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自動運転社会の実現に関する取組について

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自動運転には、交通事故削減や渋滞緩和、高齢者など移動弱者への支援、運転手不足の解消、輸送効率の向上など、さまざまな期待が寄せられています。これらを大きな視点で見ると、安全で便利、しかも低コストな移動・物流手段によって、豊かな暮らしをもたらすことが究極の目標と言えるでしょう。特に、少子高齢化や労働力減少といった課題を抱える我が国にとっては、大変重要な意味を持ちます。
本講演では、自動運転社会の実現を目指す政府全体と総務省の取り組みに加え、その基盤的通信インフラとなる5G(第5世代移動通信システム)や、その次の世代となるBeyond 5Gなどの通信技術の現況を含めて、今後の展望をご紹介します。

※この記事は、『ベリサーブ オートモーティブ カンファレンス 2021』の講演内容を基にした内容です。

五十嵐 大和

総務省 総合通信基盤局電波部 移動通信課
新世代移動通信システム推進室長
高度道路交通システム推進室長
五十嵐  大和 氏 

Society 5.0と自動運転社会

日本の新しい社会像 ”Society 5.0”

現在、日本政府は、我が国が目指すべき未来社会として、サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した「Society 5.0」と呼ばれる新しい社会像を提唱しています(図1)。狩猟社会の1.0から現在の情報化社会の4.0まで、そしてその先にあるのがSociety 5.0です。ここでは、現実社会の出来事をサイバー空間に写し取り、AIなどを駆使した未来予測を行って、その結果を再びフィジカル空間にフィードバックします。これにより、必要なモノやサービスが必要な時に必要な人へ提供される、より良い社会を目指そうというものです。

この概念をモビリティに応用すると、冒頭に挙げたような移動に関して期待される多くの課題の解消が進みます。仮に全ての自動車が遠隔制御可能なものになれば、理論的には、絶対に事故を起こさない車や、必ず最適なルートで移動できる自動車交通などが実現することになります。

日本の新しい社会像「Society 5.0」

図1:日本の新しい社会像“Society 5.0”
出展:内閣府SIP自動運転 SIP-adus ワークショップ2020講演資料 https://www.sip-adus.go.jp/evt/workshop2020/

自動運転社会の実現に向けた総務省の取り組み

自動運転と通信

私は、総務省で主に通信や無線を担当していますが、現時点では通信が自動運転に必須というわけではありません。画像認識の性能が急速に向上していて、安価なカメラと小型コンピューターの組み合わせで空間や状況の把握が可能になってきており、車載センサーによる判断のみでまかなうことができているからです。しかし、例えば信号機の色ひとつとっても、太陽光や周囲の環境による影響に左右される可能性があるため、画像で認識するより通信で情報を送る方が確実です。今後、自動運転が高度化するにつれ、通信の必要性はさらに高まっていくと考えています。

図2は、電波の利用から見た運転支援の進化イメージです。最初の段階はVICS(道路交通情報通信システム)やETCなど、ドライバーへ有益な情報や料金決済といったサービスを提供するもので、すでに全国に普及しています。

電波の利用から見たモビリティの進化イメージ

図2:電波の利用から見たモビリティの進化イメージ

次は、カメラやレーダーによる車載センサーを活用し、クルマ自身が取得した情報を運転支援に利用するもので、一般的には自律型自動運転と称されます。

これがさらに進化したのが、協調型自動運転と呼ばれる領域です。これは、車載センサーの情報に加え、通信技術を活用して車両単体では把握できない情報も使って高度な自動運転を実現するものです。言ってみれば、自分のクルマ周辺の全体の様子をあたかも上空から把握しながら運転を行っているようなものです。協調型自動運転がより高度な自動運転をもたらすということがお分かりいただけるでしょう。

このように、運転支援ではどの段階においても電波が重要な役割を果たしています。また、最近登場したのが「ITS※1 Connect」で、これは世界で初めて実用化に成功したV2X(Vehicle-to-everything)システムです。V2Xとは、クルマと対象物との通信を表す総称で、V2V=クルマ同士、V2I=対路上設備、V2N=対ネットワークなどがあります。ITS Connectでは、クルマに設置されたモニターに、緊急車両の接近を表示したり、信号機の待ち時間を知らせたりすることが可能です。

※1:Intelligent Transport Systemsの略で、日本語では高度道路交通システム。最先端の情報通信技術によって人と道路とクルマをつなぎ、交通が抱えるさまざまな問題を解決してより良い暮らしの実現を目指すシステムのこと。

自動運転に関連した取り組みの実例

現在、総務省が取り組んでいる自動運転関連の技術試験・研究開発の中から、三つの実例をご紹介します。

1.自動運転に必要な通信要件の検討

自動運転にV2X通信が必要となるユースケースと条件を整理し、通信要件の洗い出しを行って最終的に通信ロードマップという形で取りまとめる予定です。

現在25のユースケースを想定し、シミュレーションや分析を進めています。例えば「交差点の安全な右折」というユースケースでは、必要な通信距離や通信速度、遅延やエラーの許容値などを検証しています(図3)。

検討の対象としているV2X通信には、携帯電話の通信方式を基礎とするセルラー方式と、現在、日本で実用化されている700MHz帯高度道路交通システムを使う方式があります。これら二つに関して、データ量や通信速度に応じた対応範囲の見極めや、対応不可となるユースケースが出た場合の改善策などを検討しています。

自動運転にV2X通信が必要となるユースケースの一例

図3:自動運転にV2X通信が必要となるユースケースの一例
出展:SIP協調型自動運転ユースケース -2019年度協調型自動運転通信方式検討TF活動報告 - https://www.sip-adus.go.jp/rd/rddata/usecase.pdf

2.狭域・中域情報の収集・統合・配信にかかる研究開発

人間の操作と同レベルの自動運転は、クルマに搭載されたセンサーを駆使することでいずれ実現できるでしょう。しかし私は、自動運転の醍醐味は、人間の操縦能力を超越することにあると考えています。そうした高度な自動運転を実現するには、自律型センサーだけでは捕捉できない情報、例えばこれから進入しようとする交差点の状況を事前に把握するといったことが必要になってきます。

そのためには、道路脇に設置されたカメラやミリ波レーダーなどを活用します。また、一つの交差点を複数のカメラで撮影した場合、それぞれの画像に写っているクルマが同一のものか、あるいは別のクルマなのかを瞬時に判断する必要が出てくるため、同一物判定の研究なども行っています。

さらに、複数の交差点で得た情報を連携させてリアルタイムに分析し、その周辺を走るクルマに最適な判断をしてもらえるよう、情報のインテリジェントな統合を行う研究も進めています。

3.交通信号機を活用した5Gネットワークの構築

交通信号機の柱に5G基地局を搭載することで、信号機の集中制御の促進と、携帯電話の5Gエリア拡大を同時に実現する一石二鳥の施策で、全国民の期待も大きいと感じています。内閣府の施策であるPRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)を活用し、最終的には民間投資の拡大につなげることも狙っています。

図4が概略です。右の方に「見守り用カメラ等」というのがありますが、交通信号機の柱に乗せた5G基地局を活用するアプリケーションを含めた検討を行っており、これがその一例です。
見守りカメラが取得した画像をAIで処理して、例えば高齢者が横断歩道を渡ろうとしている状況を把握した場合には、歩行者用青信号の時間を延長するといったことが考えられます。

昨年度、大手通信事業者4社の協力を得て、地域別(都市部と地方)、主たる検証項目別(交通流制御と5Gエリア拡大)に4地点で小規模な実証試験を実施しました。今後の商用化を考えると、一般利用者の通信トラフィックが混在するため、通信容量やセキュリティの確保なども考慮しました。

実際の設置箇所でユニークなものとしては、東京・大手町2丁目にある鉄道のガード下が挙げられます。一般的には広範囲をカバーする基地局でも、ガード下などはエリア化が難しい場所なので、信号機5G基地局の価値が生きると考えています。

実証実験の結果、見通しの良い道路上にある信号機は、5Gのカバレッジの点からも基地局の設置場所として有効であることが分かりました。また、交通信号機の柱にはすでにいろいろなものが乗っていて、荷重の問題から柱の補強が必要になるといった知見も得られました。

交通信号機を活用した5Gネットワークの構築

図4:交通信号機を活用した5Gネットワークの構築 概略図

5G/Beyond 5G

5G総合実証試験の実施

総務省では、2020年の5G商用化実現を目的に、通信業者や各地域から実証テーマを募集、5Gによる社会課題の解決に役立つモデルを生み出すことに力点を置いた総合実証試験を行ってきました。その中から、自動運転やモビリティに関係のある二つの事例をご紹介します。

1.トラックの隊列走行

新型コロナウイルス感染症の影響でネット通販が活況を呈す一方、物流の要であるトラックのドライバー不足が深刻化しています。その解決策となる可能性があるのがトラックの隊列走行です。3台の大型トラックがカルガモの親子のように連なって走るのですが、ドライバーが乗っているのは1台目のみです。1台目のドライバーには、後続の2台の運転席から得られる映像が5G技術を用いた通信で転送されています(図5)。

高速道路での評価試験では、この隊列走行は非常に効率的であることが実証されました。当然のことながら、一般道ではこれがそのまま使えるわけではなく、今後改良の余地があります。

5G総合実証実験におけるトラック隊列走行の様子

図5:5G総合実証実験におけるトラック隊列走行の様子

2.建設機械の遠隔操作

建設機械の遠隔操作は一見危険に感じますが、工事現場が無人であれば怪我をする人もいないため、むしろ究極の安全であると言えます。また、被災地の復旧なども重機を遠隔から操作すれば、操縦者を二次災害から守ることができます。遠隔操作には高精細映像や制御情報の低遅延での送受信が必要になることから、5Gの超高速大容量通信を利用した実証試験を各地で実施しています(図6)。

三重県伊賀市で行った実証試験では、カメラやレーザースキャナで得られた高精細映像を5Gで転送し、建機の遠隔操作と施工作業管理の支援を実施しました。また、愛媛県今治市の造船工場では、死角となっている場所の高精細映像を5Gで運転席に送信、その映像を確認しながら安全な作業をする試験を行いました。

5G総合実証実験における建設重機の遠隔操作の様子

図6:5G総合実証実験における建設重機の遠隔操作の様子

ローカル5Gを用いた自動運転の事例

5Gの利用には、一般的には通信事業者が介在しますが、企業や自治体などが自らの建物や敷地内で独自に運営・利用できる「ローカル5G」という仕組みがあります。機材の調達やシステム構築はそれぞれで行う必要がありますが、専用の周波数が割り当てられるため、Wi-Fiなどと比べて安定的に利用することができます。また、通信事業者の均一なサービスとは異なり、固有のニーズに合わせた性能のカスタマイズも可能です。

自動運転関連でも、すでにローカル5Gを利用した実証試験が行われています。群馬県前橋市では、自動運転バスの遠隔監視による公道走行試験を実施しました。バスに搭載したカメラや道路に設置したカメラの映像をローカル5Gで管制室に伝送、遠隔から自動運転の継続可否判断や操縦管制などを行っています(図7)。

自動運転における遠隔監視の様子

図7:自動運転における遠隔監視の様子

自動運転技術には自動化の度合いによってレベルが設定されていますが、この試験は、特定の条件下では自動運転、それを外れる場合には人間が操作するというレベル3に該当します。試験の際には万一に備えてドライバーが乗車しましたが、将来的には緊急時の対応も完全に遠隔で行うことができるでしょう。さらに高度化が進めば、複数のクルマの遠隔管制を1人で行うことも可能になり、ドライバー不足の解消にもつながると期待されています。

遠隔型自動運転と呼ばれるこのシステムは、実際の利用が少しずつ始まっていて、2021年3月には遠隔監視によるレベル3の自動運行が国内で初めて認可されました。

Society 5.0に不可欠な通信の役割と機能

初めにご紹介したSociety 5.0は、一般的にデジタルツイン(デジタルの双子)などと呼ばれるアイデアを含むものですが現実世界であるフィジカル空間とサイバー空間との間では膨大な情報のやり取りが発生します。また、サイバー空間内での処理も同様で、これを支える通信インフラが5Gやその次世代のBeyond 5Gです。交通システムでは特に高速な通信が必要となるため、先に説明した交通信号機の柱への5G基地局設置もこれを見越した構想となっています。

5Gの実用化から1年ほどたちますが、Society 5.0の実現には5G以上の性能を持つ通信ネットワークが必要になってきます。これを受け、すでにBeyond 5G/6Gに向けた動きが活発化していて、2030年頃の実用化を目指して研究開発などが進んでいます。

これが実現すれば、地上・海・空・宇宙などのあらゆる場所で生じるさまざまな事象を収集、デジタルデータ化し、サイバー空間で解析して瞬時にフィードバックすることも夢ではなくなります。

Beyond 5G推進戦略

2020年6月には、総務省の懇談会でBeyond 5G推進戦略を取りまとめました。その基本方針には、「グローバルファースト」が掲げられています。これまでは国内で展開した後に海外へ、というケースが多かったのですが、今後は最初から世界市場をターゲットとし、日本はその中の一つと位置付ける考え方です。

こうした戦略を推進するには、海外研究者の積極的な招聘も必要になってきます。日本が魅力的な研究開発の場であると感じてもらうこと、これもグローバルファーストの一環であると思います。

Beyond 5G推進コンソーシアムの設立

総務省では、Beyond 5Gの取り組みの成果を、2025年の大阪・関西万博で「Beyond 5G Readyショーケース」として世界にアピールし、グローバル展開を加速していく予定です。これに先立ち、2020年末には「Beyond 5G推進コンソーシアム」を設立、活発な活動を行っています。こちらは完全にオープンで参加も無料ですので、ぜひご検討いただければと思います。

おわりに

大阪・関西万博では、空飛ぶクルマで観客を輸送するアイデアがあるという報道を目にしました。そうした未来のテクノロジーを支える情報通信基盤が、5GやBeyond 5Gであると考えています。万博のテーマは、「命輝く未来社会のデザイン」です。世界中から訪れる人々に、自動運転や日本生まれの新しいモビリティなどを通じて未来社会を体験してもらえるよう、総務省としても貢献していきたいと考えています。