです。妻の実家が岡山にあったこともあり、家族で話し合いのうえ移住を決めました。現在は岡山から徳島へ、週の半分ほど通う生活を送っています。
ーー神山まるごと高専のどんなところに魅力を感じたのでしょう。
本末:私はデザイン馬鹿と言いますか、Webデザイナーだったのでデザインとコーディングばかりやっていて、ビジネスには全く興味がなかったんです。ですが年を重ねるにつれ、マネジメントを担う機会や経営者と対話することも増え、自分の視野の狭さに危機感を覚えるようになりました。そこでMBA取得に向けた学習を始め、デザイナーであってもテクノロジーやビジネスを理解することが不可欠だと実感しました。
一方で、ビジネス側の人たちも必ずしもデザインを理解しているわけではなく、専門家に任せきりにしてしまう場面も少なくありません。かつての私の場合とは逆の立場で、同じ断絶が起きていると感じました。こうした分断を埋めたい——そう考えていたときに出会ったのが、神山まるごと高専でした。社会に出る前からデザインとアントレプレナーシップ※1の両方を学べる環境があれば、どのような人材が育つのだろうか。その可能性に魅力を感じ、授業スタッフに応募しました。
※1: 新しい価値を生み出すために、自ら課題を見つけ、挑戦し、行動する姿勢や精神のこと。
神山まるごと高専で学ぶデザイン×プログラミング×アントレプレナーシップの実際
ーー神山まるごと高専では、具体的にどのような授業を行っているのでしょうか。
竹迫:プログラミングの授業では、まず1年生はC言語を学習し、そもそもコンピューターがどうやってプログラムを実行しているのかを体験し、理解します。2年生になると、身の周りの課題を解決するLINEボットの開発に取り組みます。学生がアプリを作った場合、動かすことに専念するため、売り物レベルとしての品質を考慮することはしません。プロダクトの単純な不具合やバグで済めばまだよいのかもしれませんが、セキュリティの脆弱性があれば大きなリスクにつながります。そういうことがあってはいけないので、LINEボットの開発を通して、サービスをインターネット上に公開するまでの全体像を把握できるようにしています。3年生ではオブジェクト指向を学び、その応用としてFlutterを用いたアプリケーションの開発を一年かけて行います。
ーー最近では小学校からプログラミング教育が導入されています。そうした世代の学生と、社会人を教えていて違いは感じますか?

竹迫:今はコンピューター雑誌ってほとんどないですよね。昔はプログラムのソースコードが紙の雑誌に掲載され、業界的に「これだ!」という手引きになるような技術書がありました。しかし今となっては、そういった古典ともいえる本の多くが絶版になっていることもあります。また、最先端のテクノロジー情報の多くはインターネットから得られます。このため、教材は在りものを使うのではなく、私自身で1から作ることが多くなりました。教科書の指定はあえてせずに、自作のテキストをNotionを使って作りつつ、常に最新の内容に更新していっています。
ーー研究棟にはロボットアームが置かれていました。メカやエレキに対する教育も行っているのですか?
竹迫:はい。2年生くらいからメカやエレキにも触ります。プログラミングはデジタルの世界で動いているため、デジタル空間上で何かを動かすのはいくらでも練習できます。一方、それをリアルな実世界でやろうとすると、思った通りに動かないということがたくさんあります。ロボットアームを目的の位置に動かそうと思ったら数学の三角関数を使わないといけなかったり、モーターの特性を知らないといけなかったり。実際のものづくりでは、問題をさまざまな角度から検証し、試行錯誤しながら解決していく力が求められます。その感覚を身につけるために、ハードウェアの演習を取り入れています。
学生の中には、組み立て精度にばらつきが出ることもあります。その場合、ソフトウェア側でキャリブレーションを行い補正するなど、ハードとソフトを組み合わせて解決策を考えます。これは、実際の組み込み開発の現場と通じるものがあります。
ーー教える角度は異なると思いますが、デザインではどのような授業をされているのでしょうか。
本末:私は主に2年生の授業を担当しているのですが、
1年生では、デッサンなどの基礎から始め、Illustratorなどのツールの使い方も学びます。
2年生になると、タイポグラフィやカラーレイアウトを学び、UI/UXデザインやエディトリアルデザインへと発展します。Figma(フィグマ)※2を使ったWebサイトやモバイルアプリのプロトタイプの作成にも取り組みます。
3年生では、写真や映像の基礎を学びます。アーキテクチャの重要性を知るために建築の授業もやりますね。
※2: Webブラウザ上で動作するUI/UXデザインツール。Webサイトやアプリの画面設計、プロトタイプの作成、チームでの共同編集などが可能。
こうした学びは、実践と結びついています。寮生活の食堂の魅力を伝えるために、学生自身が写真撮影や原稿制作を行い、企画から実行までを担っています。企業から提供された高性能な機材も活用しています。
ーーデザインにはセンスの要素も含まれると思うのですが、感覚的な部分はどうやって教えられているのですか。
本末:おっしゃる通りで、デザインはセンスと言いますか、学生それぞれの生活の中で培ってきた要素もあります。ですが、デザインにもルールがあり、そういったものを頭の中に詰め込んだ上で、自分自身が培ってきたものも組み合わせると、分かりやすいデザインや美しいデザインが作れるようになってくるのです。ですから私の授業では、センスというよりも、デザインルールを覚えていくことに重きを置いています。昨年はさまざまな特性を持つ方々に来ていただいて、アクセシビリティやユーザビリティ、ユニバーサルデザインを学ぶ授業もできました。このようにして知識と経験を積み上げ、学生たちの引き出しを増やすことを意識しています。

ーー4年生以降はどのようなカリキュラムになっているのでしょうか。
竹迫:4年生以降は、より高度な専門科目も入ってきます。人工知能やゲームエンジン、コンピューターセキュリティを学びます。2026年度からは、新しくデザイン・エンジニアリング演習を実施する予定で、半年間かけて一つのプロジェクトに取り組みます。今まで勉強してきたツールやプロセスを総動員する課題解決型学習(PBL:Project-Based Learning※3)と位置付け、課題設定とその解決、実行、評価、それらの発表までをプロジェクトとして実行します。
※3: 実際の課題やプロジェクトに取り組みながら、知識やスキルを実践的に身につける学習方法。
本末:デザインは、社会人向けに教えていたことにも触れていく予定です。マーケティングやアカウンティング、ファイナンスといった領域の基礎についても少しずつ教えています。
神山まるごと高専生たちの無限の可能性
ーー生活環境もとても充実していて、学びに集中できる環境であると感じました。
竹迫:そうですね、学生は全寮制で徒歩数分のところにある学生寮に住み、食事も三食提供され、図書室も併設されています。衣食住と学びが一体化した環境です。
本末:課外活動では、学生がそれぞれプロジェクトを立ち上げて活動しています。学生同士が夜も集まって活動している様子をよく見ます。プロジェクトに取り組んでいる学生からよく相談を受けるのですが、夜の9時からミーティングの依頼が入るなど、社会人顔負けの働きぶりです(笑)。
これらのプロジェクトには企業や個人がスポンサーとなり、メンタリングや資材の提供などの支援を受けることもあります。プロジェクトはいくつかの指標を基に学生同士で評価される仕組みもあり、各種外部コンテストやアワードへの参加を目標にするプロジェクトもあります。こうした経験を通じて、アントレプレナーシップやエンジニアリング能力を身に付けていきます。
プロジェクトメンバーは学年を超えて集まっていて、複数のチームに所属している学生もいます。これから4、5年生まで学生が増えていき、さらに先輩後輩の年が離れ、交流の幅も出てくるでしょう。
竹迫:それ以外の取り組みとして、神山まるごと高専の高専祭に向けて出展プロジェクトの企画や、資金調達までも学生たちが行っています。つまり複数の機会を通して、授業で学んだアントレプレナーシップの理論を実践を通しても学んでいるわけです。
ーー学生生活自体が、座学で学んだことを生かせる環境になっているのですね。
本末:(授業スタッフ用のスマートフォンをポケットから取り出され)これは学生が自ら作った寮生活のためのアプリです。点呼や自分宛の郵便物の有無などが確認できます。学生は自分たちの生活をより良くするためのツールを、自分たちで設計・実装し、実際に使う中で得た体験(UX)をもとに、UIを改善し続けています。

竹迫:説明を補足すると、このアプリを開発した学生たちは、利用するユーザーから定期的にアンケートをとって意見を取り入れながら、アップデートしています。授業やプロジェクト単発だと運用・保守まで経験する機会は多くありません。ですが、実際のプロダクト開発の現場では必要ですし、そういった現実に向き合うことは品質向上の重要性を知る上で欠かせない学びだと考えています。
教える立場としても、そうした自分たちの生活を自分たちの手でより良くするという自発性と自律性には感心させられます。今後、授業、そして神山まるごと高専での学校生活を通じて、学生たちがどのように成長をしていくのか、とても楽しみです。
ーー「神山まるごと高専」で学んだ学生たちが社会に旅立つ日が、聞き手としても、とても楽しみになりました。本日はありがとうございました。

神山まるごと高専デザイン・エンジニアリング学科 教授 テクノロジー教育竹迫 良範氏
広島市立大学卒、日本語検索エンジンNamazu for Win32のオープンソース開発に参加。独立系ITベンチャーを経て、サイボウズ・ラボに入社。現在は大手広告代理店に勤務。Shibuya.pm二代目リーダー、SECCON初代実行委員長、SecHack365トレーナー、IPA未踏PM、セキュリティ・キャンプ講師総合主査を務め、日本の若手IT人材育成に従事。2024年10月より神山町に移住し、実務家教員としてパラレルキャリアに挑戦中。

神山まるごと高専デザイン・エンジニアリング学科 准教授 デザイン教育本末 英樹氏
デジタルプロダクトデザイナーとして、Webサイトやモバイルアプリを含むサービス全体のUX設計とUIデザインを行う。Web制作会社やフリーランス、スタートアップを経て、2021年5月より株式会社フライヤーへジョイン。またAdobe MAXやSchooなどで講師も務める通称「オロちゃん先生」。神山まるごと高専ではデザインの授業を担当。単著に『現場のプロがわかりやすく教えるUI/UXデザイナー養成講座』。
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