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今さら聞けないQA技術:生成AI(第1回)

今さら聞けないQA技術:生成AI(第1回)

生成AIとは

近年、AI技術の中でも「生成AI」と呼ばれる領域が注目されています。生成AIとは、テキストや画像などさまざまなコンテンツを生成できるAIのことです。従来のAIは、決められた行為の自動化が目的だったのに対し、生成AIはデータのパターンや関係を学習し、新しいコンテンツを生成することを目的としています。

その中の一つである「Large Language Models(LLM)」に注目が集まっています。LLMは大量のテキスト情報を学習し、ユーザーの指示や質問に対応するテキストを作り出すことが可能です。

LLMでよく知られているのは,OpenAIの「GPT-4」やGoogleの「bard」などです。これらのAIモデルは独自にテキストを生成するだけでなく、人間が書いたテキストと見分けがつかないほど高度に洗練されているのが特徴です。

このようなモデルは数千万から数十憶のパラメータを持つニューラルネットワークで構築されており、インターネット全体の膨大なテキスト情報を読み込んで訓練されています。最終的に、学習時に登場しなかったテキストさえも、そのコンテキストに応じて生成できるようになります。

生成AIをビジネスで適用するメリットと注意点

生成AIは、ニュース記事の作成からクリエイティブライティング、多言語翻訳、カスタマーサポートまで、さまざまなビジネス領域で使われています。生成AIの利用は労働力の節約をはじめ、24時間365日のサービス提供やユーザー体験の改善といったメリットを生む一方で、バイアスの問題は適切な対応が求められます。

例えば、仮にAIが偏見を持ったデータで訓練されていると、それがそのままテキスト生成の結果に反映され、誤った、または公正でない情報が作られ、さらにはフェイクニュースとして拡散されてしまう恐れがあります。

また、個人情報の保護やデータのセキュリティも重要な課題で、これらの懸念を可能な限り軽減するためのガイドラインや監視体制の構築が不可欠となっています。

品質保証分野における従来のAI活用

では、品質保証分野におけるAIの活用状況はどうでしょうか。これまでも企業では品質保証業務の効率化やテストサイクルの短縮に取り組みつつ、製品の品質を保持するためにAI技術を取り入れてきました。

特に業務効率化を目的とする「識別AI」を活用して、異常検知や故障予測といった領域で力を発揮してきました。主な役割は、あらかじめ提供された大量データから正規のパターンを学習し、新しい入力データが事前に学習した正規のパターンに合致するかどうかを判断することです。

例えば、感情認識、光学的文字認識(OCR)、またはAIカメラなどは識別AIの代表です。これまでは多くの人々が「AI=識別AI」ととらえ、これらの技術を活用してきました。識別AIは製造プロセスで製品が設計仕様に準拠しているかをチェックしたり、潜在的な不具合を早期に発見したりする用途で、業務の自動化と品質保証の強化に大いに貢献してきました。

ベリサーブでも異常検知AI「Indigo:J」によるシステムの異常な振る舞いの検知や、ドキュメント検証サービスによる曖昧な文章や誤記の検知といった領域で、識別AIをメインに活用を進めてきました。

図1:ベリサーブ異常検知AI「Indigo:J」概要図

しかし、2023年に突入すると、自然言語処理や画像生成に使われる新たな種類のAI、すなわち生成AIが登場し、従来の識別AIとは異なる多様な機能を提供し始めました。今や「AI=生成AI」と認識する人々が増加傾向にあるといえるでしょう。この変化は、品質保証分野においても、新たな可能性を切り開く一助になると考えています。

生成AIによる品質保証技術の進化

生成AIによるイノベーションと社会への影響力は、これまでのAIが導いた成功以上の可能性を秘めています。最も強力な適用範囲は、システム化が困難であった「考える作業」の支援です。これまでのAIが得意だった人の作業の“効率化”を超えて、生成AIを活用することで人の作業の“高品質化”までを実現できると考えられます。

適用範囲としては、意思決定の支援、アイデアの生成、そして初期案の作成(資料やプログラムなど)が挙げられます。これらの機能は品質保証業務に対しても応用可能です。生成AIの助けを借りることで、品質保証業務における戦略形成、評価、検討といった、人のスキルに依存していた部分を、より良いアウトプットに変えていくことが可能になるでしょう。

ベリサーブでは現在、生成AIを応用し、テスト戦略・分析の説明可能性を向上する技術、ドキュメント間のシステムロジックの矛盾や、記載されているべき仕様の記載漏れをチェックする技術、自然言語によるテスト自動実行技術の開発などに取り組んでいます。

テスト戦略・分析の説明可能性を向上する技術については、図2のように「リスクベースドテスト」や「モデルベースドテスト」の技術と生成AIを組み合わせ、仕様書を読み取ることで、フィーチャーごとのリスク低減量を分析し、テストすべきモデルを自動生成するものの開発を進めています。

上記のような生成AIを活用した技術およびサービスは、品質保証のプロセスの効率を向上するだけでなく、個人のスキルや暗黙知に依存していた業務に、より説明性を持たせることが可能になると考えています。

図2:生成AIを活用したテスト戦略~設計の説明可能性向上技術の概要図

生成AIとの共存が不可欠

これまで述べてきたように、生成AIは大量の情報を学習し、さまざまな知識による回答が可能な技術です。しかし、事前に学習した知識に基づいた生成を行う一方で、ミスも起き得るため、AIの回答をそのまま使用する設計では、予期しない問題が生じる可能性があります。その点は注意が必要です。

ただし、そうだからといって、現状の生成AIの活用を避けるべきではなく、生成AIによるミスが許容できるか、生成AIの出力が少しでも人間の助けになるかどうかを考えた上で、人のサポートを組み合わせた仕組みを設計し、うまく共存することが重要です。

生成AIには精度や透明性、バイアスなどの課題も存在していますが、私たちがこれから目指すべきは、生成AIの持つ特性を理解し、うまく活用しながら課題解決に生かすことです。AIが進化し続ける現代において、私たちはAIの持つリスクを考慮しつつ、AIが提供する価値を十分に活用していくバランス感覚が最も大切な要素になるでしょう。

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