スキルアップ
「8th長崎 Software Quality and Development Gathering」取材リポート

目次
2025年2月7日(金)に出島メッセ長崎(長崎県・長崎市)にて、「8th 長崎Software Quality and Development Gathering 」が開催されました。本記事では、当日の様子をご紹介します。
「長崎 Software Quality and Develop Gathering」とは
「長崎 Software Quality and Develop Gathering(以下、長崎QDG)」は、NaITE(長崎IT技術者会)が主催する、ソフトウェアの品質と開発の技術を取り扱うカンファレンスです。特定の分野や技術に限定せず、プロジェクトを遂行する上で必要となる全ての技術を対象に、参加者・登壇者・実行委員の全てが、それぞれの立場から平等に議論する場を目指しています。
8回目を迎える今回のテーマは「品質・テスト」。品質・テストはソフトウェアの信頼性を支える礎であり、これらの取り組みを進化・深化させていくには、実践的なノウハウや最新の技術動向を知ることが大切です。そこで、「現場の課題を解決するためのヒントやインスピレーションを得る」ことを目的に、当カンファレンスが開催されました。
スペシャルセッション
1,事業継承を支える自動テストの考え方 末村 拓也氏(オーティファイ株式会社)
ビジネスの拡大と ニーズの変化に伴うソフトウェアの複雑化と、複雑化するソフトウェアを支えるための自動テストの取り組みについて説明されました。テストを自動化することで、エンジニア が手動で行うテストの負荷を軽減すること が可能になるので、自動テストは継続的な品質保証を実現するための手段であると説明されていました。

2,ビジネスと現場活動をつなぐソフトウェアエンジニアリング~とあるスタートアッププロダクトの成長記録より~ 水野 昇幸氏(システムエンジニアリング)
スタートアッププロダクト開発のゼロイチフェーズから 市場投入後の成長にかけてのプロセスの見直し、 品質への取り組みについて説明されました。ユーザーが付くか付かないかの状況では、高速でプロトタイプを作り、市場投入することに取り組み、市場投入とユーザーの拡大が見え始めたら、品質に対して厳 しくプロセスをコントロールすることが大切だと説明されていました。

3,ゆもつよがこの30年間自ら経験してきたQA、テストの歴史と未来 湯本 剛氏(フリー株式会社、株式会社ytte Lab)
過去30年でソフトウェアテストと品質保証(QA)の 仕事の必要性や価値がどのように変化してきたのか、これか ら先どのようなことがQAやソフトウェアテストに必要となる のかを、自身が経験した事例を交えながら紹介されました。また今後のQAの活動については、総合的な品質のための品質コントロール(QC)活動となり、「PQCDSME」指標が経営指標となること、開発だけでなく全組織を巻き込んだ活動になるだろうと予測されていました。

技術・事例・研究セッション
1,テストアーキテクチャ設計で実現する高品質で高スピードな開発の実践 苅田 蓮氏(フリー株式会社)
論理的機能構造による分類と、テストケースの重篤度分類、テストサイズ最適化による効率的なテストスイートの構築について説明されました。取り組みの成果として、リリー ス頻度が短縮できたこと、デグ レの流出を防ぐことができたことによる品質向上があり、重篤度に基づいたテストケースの選定により、クリティカルな問題に対して迅速に対応できるようになったこと、などを紹介されていました。

2,社内有識者観点を用いたソースコードレビュー自動化の取り組み 武次 恭平氏(京セラコミュニケーションシステム株式会社)
内部課題の解決を目的に、コードレビューの自動化に取り組み始めた際の経験を説明されました。開発者に数値を提示しただけではどのように修正すればよいか分からないため、AIを活用してソースコードの改善提案をセットで実施したこと、開発者が修正した際には感謝のメッセージが表示されるなど、開発者のモチベーション向上にも寄与する活動を紹介されていました。

クロージングトークセッション:テストエンジニアや品質エンジニアの未来を大いに語ろう
AIの登場によりテストエンジニアや品質エンジニアに求められる変化はさらに大きくなっており、こうした時代に対応するための教育や育成の重要性も増しています。そこでパネリストがテストエンジニアや品質エンジニアの未来について語ると共に、会場参加者からの質問にも回答しました。
司会進行:池田 暁氏(クオリティアーツ、NPO法人ASTER)
パネリスト:湯本 剛氏(フリー株式会社、株式会社ytte Lab)
大西 建児氏(株式会社ベリサーブ)
——これまでのテストエンジニアや品質エンジニアに求められてきた変化について教えてください。
大西:私が日本企業から外資系企業に転職してから、日本と海外ではエンジニアの定義が違うという事に気付きました。海外ではインフォメーションシステムやソフトウェアエンジニアリング、コンピュータサイエンスなどを学んでいないとエンジニアにはなれません。一方、日本ではそれらを教育機関で学んでから従事している人は非常に少ないです。そういう意味では、日本のテストエンジニアの多くはテストテクニシャン、テストオペレーターに近いです。現在、日本のテストに携わっている方の多くは頭の中で探索的テストをやっており、そのノウハウはありますが、これからのテストエンジニアは自動化のスキルなど、エンジニアとしての基礎をしっかり身に付けていかないと、生き残っていくのは難しいと思っています。
池田:エンジニアという言葉の使われ方が国内外で違っている件は、SNSを中心によく論争になっていますよね。海外ではエンジニアリングという行為には弁護士や公認会計士・医師などのように高い専門性が要求されます。この国際基準で考えると、日本国内で使われるエンジニアは技術士に相当するものと考えられます。個人的には、エンジニアに興味を持った人であれば誰でも入ってきやすい日本の柔軟さは、良い文化だなと思っています。

湯本:大西さんはご自身のキャリアの中でテストやエンジニアについて勉強されていますが、私は最初全く知りませんでした。テストをやっているコミュニティーに入り、そのオフ会で自動テストをやっている方たちの話を聞き、“技術が物事を解決していく”のだと理解していきました。自動テストも技術の一つなので、ちゃんと理解しなければと焦り出して勉強をスタートしました。
——これからのテストエンジニアや品質エンジニアに求められる変化について教えてください。
湯本:今は、全ての情報はネットで調べれば分かる時代です。勉強するための情報もほぼ無料で手に入り、自分の意志さえあれば勉強できます。ただ、実践しないと分からない事もあります。例えば、プロセスを覚える際は現場に合わせる必要があり、調整が必要になります。つまり、課題解決のスキルは本で勉強しただけでは身に付かず、実践が必要になるので、教育もそのように変えていく方が良いと思います。
大西:今の世の中、AI分野の進化がすさまじいです。テストの世界も同様で、数年前まで探索的テストは人間でないとできない、AIでは置き換えられないと思われていましたが、今はそうでもないですよね。一方で、ユーザーの顧客価値が最大かどうかを判断できるのは今のところ人間にしかできないので、ここにソフトウェアエンジニアの価値があると思っています。言い換えれば、皆さんが取り扱うドメインの品質保証に関する知識をしっかりと習得していけば、テストエンジニアの存在はなくならないし、テストエンジニアにできる事はまだまだたくさんあるはずです。

——コミュニティーが果たす役割と未来について教えてください。
大西:テストに関するコミュニティーのオフ会はTEF(Test Engineer's Forum)が開催したのが始まりです。オフ会の熱量はすごく高いので、普段はオンラインでも良いですが、オフ会を開催し直接コミュニケーションを取っていくことが大事だと思っています。
湯本:私は皆でオープンに技術を語り、シェアすることで、日本の技術力が高まると思っています。クローズの場で閉じることなく、皆で情報や技術をシェアして、国全体を良くしていこうというのが理想的です。小さい会社も大きい会社も皆が育っていくのがコミュニティーの価値だと思っているので、“国として勝ちに行こう”を目指していきたいですね。
大西:コミュニティーの良さは、裏話やよもやま話を聞ける点ですよね。私はテストの話だけで一晩語れます。若い人とベテランの人を結び付ける機能も、コミュニティーにはあると思います。
——開発を全くやったことがないテスターに、今後5年間で学んでほしいことについて教えてください。
湯本:私は全くコンピューターの事を知らず、奇跡的にシステムテストができたタイプです。しかし、どういう仕組みでコンピューターが動いているのか分からないと、なぜバグが出るのかが分かりません。そういう点を考えると、勉強はした方がいいですよね。例えば、Techpit(現役のエンジニアが作った教材でサービス開発に必要なスキルが学べるプログラミング学習プラットフォーム)を使い、簡単でいいから、コンピューターがどういう仕組みで作られているのか、技術の基礎程度は分かった方がいいですね。

大西:私自身は学生時代、プログラミングを勉強していましたが、社会人になってからはやっていません。しかし、自分が担当しているシステムやWebサービスにプログラミングの知識が必要であれば勉強した方が良いでしょうね。このプロダクトはどうやって動いているのか、プロダクトの基本的な仕組み位は勉強しておいた方が、次のステージに上がっていけると思います。
池田:私はQAエンジニアには技術者倫理を勉強してもらいたいですね。エンジニアとはこういう仕事だから、使用するこの道具を勉強していこう、という流れが良いと思います。
——海外のテストエンジニアのスキルは日本より高く、日本のテストエンジニアは淘汰(とうた)されるのではないかと危惧しています。今の日本のテストエンジニアに足りない点を教えてください。
大西:海外では品質保証やテストに関するカンファレンスがたくさん開催されており、常に皆でコミュケーションを取りながら進めています。少し前は、日本のテストの方が進んでいた感がありましたが、今は海外の方が先進的な取り組みが多いように感じます。また、日本と海外では品質に対する考え方が違います。海外の場合、100ドルなら100ドルなりの品質で許されます。しかし、日本の場合「品質を落としてはならない」という、いわば強迫観念にとらわれていると思えるくらい品質に敏感です。そのため、海外のテストエンジニアと仕事する場合には、まず相手のスタンスを確認し、プロダクト品質に何を求めるのか互いに意識合わせすべきです。
湯本:日本の技術者が淘汰(とうた)されるのでは、という危機感を持っていれば大丈夫です。日本人は優秀な人とそうではない人の格差が少ないので、基本的には今も優秀だと思っています。ただ、日本は品質に対する考え方がアップデートされていないので、それが開発の足かせになっていると感じます。日本人同士だと、あうんの呼吸で仕事を進められますが、海外の場合は品質に対する考え方を擦り合わせる必要があるため、われわれは海外の人と仕事をする際は、考え方に違いがあると知った上で認識合わせをしていくのが良いでしょう。
——水野さんのセッションで「テストを実施する際、タイミングが大事だ」とありましたが、どの段階でテストを入れるべきか分かりません。また、クライアントや社長・上司にテスト実施や作り直しに関する予算を認めてもらうギミックがあれば教えてください。(ここで池田氏が水野氏を壇上にお呼びして、水野氏がコメントされました)
水野:自分の経験で話すと、プロダクトの性質とプロダクトライフサイクルのタイミングによってテストを入れるタイミングは変わります。例えば、ビジネス化が決まっているなら私は一番最初にテストケースを作りますね。
テスト予算については、不具合が大量に出て炎上などしてテストをやらざるを得なくなれば、すぐに予算は取れますよね。一方、、作り直しの場合はもっと計画的に進めた方がいいですね。まず、プロジェクト管理ツールの情報を集めてうまく活用し、今の問題点をデータに基づいて説明します。その際、お客様への影響なども説明し、「ここまでに作り直したいです」と説明し、次の予算に組み込み、プロダクトを作るための計画を立てています。恐らく、テストをやるより作り直しの計画の方が100倍難しいという感覚があります。
——最後に力強いメッセージをお願いします。
湯本:私が言いたいことは先の私の講演を含めて全て話したのですが、“未来は自分で作る”これに尽きますね。“そういう未来になるのか”ではなく、“そういう未来を作りたい”と思わないと、そういう未来は実現しません。30年後そうなったのは、“自分が今そう思ったからだ”という風に生きていくといいと思います。
大西:長崎は昔から世界とつながっています。そして、これからも世界とつながります。皆さん自身に強い思いがあれば、世界とつながるのは簡単です。ぜひ長崎からどんどん世界に羽ばたいていってほしいと思います。
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