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「技術の社会実装」に使命感、ウルシステムズ・漆原茂氏が目指すもの(後編)

ウルシステムズ株式会社代表取締役会長漆原茂

1987年に東京大学工学部を卒業し、沖電気工業入社。 1989年より2年間、スタンフォード大学コンピュータシステム研究所客員研究員として留学。2000年7月、ウルシステムズ株式会社を創業、代表取締役社長就任。2006年に大阪証券取引所(現・東京証券取引所)JASDAQ スタンダードに上場。2022年5月から現職。

品質とは「顧客にとってのビジネス価値」

前編はこちら

前編でも紹介した通り、漆原茂氏が2000年にウルシステムズを創業した目的は、「エンジニアが輝ける“エモい”組織」を作ること。そして、顧客に最大限の価値を届けるべく、システム案件の受注者として顧客と対峙するのではなく、逆に発注者側に自ら入り込んで共にシステムを作り上げていくことである。

経営面はスタートアップとしての紆余曲折があったものの、創業当時に抱いていた志は今もまったくぶれていないと漆原氏は力説する。

「やりたいことをやるために立ち上げた会社ですから、当初の目的は24年経った今も1ミリたりともずれていません。おかげさまで会社の規模は大きくなりました。これは『複雑で難易度の高い案件』しか引き受けない私たちに対して、お客様からのニーズが多いから、結果としてそうなったのです」

このような漆原氏のこだわりは、ウルシステムズが手掛ける仕事の「品質」にも色濃く反映されている。ソフトウェア開発における品質というと、一般的には「バグが少ない」「要件を満遍なく満たしている」ことなどが重要視されるが、漆原氏は必ずしもそうした観点だけにはこだわらない。

「僕にとっての品質は、一言で言うと『お客様にとってのビジネス価値』です。たとえ機能がとても少ないシステムでも、結果的に高いビジネス価値を実現できれば、それは品質が高いということになります。極端な話、システムではなく人手で業務を回すことになっても、ビジネス価値を発揮できれば十分に品質が高い仕組みだと言えます」

では、「顧客にとってのビジネス価値」を高めるために、ウルシステムズのエンジニアたちはどのような点に留意して日々の仕事に向き合っているのか。漆原氏は「ビジネスゴールをきちんと理解すること」が何よりも重要だと指摘する。

「『何のためにこのシステムがあるのか』を、常に念頭に置いておくことが大事です。たとえ老朽化したシステムのリプレース案件であったとしても、リプレースすることで実現したいビジネスゴールが必ずあるわけです。まずはお客様に徹底的にヒアリングして、『このシステムで実現したいこと』を把握した上で、ビジネス要件の優先順位についてしっかり合意を取ることが大事です」

シンプルなアーキテクチャ設計でなくてはならない

ビジネス価値を高めるためには、当然のことながら「システムを納品して終わり」というわけにはいかない。実際にそのシステムが本番環境で稼働し、ビジネスが着実に回り拡大し、ユーザーが大きな成果を獲得できた時点で、ようやくウルシステムズのミッションは完遂となる。

そのためには、顧客のビジネス現場に赴いて業務を回すことも厭わないという。

「必要であればお客様の店舗業務や工場にも直接伺いますよ。必ず現場の最前線に行きます。私たちは『絵を描いて終わりのコンサルタント』でもなく『システムを作って終わりの開発屋』でもない。徹底的にお客様のビジネスを理解し、一緒にビジネスの内製開発に取り組むのがうちのやり方なんです」

もう1つ、漆原氏がこだわっているのが、上流の設計フェーズにおける品質の確保だ。特に「きれいにシンプルに設計する」ことを重視する。

「建築の世界でも、増築や改装を繰り返して“魔改造”した建物は大変ですよね。システムのアーキテクチャも同じで、極力シンプルで統一感のあるものが理想です。そのためにはアーキテクトがシンプルできれいに設計することが大事です。また最初はきれいでも後で壁に穴を開けられてしまっては建物が壊れます。クリーンなアークテクチャをきちんと維持し続けることも必要です」

優れたアーキテクトが設計したシンプルなアーキテクチャは、後々運用を続けていくうちに発生するシステムや技術変更のリスクも大幅に低減してくれるという。大規模な基幹システムは、10年以上の期間にわたって運用される。近年のIT技術の進化スピードの速さを考えると、その間にインフラやミドルウェアの技術トレンドはどんどん移り変わっていくため、運用中に中身の変更を余儀なくされることもあり得る。

そんな場合でも、きれいなアーキテクチャであれば、中のコードにほとんど手を加えることなく、新たなインフラにそのまま載せ替えることができる。事実、ウルシステムズでは過去に何度もそうした大規模プロジェクトを経験している。「当社のフレームワークをベースに開発したプロジェクトでは、業務アプリケーションのコードを1行も変更せずにミドルウェア製品をスパーンと入れ替えられました。本当に気持ち良かったですね」と漆原氏は振り返り、「エンジニアの魂が息づいているシステムは、何年経っても生き生きしています」と力を込める。

社会実装に努めるエンジニアにもっと光を当てたい

会社員時代、そして起業してから今に至るまでのキャリアにおいて、さまざまな実績を上げてきた漆原氏。その仕事観、さらに大げさに言えば人生観の根底にあるものは何だろうか。それは「技術の社会実装」だという。

ただ製品を作ってリリースするだけでなく、実際に顧客がそれを使って価値を生み出すこと、つまり、世の中にきちんと実装されることに面白みと喜びを感じる。漆原氏は「産業革命」を引き合いに、次のように説明する。

「イギリスで起きた産業革命は、ジェームズ・ワットによる蒸気機関の発明に端を発すると言われています。でも、それから半世紀近く経ってから、ジョージ・スチーブンソンが蒸気機関車を公共鉄道に実用化し、さらにストックトン&ダーリントン鉄道が開通したことで一気にイノベーションが広がりました」

漆原氏はジェームズ・ワットの発明だけでなく、むしろ既存技術を蒸気機関車という形に昇華させて社会実装したジョージ・スティーブンソンや、社会実装のために枕木を並べて線路を敷いた名も無き技術者たちの創意工夫と奮闘に心を惹かれる。そして自身も、IT業界で人知れず高い価値を生み続ける「名も無きITエンジニア」の活躍に、もっと光を当てたいと力説する。

「どれだけ優れた製品やサービスであっても、それを社会実装して価値を生むにはエンジニアのスキルとセンスが絶対に必要です。特にエンタープライズ業務システムは難しい。これを見事にやってのけることは、実は芸術の域に近い、創造的な営みなんです。そういうエンジニアの意義を広く啓蒙していきたい」

製品リリース後の“ライブ感”が醍醐味

とはいえ、社会実装はエンジニア一人だけの力ではできない。発明は一人の天才によって成し遂げられるかもしれないが、それを世の中に普及させるには多くの人々の協力が不可欠であるからだ。漆原氏は「チーム」で取り組むことの重要性を強調する。

「一個人としては、これからも好きなことをやり続けるエンジニアでありたいと思います。それと同時に、経営者としては、多くのエンジニアがワクワクする仕事をできるようなチームでの組織運営を探求していきたいです」

漆原氏はプライベートでは、特にライブの音楽鑑賞が好きだそうだ。しばしば好きなバンドやアーティストのパフォーマンスをじかに聞きに行く。そうした体験から感じるのは、「ミュージシャンも、われわれエンジニアも同じ」だということだ。

「ミュージシャンも一人で作曲するだけでは終わりません。それをほかの仲間と一緒に音源として完成させ、リスナーのもとに楽曲として届けています。さらにライブコンサートをやることで、ファンと一緒に会場で一体化し興奮を分かち合えることにやりがいを感じているはず。多くのエンジニアも同様で、製品やサービスをリリースした後にユーザーから得られる反応の“ライブ感”こそが最大の醍醐味なのです」

過去よりも未来。誰しもがワクワクするような社会をこれからも、エンジニアの仲間たちと共に作り上げていきたい。漆原氏はそう意気込んだ。

ウルシステムズ株式会社代表取締役会長漆原茂

1987年に東京大学工学部を卒業し、沖電気工業入社。 1989年より2年間、スタンフォード大学コンピュータシステム研究所客員研究員として留学。2000年7月、ウルシステムズ株式会社を創業、代表取締役社長就任。2006年に大阪証券取引所(現・東京証券取引所)JASDAQ スタンダードに上場。2022年5月から現職。

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