キャリア

【連載】冒険者の地図: いかなるキャリアが、イエソド・江川さおりさんをQAスペシャリストに育て上げたのか(前編)

株式会社イエソドQA Manager江川さおり

「企業の人・組織・情報にまつわる非効率をなくす」というミッションを掲げ、企業が持つ人事情報の価値を最大化するためのユニークなサービスを開発・提供する株式会社イエソド(以下、イエソド)。従来の人事システムにはなかった斬新なコンセプトと機能を引っ提げて登場した同社のサービスは、MIXIやDGホールディングスをはじめ多くのユーザー企業に導入されている。

そんな同社の成長をサービス品質面で支えてきたのが、QA(Quality Assurance)スペシャリストの江川さおりさんだ。

江川さんは腕利きのQAエンジニアとしてこれまでさまざまな企業のQA・テスト業務に携わってきた。同時にソフトウェアテストシンポジウム「JaSST」の実行委員やスピーカーを務めるなど、ソフトウェアテスト業界のコミュニティーでも広く知られる人物である。

江川さんはどのようにしてこのキャリアを築き上げてきたのだろうか。

プログラマー志望がひょんなことからQAの世界に

北海道出身の江川さんが初めてコンピューターに触れたのは、中学生のとき。父親が買ってきたPCに心を奪われ、プログラミングに熱中したのがITの世界に足を踏み入れるきっかけになったという。

「『MSX』というPCでプログラミングの基礎を独学で覚えました。当時の愛読書はプログラミング雑誌の『マイコンBASICマガジン』。今でもこの雑誌のイベントがあれば足を運んでいます」

そう当時を振り返る江川さんは、高校卒業後、プログラマーを志して札幌にある情報系の専門学校に進学。そこでプログラミングをより深く学び、第一種情報処理技術者試験(当時)もパスした。卒業後は晴れてプログラマーとしての道を歩むことを目指していたが、運悪く当時はバブル経済が崩壊した直後で、北海道でプログラマーとしての職を得るのは極めて困難な状況だった。

そこでやむなく親族が営む建築会社に就職してしばらくの間働いていたところ、人材派遣会社からIT関連の仕事の紹介を受ける。

「プリンターのPC用ドライバーソフトのテストを請け負っている会社から、テスト業務を手伝ってくれないかというオファーを頂きました。当時の私は、プリンターやソフトウェアテストに関する専門的な知見はほとんど持ち合わせていませんでしたが、逆に『素人としての立場からさまざまな意見を上げてほしい』との意図が会社側にはあったようです」(江川さん)

そこで「ものは試し」と、この仕事を引き受け、ドライバーソフトのテスト作業に参加してみたところ、程なくしてQA・テストの仕事の面白さに魅了されたという。

「大手メーカーが私のような素人の意見にもきちんと耳を傾けてくれて、その内容を実際に製品の仕様に反映してくれることがとても新鮮に感じました。テストの作業自体も非常に楽しくて、例えばコピー用紙をテープでプリンター本体に貼り付けてわざと紙詰まりを起こさせるようなやり方をしていました」(江川さん)

QAエンジニアの道を究めるために上京

こうしてプリンターのドライバーソフトのテストに明け暮れる日々を過ごしていた江川さん。ある時、たまたま上司に「これから身に付けるべきスキルは何だと思いますか?」と質問を投げ掛けたところ、返ってきた答えは「英語」だった。

この言葉を真に受けて江川さんは即断即決。会社を辞めてワーキングホリデープログラムを使ってカナダへ渡航する。1年ほどの在住期間を経て、かなり流暢に英語を操れるようになった江川さんは、帰国後しばらくの間は北海道にある別の会社で要求仕様作成SEなどの仕事に従事するが、そこではかつてQAの仕事で感じた面白さや達成感をどうしても得られなかったという。

その結果、「自分が進むべき道はQAエンジニアしかない!」との決意を固めることになる。とはいえ、当時北海道でQAエンジニアの求人を出している企業はほとんどなかった。そこでカナダ在住中に身に付けた英語力も生かすためにも、思い切って東京へ打って出ることにしたのである。

北海道から上京したのは2004年。幸いにもすぐにMicrosoftの検索エンジンのテストを行う仕事にありつけた。日本、韓国、中国のQAエンジニアが混在するグローバルのテストチームの一員として、海外のエンジニアたちと英語でやり取りしながらテストを行い、米国本社へ結果を報告する。この仕事で初めて海外ベンダーの業務に携わった江川さんは、さまざまな意味でカルチャーショックを受けたという。

「それまで主に携わってきた国産メーカーの組み込み系のQAでは、リリース前にバグは残らず全てつぶしておくことが当然でした。しかし海外ベンダーのWebサービスでは、対応の優先度が低いバグの修正は後回しにして、リリーススケジュールを優先させます。このやり方に当初はびっくりしましたが、よくよく考えてみればある意味合理的ですし、業務量も平準化されるなど、さまざまなメリットがあると理解できるようになりました」

この仕事が一段落すると、今度は映画配信サービスを展開する外資系ベンチャー企業の日本法人立ち上げに参画。サービスのQAを統括する立場として、外部のテスター人材と協力しながらサービスリニューアルに伴うテストの企画や実行を担当した。その結果、自身が参画する前と比べてはるかに高いサービス品質を達成することができたと江川さんは胸を張る。

QAチームの立ち上げ人として活躍

その頃から江川さんはソフトウェアテストに関するさまざまな勉強会やイベントに積極的に参加し、業界コミュニティー内で人脈を広げていった。その結果、江川さんの元には、コミュニティー活動を通じて知り合ったさまざまな人から仕事のオファーが舞い込むようになった。

一例を挙げると、ユーザー同士をつなぐチケットサイトのテスト、大手人材サービスのQAチーム立ち上げ、不動産を扱うサイトなど……。こうしてQAエンジニアとしてのキャリアを積んでいくにつれ、江川さんに求められる役割も一エンジニアからマネジメント職、さらにはQA組織の立ち上げと広がりを持つようになっていった。

特に2019年から3年強ほど在籍した楽天グループでの経験は、江川さんのキャリア形成に大きな影響を与えたという。

「とあるアプリサービスの新規開発プロジェクトで、QAチームの立ち上げを担当することになりました。楽天グループは海外に多くの拠点を有していたことから、この開発プロジェクトでもインド拠点のQAエンジニアが参画しました。さらにベトナムのQAエンジニアも加えて、最終的には日本・インド・ベトナムのグローバルチームを組成することになりました」(江川さん)

当初は文化の違いやコミュニケーションの擦れ違いなどに悩まされた江川さんだったが、チーム運営を円滑化するべくさまざまな工夫を凝らしたことで、程なくしてスムーズに業務が回るようになった。

「まずメンバー一人一人がどんなスキルや経験を持っており、どんな仕事ができるかを、スキルマップを用いて明確化しました。これによって、各人のスキルに応じて適切にタスクを割り振れるようになりました。またメンバー間のコミュニケーションを円滑化するために、毎週ライトニングトーク大会のようなちょっとしたイベントを開催することで、自然とメンバー同士の仲が深まっていきました」(江川さん)

こうして最終的には、江川さん抜きでもメンバー同士が自発的にコミュニケーションを取りながら仕事を適切に進めてくれるようになり、極めてパフォーマンスの高いQAチームに育ったという。

アジャイル開発手法にマッチするQAプロセスの確立に苦労

そんな百戦錬磨の江川さんでも、これまでのキャリアの中では壁にぶつかったことも度々あった。情報プラットフォーム「スピーダ」などを運営する株式会社ユーザベース(以下、ユーザベース)でQAマネジャーを務めた際には、数々の課題を乗り越えるために相当な苦労を強いられたという。

「その会社のサービス開発部門では、アジャイル開発手法の一つである『スクラム』を採用していたのですが、このスクラムにマッチしたQAスタイルを確立するのに苦戦しました。旧来のウォーターフォール型の開発と比べてスクラムはリリースサイクルが短いため、従来のやり方ではテストを消化しきれないケースも出てきます。そのためなるべく早くテストケースを作成してテスト期間を短縮できるよう、さまざまな工夫を凝らしました」

具体的には、独自のテストフレームワークを作ってテストケースをテンプレート化したり、テストパターンを機能ブロックごとに分けて再利用可能にしたりするなどの手法を新たに取り入れた。さらにはテストケースを極力絞り込むために、これまでのキャリアの中で学んできた「直交表」「探索的テスト」といったテスト技法を駆使しながら、何とかスクラムのリリースサイクルに追随できるQA体制を維持してきたという。

ちなみに、江川さんが現在所属するイエソドは、ユーザベースからスピンアウトした経営陣が設立した会社だ。江川さんの当時の実績を買われてイエソドに参画することになった経緯がある。同社の環境について、江川さんは「これまで所属してきたどの会社よりも、QAエンジニアとしての仕事を進めやすい」と力を込める。

「経営陣は元々つながりのある方ですし、現場のエンジニアの中にも前職での同僚がいるので、何かと心強いですね。そして何より、開発現場の方々が皆QAに対して一定の理解を示してくれるので、QA担当としてはとても働きやすく感じています」

後編では、江川さんがQAエンジニアとしてのスキルや知見を形成する上で大きな役割を果たしてきたコミュニティー活動や、自身が仕事をする上で大事にしている価値観や哲学などについて迫っていく。

(後編に続く)

株式会社イエソドQA Manager江川さおり

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