Cases
関西テレビソフトウェア株式会社様 導入事例
災害時でも止まらない情報インフラを実現、
IPDC×ブロックチェーンが支える新たな社会基盤

インターネットが遮断された被災地でも、個人や相手の正当性を確認し、行政手続きなどを円滑に行える——そんな構想を現実のものにしようとしているのが、関西テレビソフトウェア株式会社様(以下、関西テレビソフトウェア)です。同社は、放送局の放送波(IPDC:IP Data Cast)を通じてデータを配信し、ブロックチェーンを用いたオフライン検証の仕組みと組み合わせることで、災害時にも機能する情報インフラの実現を目指しています。現在、実証フェーズから社会実装へと歩みを進めている中で不可欠だったのが、第三者機関によるセキュリティ評価でした。ベリサーブと連携して取り組んだ内容とその意義について担当者に話を聞きました。
関西テレビソフトウェア株式会社
横島 裕明 様
ソリューションセンター デジタルデザイングループ チーフエキスパート
大山 悟 様
ソリューションセンター デジタルデザイングループ エキスパート
株式会社ベリサーブ
原 隆
サイバーセキュリティ本部 サイバーセキュリティ部 エンジニア
放送インフラの「堅牢性」を武器に
──まず御社の事業内容について教えてください。
横島:
当社は関西テレビのグループ会社として、放送局特有のシステム開発・運用を強みとしています。例えば、視聴者参加型の投票企画では、短時間に集中するアクセス負荷に対応する技術が求められます。こうした急激なアクセス増加(ピーク対策)のためのWebサービスは他社でも提供しているものの、当社はこれまでの実績を基に高品質なサービスを適正価格で提供できる点に強みがあります。
大山:
そうしたWebサービス制作に加えて、関西テレビの基幹システムである営業放送システム(営放システム)※1の開発・運用、関連業務システム開発・運用、字幕制作が事業の中心です。さらに、SNS運用・動画制作、システム運用・保守、社内情報システムの構築・運用・窓口、AIを活用した字幕制作技術の高度化、放送DX支援など、放送局のデジタル領域全般にわたる業務を担っています。放送は一日たりとも止めることができないため、局内のあらゆる業務を統合的に支える仕組みとして重要な役割を担っています。
※1 番組編成やCM放送枠の管理・進行を担い、放送の運行を制御する放送局の基幹システム
──お二人はIPDCとブロックチェーンを活用した取り組みを推進しており、現在は総務省の実証事業にも採択されています。これについて詳しくお聞かせください。
大山:
この取り組みは、私が放送局のマスター室(主調整室)に常駐することになった約15年前にさかのぼります。放送の運用・技術開発に従事し、さまざまな知識を身に付ける中で、IPDCの最初期の実証実験に関わりました。IPDCとはデータをIPパケット形式で分割し、放送波の中に情報を乗せて一斉配信する放送サービスを指します(図表1)。

図表1:IPDCとブロックチェーンを組み合わせた災害時情報流通・検証の全体像
片や、別の部署に居た横島はブロックチェーン技術の研究をしていて、ある時にたまたま「放送波で一方向にデータを配信できる仕組みがある」と話したことをきっかけに、「ブロックチェーンと組み合わせると面白いのでは」という発想が生まれました。そこからメールなどでやりとりをしながら、一歩ずつ具体化に向けて議論を深めていきました。
最初は技術的な可能性の検証からのスタートで、予算をかけず、ブロックチェーンのテスト用ネットワークと放送機材を借りて研究を進めました。その後、社会ニーズを考えたとき、防災・災害対策というテーマが最もフィットすると判断しました。
それと並行して、自治体などの公募事業への応募を重ね、数年後に総務省の「令和6年度 インターネット上の偽・誤情報対策技術の開発・実証事業」に採択されました。
採択を機に、社内でも少しずつですがやっと「社会実装」が現実のものとして捉えられるようになってきました。公募に向けた企画書を書く過程で、自分たちの技術を世の中に照らし合わせ、誰のためにどう役立つのかを整理する作業は大きな意義があったと実感しています。

なぜ「IPDC×ブロックチェーン」なのか
──この技術基盤の特徴や、他社が容易に追随できない点などはありますか。
大山:
まず、放送インフラは他の通信インフラに依存しない独立した仕組みです。山間部や沿岸部を含む広いエリアに電波を届ける必要があるため、近畿圏では各放送局が数十〜100カ所以上の中継局を展開しています。各中継局には発電機と燃料が備蓄されており、能登半島地震でも発災直後は放送が継続できました。これは通信キャリアなどでは得ることが難しい、社会的・物理的な堅牢性と言えるでしょう。
もう一つは、何と言ってもIPDCとブロックチェーンを組み合わせるという発想でしょうね。放送波でデータを送ると一言で言っていますが、インターネットとは異なり、大きなデータは扱えず、一方向通信です。そこにブロックチェーンのオフライン技術を用いるわけです。簡単に言うと、電子認証時に送受信をする双方での連携が不要な状態を作ることが可能です。さらに、ブロックチェーンが扱うのは地図データのような大容量情報ではなく、指紋のようなハッシュ値(固定長のランダムな文字列)です。放送に割り当てられる電波の帯域が限られるIPDCとの相性が非常に良いため、こうした技術の親和性の高さが私たちのシステムの核なのです。
横島:
「ブロックチェーンを使わないといけない理由は何ですか?」「今までの PKI(Public Key Infrastructure:公開鍵基盤)で十分ではないのですか?」といった質問がよくあります。今後は、緊急避難情報のように、迅速に広く届けることが重要な情報はどんどんIPDCで配信する方が、PKIより有効になっていきます。加えて、私たちの技術の仕組みは、緊急性が高い情報だけでなく、経済活動を維持する上で重要な情報にも対応できる仕組みです。例えば、本人確認や行政手続きに加え、電子マネー決済などの基盤としても活用できると考えています。ここに私たちの取り組みの価値があるはずです。
大山:
こうした技術的な特徴に加えて、強調しておきたいのは、これは公共の電波だということです。総務省の事業である以上、関西テレビだけが独占する仕組みにはすべきでないと考えます。地デジの規格はどの局でも共通ですから、放送局や自治体にIPDCを実装する際の全体スキームを構築し、その見本となる仕組みを整えることで、地方局を含めて低コストで導入できる形の実現を目指しています。

総務省主催の実証事業における成果発信イベントでのデモの様子。位置情報から避難所情報を表示する『防災Compass』アプリ(関西テレビソフトウェア開発)が展示された。

『防災Compass』は、インターネットがつながらない状況下でも、IPDC受信機から提供される位置情報(GPS)を元に、近くの避難所の情報を配信する。配信される情報にはブロックチェーンを用いた検証情報が付与されており、情報の発信主体や改ざんされていないことを確認できる仕組みとなっています。
社会への説明責任において不可欠な専門家による検証
──ベリサーブとの協業のきっかけを教えてください。
横島:
2024年11月に千葉・幕張メッセで開かれた「ブロックチェーンEXPO」に登壇した際、「この技術を聞くためにわざわざ大阪から来ました」とおっしゃる方がいました。それがベリサーブの方でした。後日、当社に技術者の方と共に来社され、私たちが書いたレポート※2などを事前に全て読み込んで来られており、その真剣な姿勢に感銘を受けました。
※2 IDPCとブロックチェーンを活用した災害現場での信頼性検証システム
https://www.ktvs.co.jp/pdf/news/2023_11_pepar.pdf
──そこからベリサーブに第三者機関によるテストを依頼した理由とは何でしょうか。
横島:
2023年には技術的な可能性は確認できていました。しかし、「技術的に可能」と「安全に使える」は別の話です。総務省の事業として採択された以上、安全性が担保されていないものを広めることはできません。そのため、第三者による客観的な評価が不可欠でした。また、社会実装を進める中で、5年後、10年後に必要となる検証を、今のうちに総務省の予算を活用して実施できる点も非常に重要でした。

2026年3月に開催された総務省主催の成果発信イベントには、同社取締役社長の橋本 崇様(写真中央左)、取締役の中島 啓様(向かって左)も参加され、多くの来場者がブースに立ち寄っていた。
──具体的にどのような検証を行ったのでしょうか。
原:
大きく二つのアプローチで評価を進めました。まず比較検証として、今回の方式(IPDC+ブロックチェーン)に加え、PKI方式、さらにWeb3で使われるDID/VC(分散型アイデンティティ/検証可能な証明書)の3方式を運用シナリオに当てはめ、メリットとデメリットを比較しました。その結果、IPDCを組み合わせた方式が災害時の利用に最も適していると確認できました。
もう一つ、セキュリティ面ではリスクアセスメント、いわゆる脅威分析を行いました。システム構成図を作成し、想定される攻撃を徹底的に洗い出しました。これにより、800件を超えるシナリオを整理しています。評価は2025年9月から約4カ月かけて実施し、その後結果の取りまとめを行いました。
──ベリサーブの支援を通じて、新たな気付きはありましたか。
横島:
毎回のようにベリサーブさんから評価に関する課題がドーンと出されるので、その対応には苦労しました(笑)。一方でうれしかったというか、あらゆるケースのシナリオを考えてくださったので、これだけ細かくチェックしていたら間違いなく安全性は確立できるなという自信が持てました。800件以上のシナリオを前にして、「こんな攻撃パターンがあるのか」と驚かされることも多かったです。
最も印象に残ったのは、「発行した証明書を取り消す仕組み」に関する指摘でした。通常のPKIでは、認証局に問い合わせができない場合、そのまま取り消さないという運用もあります。確認できないものは取り消せないという意識でいましたが、ベリサーブさんから「それはセキュリティの観点で無視できない」と指摘を受けました。そこは盲点でしたし、そういったセキュリティに対するストイックな姿勢を目の当たりにし、依頼して良かったと感じました。
原:
関西テレビソフトウェア様の今回のシステムはとても技術的にユニークです。これまで工場のセキュリティや自動車のソフトウェア更新など、さまざまなシステムを見てきましたが、Web3とIPDCを組み合わせたシステムは初めての経験でした。システム構成や適用技術を理解するプロセスは容易ではありませんでしたが、それだけ知的好奇心を刺激される案件でもありました。
大山:
ベリサーブさんに対する技術的な信頼性はもちろんですが、日々の仕事の進め方にも感銘を受けました。例えば、毎回の会議に「○月○日 定例会」と明記した資料を準備いただいたことです。会議自体は10〜15分で終わることもありますが、一つ一つの取り組みに意味を持たせて進めてくださる姿勢は、私たちにとっても大きな学びになりました。また、計画的かつ丁寧に進めていただいているという安心感にもつながっています。

放送局の信頼とセキュリティ検証が社会受容性を生む
──今後の展望をお聞かせください。
大山:
社会実装には三つの段階があると考えています。まず放送局内での技術的理解と承認、実証実験による実証、そして社会受容性の獲得です。IPDCという放送波に「データという異物が混ざる」などの懸念を持つ放送局側への説明は、私の放送分野に関する知見を生かして地道に続けます。
理解を得た後は、地方自治体や一般社会に対して「この技術は安全性や信頼性の面で問題がないのか」という問いに応えていくことが次のステップになります。その際、テレビ局が単に「問題ない」と説明するのではなく、外部の専門家の視点が加わっていることが重要です。ベリサーブさんのように第三者検証として豊富な実績を持つ企業がまとめられた評価のアウトプットは非常に重要な武器になります。私たちは新しい技術開発そのものを目的としているのではなく、社会に役立てることを目指しています。それが公共電波を活用する意義でもありますから。
横島:
将来的には制度的な変更を総務省に働きかける局面も想定しています。その際に、セキュリティ面での安全性が担保されていることは大きな強みになります。関西テレビだけでなく、北海道から沖縄まで全国の放送局でも活用できるというエビデンスを示す上で、ベリサーブさんのテストは不可欠でした。ネットワーク接続を前提としてきたセキュリティの世界に放送波を加えることで、オフライン環境でも機能するインフラができる。この発想は社会を変えるきっかけになると信じています。次のステップもぜひベリサーブさんと一緒に加速させていきたいですね。
原:
次の社会実装計画の検討も始まっています。毎回、想像をはるかに超えるユニークな発想が生まれるため対応に苦労することもありますが、これほど知的好奇心を刺激される案件は多くありません。引き続き全力でご支援してまいります。
──ありがとうございました。

取材にご協力いただいた企業様
社名 関西テレビソフトウェア株式会社
URL https://www.ktvs.co.jp/