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HQW! 新春企画:有識者に聞く「2025年、私が注目するビジネス&技術テーマはこれだ!」(前編)

2025年、私たちはかつてないスピードで変化するビジネス環境に身を置いています。生成AIをはじめとする革新的なテクノロジーは、私たちの働き方や生活様式を一変させようとしています。一方で、経済のグローバル化、サプライチェーンの不安定化など、企業を取り巻く環境は複雑さを増しています。そんな中、各業界の有識者たちは、どのようなテクノロジーやビジネスモデルに注目しているのでしょうか。各界の専門家たちに話を聞きました。
北海道大学 大学院情報科学研究院 教授 川村 秀憲さん
2025年の注目テーマ:「AI」
大規模言語モデル(LLM)、生成AIの領域に関心を持っています。
一つは、われわれのやっている仕事に近いのですが、「研究をするAI」が徐々に出始めてきています。
例えば、情報工学や情報科学といったコンピューターを使う研究において、今、AIがプログラムを作るという研究が進んでいます。この先いろいろなアルゴリズムが実装可能となった時に、科学的なリテラシーにのっとって、さまざまな研究テーマを自動的に研究していくことができるかもしれません。実際、少しずつそういう研究が進んでいるので、今後の動向が気になるところです。
もう一つは、ヒューマノイドです。
コンピューター上で動くAIの性能はこの先どんどん進歩していくのは間違いないですが、それが今度はロボットの上に搭載されていくでしょう。後2年もすれば、われわれ人間がいる空間の中で、ロボットが人の命令に従っていろいろな作業をする世界が実現するのではないかと思っています。
現に、イーロン・マスク氏はヒューマノイドを開発しており、人がしゃべった命令によって軽い作業ができると説明しています。彼はテスラの自動車工場でロボットを働かせることを目指しているわけですが、もちろんそれ以外にも多くの企業が、人と同じような身体を持ち、自然言語を理解して作業するロボットを活用しようと考えています。そうしたことがだんだんと現実味を帯びてきています。
今はまだ、われわれが歩いている空間に、ロボットが歩いているということはありませんが、後5年、10年後くらいにはそれが当たり前になっているのではないでしょうか。例えば、建設現場で作業していたり、コンビニの店員として働いていたり。そういうことは十分に起こり得ると見ています。
十数年前、テスラが電気自動車の生産を開始したとき、世界中のアナリストが電気自動車を量産してビジネスをするなんてばかげている、無理だと批判したわけです。当時の年間生産台数は恐らく3〜4万台でしたが、現在は180万台前後まで増えていて、世界中でテスラの電気自動車が走っています。
そう考えると、イーロン・マスクが作り始めたヒューマノイドも同じ。今はまだYouTubeで動画が見られる程度ですが、10年後には札幌の街をヒューマノイドが歩いているという世の中になっているかもしれない、私はそのように思っています。

サーバントワークス株式会社 代表取締役 長沢 智治さん
2025年の注目テーマ:「プロダクトオペレーティングモデル」「エビデンスベースドマネジメント」
変化が激しい市場やビジネス動向がますます加速している今日ですが、プロダクト開発の現場は以前の成功体験を引きずってか、はたまた今までチャレンジしたことがないためか、分断され、不確かな計測指標に捉われている傾向があります。
「分断」とは、プロダクト開発と運用、ビジネス企画、マーケティング、セールス、人事といったビジネスシーンによる分断、職能によるサイロ化による分断を指しています。「不確かな計測指標」とは、開発生産性という名の下に、工業生産時代の「作っただけ価値になる」という前提での生産性を指しています。
急速に変化が求められている厳しい状況にもかかわらず、この分断と不確かな計測指標に捉われたジレンマを抱える現場はとても多いと感じています。しかしながら、2025年にはそろそろこのジレンマにメスを入れて、《ネクストステージ》へ向かう企業が増えると予想しています。その根拠の一つは、自社プロダクトを中心とした事業の見直し、開発の見直しというムーブメントです。
このプロダクトへの原点回帰は「プロダクトオペレーティングモデル」として注目されています。セクションや職能にかかわらず、プロダクトを中心として戦略立案し、実行、検査していくこと、そして、プロダクトが生み出す市場価値に着目し、どれだけ作業したか(アクティビティ/エフォート)、どれだけ作ったか(アウトプット)ではなく、どれだけ顧客の役に立ったか(アウトカム)を計測し、意思決定することに焦点を当てるのです。収益など(インパクト)はアウトカムの先にある結果に過ぎません。
このプロダクトオペレーティングモデルを支えるフレームワークとして「エビデンスベースドマネジメント(EBM)」があります。不確かな中でのゴール設計、実験ループ、そしてアウトカムを4つの重要価値領域(現在の価値、未実現の価値、市場に出すまでの時間(反応性)、イノベーションの能力(効果性))で計測し、意思決定するフレームワークです。
2025年は、このプロダクトオペレーティングモデル、支えるためのエビデンスベースドマネジメントが注目され、市場で強さを発揮するプロダクトとそのプロダクトをけん引する職能横断的なプロダクトチームが活躍する元年となることでしょう。

石黒 邦宏さん
2025年の注目テーマ:「AI」
AIに始まり、AIに終わる。最近はひたすらAIに着目しています。
初めてChatGPTが登場した時に「こんなこともできるんだ!」と衝撃を受けましたが、やはり一方で限界もあるので、一昨年から昨年にかけてはその実情を見定めていました。
昨年後半にリリースされた米オープンAIの新モデル「OpenAI o1(以下、o1)」に触れると、まだまだ進化するのだなという第2の衝撃がありました。今後どこまでいくのかは楽しみだし、興味のあるポイントですね。(※編集部注:12月20日に次期型の「o3」が発表された)
日常において私自身もAI活用は必須になっています。
例えば、ある機能をプログラミングによって作る際、最初は試行錯誤してグチャグチャな状態ですが、それを文章と同じように推敲し、清書していくわけです。これまでは全て自分でやっていたのですが、今では最後の清書を必ずAIに任せますね。そうすると「ここはこんな風に簡単に書けるのか」とか、「こういうやり方もあるのか」という気付きを得られます。無駄もなくなります。そういった処理をAIがやってくれる。AIに清書してもらわないと、最近は自信がないですね(笑)。
とはいえ、あくまでも清書で、核となる部分は人間がやらないとダメ。でも、o 1は推論が非常に強力なのでコアのところもちょっとは手伝えるのかなという印象を持ちました。人間の領域に近づいてきていると思います。今はまだアシスタント的な立ち位置だけど、もしかするとパートナー、あるいはエンパワーしてくれるぐらいの存在になるかもしれません。便利な道具から真のパートナーになれば、本当になくなると困るものに。今年はそこに期待したいですね。
AIは他の技術分野と異なり、階段のように非連続で進化していくため、予測しにくいですが、シュリンクすることはないでしょう。確実に社会の中で一定の役割を担う技術になります。
では、われわれをエンパワーしてくれた時に、本当にすごいことをやってくれるのか。そこについてはまだ疑問です。自分が仕事をしてきた中で、過去の先人が作ってくれたいろいろなソフトウェアを見て、「すごいな」とか「一体どこからこんな発想が湧くんだろう」とかいった感想を持ちましたが、まだAIにそれができるイメージはありません。
何だかんだ言っても人間による過去のアウトプットを推論のエンジンとして学習し、それを基に答えを出しています。世の中にはぶっ飛んだ発想によって生まれたソフトが一杯あるけれど、AIがあれをやってくれるかというと、どうでしょうね。
私は建築物にすごく似ていると思います。アントニ・ガウディのように強烈な建築物を作った人間はいますが、AIにサグラダ・ファミリアは作れないでしょう。サグラダ・ファミリアを学習して、それっぽいものはできるかもしれませんが、ゼロから生み出すのは難しいと考えています。
私はソフトウェアで「こういったものを作りたい!」という夢があったから、この道に進みました。いつかは自分もサグラダ・ファミリアのようなものを作りたいという思いでやっています。自分が生きている間にAIがそれをやってくれたらいいなとは思いますが、なかなか厳しいでしょうね。
もちろん、その景色を見てみたい気持ちはあります。でも、もしAIが素晴らしいソフトウェアを作ったとしても、人間によるものかAIによるものかの区別は、多くの人たちには分からないでしょう。数十年もソフトウェアの世界にずっぽりと首まで浸かった人でなければ、AIの出したコードがどういった歴史的な意味を持つか理解できないと思います。そこに関しては、私にはちょっとした自信があります。
いずれにしても、もう AI の時代と言えます。ダウ平均から米インテルが外れて米エヌビディアが入るようになるなどとは、思いもしていませんでしたから。

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