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自動運転の民主化

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株式会社ティアフォーは「The Art of Open Source Reimagine Intelligent Vehicles」をビジョンに掲げ、オープンソースを活用した自動運転システムの開発に取り組んでいる企業です。私は名古屋大学で自動運転の研究をしていた際、そこで開発した自動運転ソフトウェア「Autoware」を2015年にオープンソースとして公開しました。同年にはAutowareのビジネス展開を手掛けるティアフォーを創業し、同社のCEO/CTOを務めています。
また、2018年にはAutowareの開発と普及を主導するNPOとして「The Autoware Foundation」を設立、現在では東京大学の特任准教授も兼任し、さまざまな立場から自動運転システムの社会実装を目指しています。Autowareを中心とした開放的なエコシステムによる「自動運転の民主化」について解説します。

※この記事は、『Veriserve Mobility Initiative 2023』の講演内容を基にした内容です。

加藤 真平

株式会社ティアフォー
代表取締役社長CEO兼CTO
東京大学
大学院情報理工学系研究科
特任准教授
加藤 真平 氏 

ティアフォーのビジネスとプロダクト

ティアフォーの設立から7年、我々が開発した自動運転システムはさまざまなパートナーとの協業によって、いよいよ本格的な社会実装のフェーズに入ってきています。バスやタクシー、コミュニティーバンなどの一般車両から、小型ロボットや無人のレーシングカーに至るまで多彩な活用が展開されています(図表1)。

Autowareの活用例

図表1:自動運転ソフトウェア「Autoware」のさまざまな活用例。一般車両だけでなく小型ロボットや無人レーシングカーにも応用されている

特筆すべきは、これを全て同じソフトウェア、しかもオープンソースで実現していることで、これはマーケット面からも非常にインパクトがあると考えています。

■オープンソースとビジネス

ご存じの通り、オープンソースは誰もが自由に利用できます。そのまま使うことも、それをベースとした開発や商品化も可能です。さらに、Autowareは一般的な自動運転の機能は全て網羅した、技術としてはフルスタックといえるものです。ここでよく問われるのが「それでどうやってビジネスが成立するのか」という点です。これを分かりやすく説明するために、山登りを例に取りましょう(図表2)。

5合目までの開発をオープンソースで高速に

図表2:オープンソースのAutowareで自動運転開発の基礎部分(5合目まで)を高速化してもらい、それより上位のサービスや機能の実現に向けて有料のソフトウェアやノウハウを提供する

図の通り、オープンソースで到達できるのは5合目まで。ただし、そこまでは車で楽に行けるというイメージです。頂上を目指すために早く安く、しかも高い品質で5合目まで行けるならオープンソースを活用しようと考える方々が、我々のパートナーということになります。

5合目までというのが具体的にどの程度のものであるかをご紹介します。一般的な自動運転の機能は認知・判断・操作の3つですが、これらはAutowareには全て含まれています。「新宿の街を10回試走すれば7~8回はうまく走れる」というのが我々の考える5合目のレベルです(図表3)。

自動運転の一般的な機能を備えるAutoware

図表3:Autoware搭載の車両で実際に東京・新宿周辺を走った際のデータ

そして、5合目まで来てくれたパートナーに対して、次のステップである9合目へ登るための技術とプロダクトを提供するのがティアフォーのビジネスとなります。

ただし、山登りでは距離は短くても9合目から頂上までが最も過酷なプロセスで、自動運転も同様です。汎用的なプロダクトをポンと乗せた状態で動く自動運転システムは世の中に存在しません。要求に合わせたカスタマイズや統合化が必要で、それにはお客様と我々のプロダクトを使う2社、つまりステークホルダー同士の綿密な協力が欠かせません。9合目から頂上までをどう登っていくか、これが自動運転の社会実装がいつ、どのように実現するかを左右すると考えています。

■プロダクト紹介

ここでは、当社のプロダクトのうち主要なものとして「Pilot.Auto」と「Edge.Auto」の2つを簡単にご紹介します(図表4)。

ティアフォーのプロダクト群

図表4:ティアフォーでは、自動運転用のソフトウェア、ハードウェアに加え、開発・運用のプラットフォームも提供している

・Pilot.Auto

先述の通り、Autowareはフルスタックの自動運転ソフトウェアで、大変巨大なものです。そのため、コンポーネントやパラメーターの組み合わせには高度な技術的理解が必要になります。これをあらかじめリファレンスデザインとして提供するのがPilot.Autoです。例えばタクシーを作るならこの機能とこの機能、バスであればこの機能とこの機能にパラメーターを変えるといった具合で、お客様が適切な組み合わせを考える時間を大幅に短縮可能となります。

・Edge.Auto

Pilot.Autoがソフトウェアのリファレンスであるのに対し、Edge.Autoは、ハードウェアのリファレンスです。Pilot.Autoでは必要なハードウェアスペックなども定義済みの状態になっており、これを満たす推奨製品をティアフォーが選定し、Edge.Autoとして提供しています。もちろん、お客様が自社のハードウェアや特定の製品を使いたいという場合には、Pilot.Autoのみの利用も可能です。実際には、コンピューティングプラットフォームには無数の製品・モデルが存在し、選定には相応の労力が必要なため、多くのお客様がEdge.Autoを採用しています。

その他、最終的な要求を満たしていく過程で役立つ、さまざまな周辺ツールも併せて提供しています。

■ティアフォーのコアビジネス

ティアフォーでは、これまでのビジネス展開で得られた経験からお客様のタイプを大きく5つのカテゴリーに分類し、それぞれの要求に最適化したビジネスを展開しています(図表5)。

顧客のカテゴリーに応じてビジネスを展開

図表5:ティアフォーのビジネスを図式化したもの。顧客をカテゴリーに分類した上で最適なビジネスを提供する

①Autoware Scaling

自動運転のマーケットやビジネスに関する知識が浅く、ティアフォーという会社自体を初めて知ったというお客様も現状では多く存在します。こうした場合には、技術的なコンサルティングや共同でのPoC(実証実験)などを実施し、まずは自動運転とは何か、そこで我々に何ができるのかを理解していただきます。

②Turnkey System

自動運転に一定の知識はあるものの、自分達がどんな製品を作るべきかを決めかねているお客様に対して、ティアフォーが持つ実証済みのシステムをそのまま提供します。「Turnkey」とは「すぐに使える」という意味を持つ言葉で、即時稼働できるシステムを実際に使っていただくことで、自動運転に対する要求をお客様自身で明確化できるよう支援します。

③Vehicle Development

自動運転に対する要求が明確なお客様に対し、文字通り自動運転車の開発を提供します。ティアフォーは車を開発する能力も持っており、お客様が決定した要求に従い、特定のスペックを持った車を開発することが可能です。

④DevOps Enabling

自動運転車の開発能力を持っているとはいえ、ティアフォーはまだスタートアップの段階であるため同時に多数の案件に対応することは難しいのが実情です。そこで、我々の持つ開発や運用のノウハウを供与して一緒にビジネスを展開するパートナー企業の開拓を進めています。実際の開発作業はパートナーが行い、ティアフォーはライセンス料を受け取るという形になります。

⑤AD Software

ティアフォーのソフトウェアを導入すれば、要求通りの自動運転車をお客様自身で作れるようになる、これが我々の考える最終到達点です。当然、実現はまだ先になりますので、それまでは先に挙げた4つを基軸にビジネスを進めていくことになります

我々は上記のビジネスの中に複数のソリューションを持っていて、カメラやセンサーなどのコンポーネントを単体で提供するケースもあれば、複数のコンポーネントをパッケージにして提供するケースもあります。それらをお客様が要求に合わせて選択・採用し、個別のプロジェクトに役立てていただく形になります。以下に、ソリューションのうちのいくつかをご紹介します。

・カメラ&LiDAR

自動運転で必須となるカメラは自社で開発し、Turnkeyとして提供しています。自動運転に最適化しているため、夜間や逆光でも鮮明な映像が得られます。また、モジュールとレンズの組み合わせも目的に合わせて選択し、信号機の認識には遠くまで見えるよう画角を絞る、あるいは物体検出のような場面であれば逆に画角を広くして特定範囲内のオブジェクトを鮮明化するといったことが可能です(図表6)。

カメラ&LiDAR

図表6:暗所や逆光でも鮮明に見える、LED式信号を正確に読み取るといった、自動運転に必要な要求を満たすカメラを自社で開発した

さらに、レーザー光を利用したセンサーであるLiDAR(ライダー)とカメラを同期して、物体検出やリモート監視に利用するなど、さまざまな機能をパッケージで提供しています(図表7)。

複数のセンサーを融合させたセンシング技術も開発

図表7:物体の形状や物体までの距離を測定するLiDARセンサーと、カメラの映像を同期させてより高精度なセンシングを実現する技術も提供している

・デジタルツイン型シミュレーションシステム

自動運転の最終段階には実車両でのテストが必須となりますが、その前段階までの間はシミュレーションシステムを使うことで時間とコストを節約し、品質の向上を図るのが効果的です。シミュレーターにはさまざまなタイプがありますが、ティアフォーでは実世界とほぼ同一の環境を仮想空間に構築したデジタルツイン型システムを提供しています。

現実の街中を再現した仮想空間に、現実世界と同様の振る舞いを再現するよう設定された車や歩行者などのアセットを用意します。その中で自動運転車を走らせることで、検出性能などのテストを実施できます(図表8)。

デジタルツインでテストを効率化

図表8:現実の街と瓜二つの仮想空間(=デジタルツイン)を用意し、実際の道路走行テストの前に高精度なシミュレーションができるようにしている

・FMS

FMS=フリートマネジメントシステム(車両管理システム)はバス会社などが旅客運用に利用していますが、ティアフォーのFMSは自動運転車の運用に必要となるデータの収集や集計、解析などの機能に特化しています。走行中の情報は常時ログとして保存されていて、ストリーミングで見ることもできますし、後から再生して問題が発生した場所や状況を確認し、原因の特定などに役立てることも可能です。また、運用テストの際に必要となる走行ルートの作成機能も提供しています(図表9)。

自動運転車の運用をサポートするFMS

図表9:運用面での問題を検出するために、運行ログを取得・蓄積するFMSも用意している

これらのソリューションを使った運用実証が、すでにさまざまな形で実施されています。図表10は保険会社の例で、オペレーターが遠隔地から自動運転車の見守りサポートを提供するサービスです。我々のプロダクトを利用することで、自動運転に関する新規事業も短期間で実証まで進むことが可能になっており、こうした事例が続々と増えている状況です。

ソリューションの実装事例も増加中

図表10:損保会社が開発を進めている自動運転の運行見守りサービスも、ティアフォーのプロダクトを利用することで容易に構築できる

AutowareとAutoware Foundation

■オープンソースと開発体制

続いてティアフォーの開発体制についてご説明します。ソフトウェア開発ではV字モデルというのが一般的ですが、オープンソースであるAutowareを基盤としたティアフォーは少し特徴的で、2つのV字が存在します。左側は明確なターゲット設定はなく、あくまでリファレンスを作るためのV字です。オープンソースというのは利用者が個々の目的に合わせて使える状態が理想なので、こうしたスタンスが必要になります。一方、右側は特定のお客様の要求を反映する開発で、全てテストケースを作って検証、妥当性を確認する形です。この2つを社内で分けて開発しているのがユニークな点かと思います(図表11)。

ティアフォーの開発モデル

図表11:ティアフォーでは研究開発のためのV字と、顧客向けプロダクト開発のためのV字、2つのV字モデルを組み合わせた開発体制を敷いている

Autowareは誰でもダウンロードして使うことができます。自動運転に必要となる基礎的な機能は全部含まれていますので、そのまま使うのも良し、カスタマイズするのも良しという形です。すでに正確なカウントはできませんが、我々が把握している範囲では少なくとも数百の企業に導入されていて、車のモデル数も30~50種程度に広がっていると思われます。興味をお持ちであれば、ぜひダウンロードしてみてください。
Autoware 入手先 https://github.com/autowarefoundation/autoware

余談ですが、GitHubにはスター数というものがあって、オープンソースの認知度や評価を示す重要な指標になっていますので、もし気に入っていただければスターを押してもらえると大変うれしく思います。

■Autoware Foundationの概要

冒頭で述べた通り、私個人としてはティアフォーというスタートアップの代表者と、The Autoware Foundationというオープンソースコミュニティーのチェアマンを兼任しており、ビジネスとNPOの2つの顔で自動運転の社会実装に取り組んでいます。ティアフォーの開発パートナーになっていただくのも、Autoware Foundationのメンバーになっていただくのも、どちらも大歓迎という立場です。ソフトウェアを作るだけでなく、エコシステムも構築していかないと、最終的に市場で勝ち抜くことはできないと考えるからです。

The Autoware Foundationは現在60~70社程度の体制になっていて、その中ではティアフォーもあくまでメンバー企業の一つという立ち位置です。オープンソースなので誰でも開発には参加できますが、次にどんな機能を開発するのか、どんな環境に特化していくのかといった方向性は、コミュニティーの中で決めていきます。メンバー企業には意思決定に参加できるというメリットがありますので、会費は必要ですが、オープンソースの運用に興味があれば、ぜひご検討いただければと思います(図表12)。

Autowareの開発・普及を主導するNPO

図表12:The Autoware Foundationのメンバー企業。自動車産業だけでなく、半導体メーカーやソフトウェアメーカー、大学などさまざまな企業・団体が参画している 
https://autoware.org/

活動実績としてはティアフォーが存在する日本がトップですが、実際のユーザー数が多いのは中国です。今後、中国・韓国・台湾といったアジア諸国にThe Autoware Foundationのセクターを設ける予定で、海外ユーザーとの連携も活発化が予想されます。

今後の展開

■専用半導体の開発

ティアフォーのプロダクトを使うことで現状でも自動運転車は作れますが、ハードウェアのコストと消費電力の高さが課題になっています。その解決に向け、自動運転ソフトウェアに最適化した専用半導体の開発を進めています(図表13)。試作品はすでに完成しており、これからAutowareがあらかじめ実装された状態での量産化に着手する予定です。

半導体の開発も手掛ける

図表13:カメラと同様に、半導体についても自動運転に最適化したものを独自に開発している

■自動運転に特化したEVの開発

現在の自動運転車は既存の車両に自動運転システムを組み込む形が主流ですが、ティアフォーでは最初から自動運転に最適化した専用EVの開発も進めています。ビジネスモデルとしては、まず我々がプロトタイプを少量生産し、パートナー企業がそれを量産化するという方式を考えています。

おわりに

自動運転は発展途上の段階にあり、開発や運用は各社がそれぞれの手法で行っていて、標準的なプロセスも存在しません。図表14は試案ですが、こうしたプロセスが規格化されていけば、自動運転に参入する間口が広がり、社会実装がもっと加速していくのではないかと考えています。

自動運転の開発・運用プロセスの試案

図表14 自動運転の社会実装の早期実現には、開発・運用プロセスの標準化も求められる

ただ、自動運転の世界にはやるべきことが本当にたくさんあって、私が知る限りでは全てを1社でこなせる会社は世の中に存在しないと思っています。

そのため、例えばシステムの開発はティアフォーが行い、その検証や妥当性確認、エンジニアリングの部分はベリサーブの様な企業が担当するなど、いくつかの会社がそれぞれの強みを持ち寄ることで、初めてお客様に満足度の高い製品やサービスが届けられるのではないかと考えています。そして、こうしたコラボレーションをさまざまな場所で可能にすることが、オープンソースの意義でもあると思っています。

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