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「CES2025」現地取材リポート:ベネチアン会場 編 ~展示でのAIの使われ方とX社の基調講演など~

「CES2025」現地取材リポート:ベネチアン会場 編 ~展示でのAIの使われ方とX社の基調講演など~

2025年1月7日~10日にアメリカ・ラスベガスで「CES2025」が開催されました。ベリサーブから参加した研究開発部員3名が、それぞれの観点から取材したリポートを3回に分けてお届けします。本記事では、ベネチアン会場での基調講演や展示についてご紹介します。

「CES」について

「CES(Consumer Electronics Show)」は、毎年1月にアメリカ・ラスベガスで開催される世界最大規模のテクノロジー見本市です。今年は人工知能(AI)、デジタルヘルス、自動車技術と先進モビリティなどをテーマに開催されました。世界各国・地域から約4,500社が出展、14万1千人以上の来場者(昨年比+3千人)と6千人を超えるメディア関係者が集まりました。

会場の様子
会場の様子

ベネチアン会場の様子

ベネチアン会場には1階と地下の二つの展示エリアがあります。1階はスマートホーム、ライフスタイルやデジタルヘルスなどの企業エリアと、「CESイノベーションアワード」製品が展示されたエリアで構成されており、多くの日本企業がここに出展していました。また、地下にはスタートアップ企業や各国のパビリオンが出展していました。

会場地図
会場地図

X社の基調講演

ベネチアン会場では、X社のリンダ・ヤッカリーノCEOの基調講演を聴講しました。

Xは、世界中の人々が日常的に活用しているプラットフォームであるため、基調講演ではサービスの社会的な責任について強調されていたような印象を受けました。

Xを「グローバルタウンスクエア」と表現し、言論の自由と民主主義を実現するという社会的な役割を担っていると認識されているように受け取りました。サービスがどこを目指しているのか、どのような影響を与えるものか、ということがイメージできるような表現であるように感じます。関連して、信頼性の高い情報が流通するように、コミュニティノート機能を重要視しているという言及がありました。

また、基調講演の終盤で、プラットフォーム上で発行される「Xマネー」という通貨の提供について言及があり、サービスのさらなる進化に期待を持たせる形で講演を終了した点も印象的でした。

X社の基調講演の様子
X社の基調講演の様子

日本のスタートアップ企業によるAI関連の展示

ベネチアン会場では主にスタートアップ企業による展示が行われていました。各国のテック系企業の展示が軒を連ねる中、日本のスタートアップ企業の展示エリアも盛り上がりを見せていました。

ここでは、日本のスタートアップ企業の中で、AIの使い方に特色があった製品について紹介します。

Japanパビリオン
Japanパビリオン

1. Memory AI (Memory Lab社)

「Memory AI」は、研究開発・新規事業を加速するためにAIを活用するというコンセプトの製品です。基本的には技術調査・市場調査の段階における効率化に活用するユースケースを想定しているとのことです。

個人的には、論文や特許などの情報をAIから問い合わせ可能な状態で保有している点が差別化ポイントであると感じました。一般的に、企業が保有しているデータやWeb上に蓄積しているデータは、価値のあるものとそうでないものが判別不可能な状態で散乱しているといわれています。ある業務において価値のあるデータが特定されていて、その価値あるデータへアクセスしやすいインターフェースが提供されている状態は、該当業務の効率化に大きく貢献すると考えます。

また、「研究開発が個人やチームのインスピレーションのみで動いてしまい、事業につながることなく終了してしまう」といった問題を解決し、妥当な投資判断を組織全体で自然にできるようになっていくサービスだと感じました。

Memory AI
Memory AI

2. ideaflow (知財図鑑社)

「ideaflow」は、特許情報を基にアイデアを作り、そのアイデアをチーム内で共有することができる製品です。アイデアを作るという、とりわけ人に依存しがちなタスクを対象にしている点が特徴的だと感じました。

こちらの製品も特許情報という独自のデータを保有し、そのデータへのアクセスのしやすさを提供しています。加えて、アイデア作りという業務プロセスをワークフローに落とし込み、人からの最低限のインプットのみでそのフローを再現できるように見えました。

アイデアのベースとなる特許を選択し、実現したいことや提供したい価値などの補足情報を入力すると、複数の事業アイデアを提案してくれるワークフローを実現しています。

3. Romi (MIXI社)

「Romi」は、MIXI社が開発しているAIロボットです。AIに身体性を与えるという技術の一つだと思われますが、人と似た身体性ではなく、人間とは違う存在として設計している点が興味深かったです。

開発者に直接伺ったところ、ターゲットとなっているユーザーが親しみを感じやすい外見を追求されているとのことでした。また、コンセプトに合った応答を引き出すことを目的に、LLMを自社開発し、搭載しています。

今後の展望として、Romiが相づちを打てるようにするといったアップデートも検討されているようです。相づちはリアルタイム性が高く臨機応変な反応が必要なタスクなので、どのような技術で実現しようとしているのか興味を引かれました。基本的にはLLMとの会話はターン性(ユーザーとシステムが交互に発信する形)になっていると思うので、自律的な判断とアクションがどのように実装されるのか非常に楽しみです。 

Romi
Romi

4. muiボード (mui Lab社)

家電にAIを搭載し、快適に家全体を制御するというアプローチは、他の会場などでも多くありました。mui Lab社の製品はAIを家電に搭載するという側面では、スマート家電プロダクトと共通していますが、「無為自然(作為なく自ずと然る)」という考え方に準拠して住環境を作っていくという点で違いがあります。

AIを搭載した製品は、人によっては監視されている感覚になったり、居心地の悪さにつながったりすることもあるので、生活とテクノロジーが自然に融合した姿は新鮮に感じました。

muiボード
muiボード

AIの使われ方

ワークフローとエージェント

2024年から2025年にかけて、AIエージェントというワードがよく話題に上がるようになってきています。エージェントの定義はさまざまありますが、エージェントというワードが広く取り上げられる一つのきっかけとなったAnthropicの記事によると、エージェントシステムという広い概念をワークフローとエージェントに大きく分けているようです。

  • ワークフロー:AIとツールが事前定義されたコードパスを通じて呼び出されるシステム
  • エージェント:AIが独自のプロセスとツールの使用を判断・指示し、タスクの達成方法を制御するシステム

CESで展示されていたサービスについて考えると、特にBtoBのサービスにおいて、狭義のエージェント型のシステムよりもワークフロー型のシステムの多さが目立っていたように感じました。ある特定の業務を自動化する際に、完全自律型のエージェントに判断も含めた業務を任せてしまうのはリスクが高いという共通認識があるということだと考えます。

現在、OpenAI社・Google社・DeepSeek社などが開発を進めている「考えるプロセスを学習したモデル」の発達、OSSなどエージェント構築のためのエコシステムの形成が進んでいる段階だと思います。来年のCES2026では、より自律性の高いエージェントの展示が増えていくかもしれないと感じました。

私たちベリサーブは品質・テストに強みを持つ会社ですので、自律性の高いエージェントのような「テストしにくいシステム」に対して、期待される品質をどのように満たしていくのか考えていく必要があります。現在多く見られるワークフロー型のシステムのように、行動の予測ができる場合は従来のテストで品質を上げていくことが可能であると思います。一方で、これから増えていくであろう「環境と作用しながら自律的に判断するエージェント」を対象とした場合、既存のアプローチが有効的な手段であり続けるかどうかは一考の余地があります。

AIをどのような存在に見せるか

もう一つ、CES2025で興味を引かれた点があります。それは、「AIをどのような存在に見せるか」という側面で企業ごとの色が出るという点です。

MIXI社やmui Lab社の製品は、企業としてユーザーや社会に提供したい価値に合わせて、矛盾しないAIの使い方・見せ方を試行錯誤しているように感じました。GPTをはじめとしたLLMは言語を扱うAIなので、言語という強力な意思疎通の手段を使って、企業がユーザーへ(もしくはユーザーが別のユーザーへ)メッセージを伝えることを助けてくれると考えます。今回の展示を見て、何かを伝えて価値を提供するという目的において、なんでもできる万能性というものは必ずしも求められないということを感じました。

生成AIという言葉が広く世に浸透してから2年以上たちますが、まだAIは完全に社会に浸透して誰もが使うものにはなっていません。万能性に対して抱く恐怖を緩和し、「人が潜在的に求めている心地良さ」を提供できるようにするアプローチも重要になってくるのではないかと考えます。これは、特に日本企業の展示を見ながら強く感じました。このような背景も踏まえて、「品質創造」を掲げているベリサーブとしては、人が潜在的に持っている感情や思考も踏まえて製品を良くしていく手段を整備していく必要があると考えます。

最後になりますが、私自身CESには初めて参加しました。さまざまな発見があり、それぞれの製品・企業・技術に対する見方が変わるような体験ができたように感じます。もし再度参加できる機会があれば、CES2025からどのような変化があったのかを体感したいと思います。

参考文献

[1] https://www.anthropic.com/research/building-effective-agents, Accessed Feb 5, 2025.

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