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電気回路のエンジニアだったambie株式会社・三原良太代表が、基板の無いイヤホンを開発できた理由(後編)

ambie株式会社代表取締役三原良太

2010年にソニー入社後、ヘッドマウントディスプレイやBluetoothイヤホンの設計を担当。2017年「ambie sound earcuffs」を開発し、ソニーとWiLのジョイントベンチャーとしてambie株式会社を立ち上げ出向。プロジェクトリーダーとして開発から流通、マーケティングまでを中心となって行い、2020年CEOに就任。

周囲の物音をシャットダウンすることなく音楽を楽しむという“ながら聴き”を、オープンイヤー型のイヤホンによって世に広めたambie株式会社(以下、ambie)。

前編では、コストゼロによるイノベーションの方法について、同社創業者・三原良太さんの実体験を基に解説してもらった。

今回はambieの今後に向けたチャレンジや、新規事業に携わるエンジニアが陥りがちな“ワナ”などを伺った。

海外展開の挑戦

——今、ambieがトライしていることは何ですか?

一つが海外展開です。僕らの製品は日常生活と音楽が合わさったものだから、海外だと環境がガラリと変わってしまう点に難しさを感じています。

米国・サンフランシスコの街中でユーザーインタビューをしていたとき、逆に「アンケートに協力してくれ」と現地の男性に声をかけられました。僕と会話をしているのにその男性はBeatsの真っ赤なヘッドホンを付けたまま。“ながら聴き”とか関係ないわけです(笑)。ガンガンに音楽を聴きながらでも話しかけていいじゃないかというマインドの人たちがいる国だと、イヤホンへのニーズも日本とはまるで異なるなと感じました。

多様性の国だから絶対に僕らの製品に対する需要もあると思っていますが、ambieのように人々の価値観や日常生活に沿ったプロダクトであればあるほど、ローカライズは難しいだろうと実感しました。そこはチャレンジですね。

——製品の品質面でチャレンジしていることはありますか?

イヤホンを付けていることを忘れるくらいの存在感にしてしまったことで、ambieを装着しながらシャワーを浴びてしまったというユーザーが少なくありません。この辺りはプロダクトのアップデートで対応していきたいと思います。ただ、想定しないユースケースが生まれているのはいいことだと前向きに捉えています。

——プロダクトとしてはほぼ完成形に近いのでしょうか?

もちろん、まだまだ改善はできると思います。最終的にはイヤホンを付けている状態をゼロに、つまりユーザーが全く負荷を感じないようにしたいです。

何かを身に付けている状態というのは、非常に負荷が高いのです。「ウェアラブル」という言葉が生まれたのは、そうやって明示しないと使ってもらえないからだと思っています。ガジェット好きのユーザーであれば、新しい機器を身に付けることがプラスに働きますが、一般の人たちにはハードルが高い。こだわりもあるし、装着していることによる負荷も問われます。ファッション性の価値も提供しなければなりません。

ambieは当然、装着の負荷を減らす構造を設計するほか、「身に付けられる」ではなく「身に付けたくなる」ように、ソックスというシリコンカバーを着せ替えることで、カラーを変えて楽しめるような工夫をしています。ハードウェアの要件として、こういったユーザーの自由度を上げるためにもっと小さくしたりする必要は感じています。

ambieを付けていることによって、自分がいい状態になれるというのは重要なスペックです。ambieの提供価値は日常を彩ることなので、音楽以外の部分でもスペックアップはまだ終わりがありません。

特定の技術に固執しないこと

——自分は完璧だと思って作り上げた製品が、ユーザーのニーズとずれていた結果、機能の一部を捨てなくてはならないという話をよく聞きます。きっとエンジニアとして葛藤がある中で、どのように折り合いを付ければいいのでしょうか?

技術的なチャレンジをしている人ほど、自尊心を技術力に結び付けている人が多いです。そうすると、ピボットがとても辛いんですよね。

例えば、新規事業を立ち上げる際、課題解決に対するHow(方法)はいくつもあって、検証した結果、最も良い方法を選ぶわけです。それに合わせて使う技術はホイホイと変えなければいけないはずなのに、技術要素がアイデンティティになっているとかなり苦しいでしょう。よく陥るのは、アイデンティティにこだわるあまり、その技術を使ってくれるユーザーを探そうとすることです。

でも、本来ならば、新しい事業を始めてみようとする人自体に価値があるわけです。だからHowである技術を変えることになるべくストレスを持たないことが大切です。

——その人に価値があるというのはいいですね。

基本的にエンジニアにはロジカルシンキング力など、一つの物事を突き詰めることができる高いスキルが備わっています。実は同じ技術を使わなくても、考え方をシフトするだけでうまくできてしまう。エンジニアの多くはその能力に意外と気付いていないのかもしれません。

確かに、エンジニアの組織にいると、自分の評価指標が技術ベースになってしまいがちだし、他人と比べて自分の強みはこれだと、一つに絞られてしまうことも多いです。でも、スキルを分解すると他にも有用なものはたくさんあって、それを使えばやりたいことができたりもします。

僕も元々、電気回路のエンジニアで、回路設計を専門にしていました。でも、ambieで最初に出した有線イヤホンにはICチップや電池すら入っていません。メカ設計も量産での経験はありませんでしたが、まずは作ってみるところから始めて、できたものをキッカケに各分野のプロフェッショナルの方を巻き込むことで、でっちあげのプロトタイプから、ちゃんとした製品に仕上げていくことができました。初期の自分の専門分野が何かはそれほど重要ではなかったです。今になって振り返るとそう思います。

選択肢は一つではない

——エンジニアから経営者になったことで、考え方のシフトチェンジはありましたか?

シフトチェンジと言えるか分かりませんが、提供価値を実現するために、使える材料が増えたと感じています。

エンジニアだった時には、ユーザーの期待に応える品質をどう実現するか、プロダクトのみで考えていました。ですが、経営のレイヤーで見てみると、マーケティングのコミュニケーションを変えてお客さんの期待値を調整したり、物流やカスタマーサポートで体験価値を上げたり、技術的なHowだけではない多様な手段があることが見えるようになりました。

事業の立ち上げを通じて、たくさんの選択肢を考える経験ができたことは大きいですね。

ambie株式会社代表取締役三原良太

2010年にソニー入社後、ヘッドマウントディスプレイやBluetoothイヤホンの設計を担当。2017年「ambie sound earcuffs」を開発し、ソニーとWiLのジョイントベンチャーとしてambie株式会社を立ち上げ出向。プロジェクトリーダーとして開発から流通、マーケティングまでを中心となって行い、2020年CEOに就任。

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