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【連載】概念モデリングを習得しよう:概念モデリングにおける、二項リンクと関連リンク(第9回)

【前回の連載記事はこちら】
【連載】概念モデリングを習得しよう:圏I のモデルにおける、特徴値のデータ型(第8回)
読者の皆さん、こんにちは。Knowledge & Experience 代表の太田 寛です。
この連載コラムでは概念モデリングの解説を行っています。
今回は、概念モデリングにおける、二項リンクと関連リンクについて詳しく解説していきます。
概念モデリングでは、圏I を構成する全ての概念インスタンスの特徴値は、全て値が確定していなければならないという制約を課すことにします。値が確定していないということは、モデル化対象の意味の場に対応する存在がないことを意味するからです。
念のため、追記しておきますが、参照を表す特徴値の場合、その値の元となるリンクが存在しない場合がありますが、あらかじめリンクがどこかの時点で発生しうると分かっていれば、その特徴値は NULL(空)という値、つまりリンクがない、という値で確定していると考えてください。
リンク
リンクは、概念インスタンスと概念インスタンスの意味的なつながりを記述します。概念モデリングにおけるリンクには以下の2種類があります。
- 二項リンク
- 関連リンク
まず、リンクの基本である二項リンクです。

図に表現する場合は、二つの概念インスタンスの意味的つながりを線で表し、その両端に相手方の概念インスタンスがどのような意味でつながっているのかを示す簡潔な文を添えます。この両端の文は、それぞれの側の概念インスタンスと組み合わせた時に、述語文になるようにします。左側の文をml、右端の文をmrとし、図を例に取れば、
- 左側の概念インスタンス:Lから見た右側の概念インスタンス:R
⇒ L は R の mr である
- 右側の概念インスタンス:Rから見た左側の概念インスタンス:L
⇒ R は L の ml である
日本語の特性上、“てにをは”は若干変わる場合はありますが、上のような述語文が導出できます。
一見すると、mr と ml は主語と目的語を逆にした文にしかならないようにも思えますが、モデル化対象の意味の場を深く考察すれば、おのずと、なるほど、と思うような文が浮かび上がってくるものです。意味の場において、それぞれの概念インスタンスが、なぜそのような存在なのかを規定するのは、リンクなので、拾い上げた意味が述語文として成り立つことを考えながら、十分吟味した文を拾い上げるようにしてください。
余談になりますが、概念インスタンスとそれにひも付く特徴値についても、“そのリンゴの色は赤い”というような
- その概念インスタンスの特徴値はxxxだ
という形式の述語文になります。この述語文を念頭に特徴値を拾い上げることにしましょう。
関連リンク
次は、関連リンクです。
意味の場に含まれる存在の中には、二つの概念インスタンスをつなぐリンクが性質を伴っている場合があります。

図に示したように、契約は、ある一定期間において、規定の重さ以上のリンゴの出荷時の値段と、最低出荷個数といった値群が、その契約を特徴付けます。契約という概念は、このリンクの両端の概念インスタンスがそろって初めて生まれる概念であり、契約を特徴付ける値群を、リンクの両端のどちらか一方の概念インスタンスの特徴値として定義することはできません。
このような場合、リンクと一対一に対応する概念インスタンスを定義し、その性質を記述する値群を、その特徴値として定義します。こうした一つの概念インスタンスがひも付くようなリンクのことを“関連リンク”と呼ぶことにしています。
図で描く場合は、リンクを表す実線の適当な位置から、ひも付く概念インスタンスに点線を描いて表現します。関連リンクの場合も、実線の両端には、そのリンクの意味を表す文を、二項リンクの時と同じように添えます。
関連リンクからは、リンクにひも付いた概念インスタンスを A と書くと、
- L は A において、R の mr である
- R は A において、L の ml である
といった述語文が導出されます。
余談ですが、述語文は、“記号論理入門”で解説されているような一階の形式言語Lを使って、論理式として書き換え可能です。つまり、概念モデリングの圏I のモデルは、記号論理学で論証可能であるということです。以前の記事で、フレーゲやウィトゲンシュタインの言語哲学によれば、
- 文で記述したこと=世界(意味の場)に実際に存在する
ならば、その文の意味は真であり、存在しないならば偽であるという言説を紹介しました。
記号論理学においても、
- 論証するということ=論理文が真か偽かを判定する
ということで、言語哲学と記号論理学の考え方は一致していると考えられます。記号論理学は、カント以来の言語哲学を下地にしているので、当たり前といえば当たり前なのですが。
結果として、圏Iのモデルは、現実世界(意味の場)の写しなので、そのモデルから導出した述語文=論理文は、全て真でなければなりません。
複数の論理式を扱う場合、それぞれの論理式に現れる変項群が、どんな関係にあるのか混乱することがよくある(少なくとも筆者は苦手です)のですが、そんな時こそ、圏Iのモデルを作っておけば、論理判定の良きチャートになるでしょう。
以上で、リンクの解説は終了です。
次回は、圏Iのモデルを作ることと、人間が思考するということの関係性について言及していきます。
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