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三菱電機株式会社様 導入事例

品質重視のアジャイル開発に品質技術者(Quality Engineer)を導入し、
品質と開発スピードの両立を実現

三菱電機株式会社

三菱電機株式会社様では、アジャイル開発を手がけるスクラムチームの中に「品質技術者(Quality Engineer、以下QE)」を導入し、この仕組みを全社に普及・定着させようという取り組みを進めています。その一環として、ベリサーブの技術者をQEとして招き、アジャイル開発の品質保証とスピードの向上を図るパイロットプロジェクトを実施しました。そこで、本プロジェクトにおけるベリサーブの支援活動や成果についてご紹介します。

細谷 泰夫 様

細谷 泰夫 様

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 開発・品質管理部 部長

島村 真

島村 真

株式会社ベリサーブ ICT事業本部 SIサービス事業部 流通システム第二課

三菱電機様が目指す品質重視のアジャイル開発

三菱電機様では2023年度にDXイノベーションセンターを設立し、開発・品質管理部においてはDX向けの開発プロセスや品質保証の仕組み作りを行っています。従来の手法は開発完了後に品質保証部門が試験を実施し、品質部門長が最終的な出荷判断を行うというウォーターフォール開発※1に準じたもので、これはアジャイル開発※2を導入した後も踏襲されていました。しかし、今後のデジタルサービスの開発では、顧客が製品を利用している間にも継続的に新しい価値を提供していくことが求められるため、従来のやり方ではリリースまでのスピードアップが大きな課題となります。

※1 各段階を順番に開発していくこと。
※2 変更に柔軟に対応し、フィードバックを頻繁に取り込みながら開発していくこと。

最初のコンセプトとしてはスクラムチームに権限を大きく委譲し、プロダクトオーナーが出荷判定までを行えるようにすることを目指しました。ただし、権限を委譲した後も品質に対するガバナンスは確実に担保する必要があり、従来の品質保証部門による検証に代わる新たな仕組みが求められます。権限委譲によるスピードアップと品質ガバナンスの担保の両立、これを実現するための鍵になると考えたのが「QE」の導入でした。

QEとは何か~その役割と導入のメリット

アジャイル開発では品質に関わる課題として、品質確保の困難さと、顧客に対する品質保証の十分な説明を行うことの難しさの2点が挙げられます。前者に対しては、ウォーターフォール開発で蓄積してきた知見やアジャイル開発で得られた経験をもとにした一定の基準を作り、それを実行することが求められ、後者に対しては策定した基準に適合していることを判断する客観性が必要になります。これらの要求を解決し、アジャイル開発の品質保証を支援する存在として期待されているのが「QE」です。

QEは、アジャイル開発の中でDoD(Definition of Done:完成の定義)の達成に必要な品質保証活動を支援し、DoDを満たしているかを検証・確認する役割を担います。これにより、スプリントレビュー※3をビジネス価値中心の議論に集中させ、開発全体のスピードアップを図れます。また、アジャイル開発における品質保証の仕組みを顧客に提示できるようになり、品質保証の客観性を担保することが可能になります。(図1)

※3 短期間で特定の開発タスクを完了した後、 その成果を開発チームが顧客や関係者に紹介し、フィードバックを得る機会のこと。

図1:アジャイル開発におけるQEの役割

図1:アジャイル開発におけるQEの役割

外部からのQE招聘にベリサーブを選定

三菱電機様では既存のテスト設計方針などをベースに綿密な議論を重ね、QEのロールを組み込んだ開発ガイドラインを策定し、複数の実践プロジェクトを立ち上げています。ここでは開発・品質管理部のスタッフがQEとして参加していますが、これと並行して外部からQEを招くパイロットプロジェクトを立ち上げ、QEを担う技術者の派遣をベリサーブへ依頼しました。

QEには開発プロジェクトの経験に加え、仕様書やソフトウェアに対する客観的な立場での評価、データ分析などの能力が求められます。ベリサーブではこれらに対する豊富な知見とノウハウを有していますが、QEの実務経験はほとんどない状態でした。

これを認識した上で、あえてベリサーブを選定した理由について、三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 開発・品質管理部 部長の細谷 泰夫様は次のように語っています。


「ガイドラインを策定した私たち自身だけでなく、品質の技術やアジャイル開発の十分な知見を持つ第三者が実践した際にも、それが機能するかどうかを検証する必要がありました。また、私たちはQEの仕組みが自社内だけでなく、品質保証に確信を与える手法として世の中へ広がっていくことを望んでいます。これらを踏まえた時に、今回のプロジェクトにはベリサーブさんが適任であると考えました。」

プロジェクトの概要

図2は今回のパイロットプロジェクトの概要を示したもので、ファクトリーオートメーション(FA)の領域で生成AIを活用した製品開発を行うチームをQEが支援するという構成になっています。生成AIを導入した新製品開発は不確実性を伴う上、顧客からのフィードバックを迅速に反映する必要があるため、アジャイル開発が不可欠となります。また、スクラムチームのメンバーは事前に認定スクラムマスターや認定プロダクトオーナーのトレーニングを受講していますが、実戦経験がほとんどないメンバーもいました。ここにDXイノベーションセンターから派遣されるQEとして、株式会社ベリサーブ ICT事業本部 SIサービス事業部 流通システム第二課の島村 真が参加しました。

図2:パイロットプロジェクトの概要

図2:パイロットプロジェクトの概要

「アジャイル開発やテストの経験は豊富であるものの、QEの実践は私自身だけでなく、当社としてもほぼ初めての取り組みです。特に、QEは開発チームの中に入り込むのか、外から支援する存在なのか、その立ち位置について最初は戸惑いがありました。ただ、現場での活動を進める中で、全員が品質に対する目線を合わせることの重要性を再認識し、やはりQEもチームの一員であるべきだと考えるようになりました。この認識に至ってからは、業務をスムーズに進められるようになったと感じています。」(島村)

当初、開発者が設定したDoDの判定基準では、コードのテストカバレッジ(C0:命令網羅)が75%とされていました。しかし、これでは単なる数値目標となっていたため、見直しを行いました。例を挙げると、

  1. 1. 発生させるのが難しい例外処理のテスト(障害時や他要因で発生する不具合処理など)はコードレビューで対応する
  2. 2. E2E(End to End)での確認が適しているテストは、コードのテストカバレッジ対象から外す

このように、あいまいだった残りの25%の「実施しない対象」を具体的に定義しました。これにより、「実施しない対象」以外の部分は、テストカバレッジの目標を100%とすることで、単なる数値目標ではない実効性の高い判定基準に見直しました。

プロジェクトの成果~品質とスピードの両立

2024年10月から2025年3月にかけて実施されたパイロットプロジェクトは、大きなトラブルもなく成功裏に完了しました。この活動を通じて得た経験をもとに、オリジナルのガイドラインから要点を分かりやすく抜粋した指南書を作成し、QEを組織に定着させるための一助とすることができました。

特筆すべきは、品質を上げる役割を担うQEが加わることで、当初予想していた開発スケジュールが大幅に短縮されるなど、開発スピードが向上したことです。これはプロジェクトの上層部の方々にとっても予想外だったようで、完了報告の際にも「ここまで早く進んだのは初めてです」とお褒めの言葉をもらったほどです。

「通常のアジャイル開発では、チームの中で品質に対する迷いが生じるケースが多く見られます。どこまでやるべきかが曖昧な状態では目標へ一直線に向かうことは難しいのですが、QEが加わることで品質の基準が明確化されれば不安が解消され、チームがプロダクトの作り込みに専念できるようになります。これが開発スピードを加速できた要因ではないかと考えています。」(島村)

このことは、プロジェクト完了後の関係者の反応からもうかがえます。

「非常に印象的だったのは、振り返りの場で今回はQEである島村さんに大変助けられたという言葉がチームのメンバーから多く発せられたことです。また、プロジェクトマネジャーからも好意的な意見が寄せられ、ポジティブな評価を受けていました。品質管理に関わる仕事というのは開発サイドからは煙たがられる存在であることも多いのですが、QEがメンバーから感謝されながら品質とスピードを両立できたというのは、大変素晴らしいことであったと感じています。」(細谷様)

今後の展望~QEの普及と発展に向けて

プロジェクトの成功を踏まえ、三菱電機様ではQEの仕組みや有用性に関する情報を広く世に発信していく姿勢を取っています。

「QEの取り組みはさまざまな場でお話していますが、これに興味を持った方々には、ガイドラインや考え方、導入のプロセス、規則の作り方などについても惜しみなく説明しています。その中からは実際にQEの導入に挑戦しようとする人たちも増えていて、私たちはこうした動きを歓迎しています。今後も社内外へ情報や事例の共有なども含めてQEの手法をオープンに広めていきながら、アジャイル開発や品質に関するコミュニティなどにも積極的に貢献していきたいと考えています。」(細谷様)

今回のプロジェクトにおけるQEを導入したアジャイル開発の実践プロジェクトは、ベリサーブにとっても大変貴重な機会となりました。今後は、外部からのQE招聘というチャレンジにベリサーブを選定していただいた三菱電機様の期待にお応えすべく、ここで得られた経験を他のお客様へも展開し、QEの普及と発展の一翼を担う活動に取り組んでまいります。

取材にご協力いただいた企業様

社名   三菱電機株式会社
撮影場所 三菱電機 共創空間Serendie Street Yokohama
URL https://www.mitsubishielectric.co.jp/serendie/

三菱電機株式会社

掲載内容は2025年10月時点のものです。

掲載されている製品名、会社名、サービス名、ロゴマークは全て各社の商標または登録商標です。