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アイトラッキング技術とその応用

アイトラッキング技術とその応用

はじめに

アイトラッキング(Eye Tracking、視線計測)は、ユーザーの視線の動きを精密に捉えられることができる技術で、さまざまな分野やシーンでの活用が進んでいます。アイトラッキング技術の主な応用例には、ユーザビリティ評価やマーケティング、自動車のドライバーの視線観察があります。この記事では、アイトラッキング装置の種類および視線データをどのように取得し、どのように使うのかについて、技術的な側面からご紹介します。

アイトラッキングとは?

人は興味がある場所を長く見て、なるべく詳しい情報を得ようとします。アイトラッキング技術を使うことで、人が何に興味があるのか、あるいは何に興味がないのかを調べることができます。下の図は、家族のイラストを見ている時の視線の様子です。動画では、被験者がどこを見ているのかをピンクの円で示しています。つまり、ピンクの円で示した箇所が、被験者が注目している場所です。動画の最後の方では、握ったこぶしの上に視線が向いているのが分かると思います。このように、アイトラッキングのデータは、平面座標上の点(x,y)として表現することが基本となります。動画の場合、各フレームにあるピンクの円の中心が視線の位置となります。

アイトラッキング装置を用いて測定した、視線移動の様子(動画)

アイトラッキング装置の原理

アイトラッキング装置によって視線の位置を測定する際には、赤外線を感知する特殊なカメラを使います。機種によって異なりますが、だいたい10–1000フレーム/秒で、繰り返し被験者の顔を撮影します。そして、それぞれのフレームの中から目の中の瞳孔や角膜反射(文末の参考)の位置を特定します。この時、瞳孔の向きや角膜反射の位置から、被験者がディスプレイのどの部分を見ているのかを計算できます。この演算には画像処理を含む複雑なアルゴリズムを使いますが、アイトラッキング装置の演算ユニットを使って、高速に計算できます。デスクトップ型のアイトラッキング装置では、この演算ユニットと赤外線カメラが一体になっています。

デスクトップ型のアイトラッキング装置(ピンクの点線)

メガネ型アイトラッキング装置

近年では、ウェアラブルなメガネ型のアイトラッキング装置が開発されています。メガネ型アイトラッキング装置を使うと、普通のメガネのように顔に装着するだけで、簡単に視線を計測できます。また、デスクトップ型の装置と違い、顔の向きを変えたり、歩いたり、運動したりしながらアイトラッキング計測ができます。このため、メガネ型アイトラッキング装置はマーケティングや消費行動分析によく使われます。例えば、スーパーマーケットで商品をどの棚に置くと最も注目されやすいか、などをメガネ型アイトラッキング装置で調べられます。その他にも、運転中の人の視線を調べる時や、スポーツ選手の視線を計測する時などに使われます。

メガネ型アイトラッキング装置によって、視線計測ができる

ワールド座標系と平面座標系

メガネ型アイトラッキング装置は非常に便利で、気付かないうちに視線計測ができるものですが、大きな問題が一つあります。メガネ型アイトラッキング装置には、メガネのブリッジ部分に外向きのカメラ(シーンカメラ)が付いており、視線がどこを向いているかはシーンカメラで撮影した画像上に表示されます。しかし、頭部を動かしてしまうと、このシーンカメラが一緒に動いてしまい、画像がぶれてしまいます。下の図で、人がディスプレイ画面のどこを見ているのかを調べるためには、シーンカメラで得られた視線の情報を、ディスプレイ画面(平面座標系)の情報に統合する必要が出てきます。この作業を、人がカメラのフレームを一つ一つ確認して行うのでは時間がかかってしまいます。そこで、画像処理やAIを使った自動処理が検討されています。

メガネ型アイトラッキング装置では、頭の動きとともにシーンカメラの向きが変わる(ワールド座標系)

ユーザーインターフェースの評価

ユーザビリティ評価では、ウェブサイトやアプリケーションGUIに対して、アイトラッキング調査を行うことがあります。ウェブページやスマートフォンアプリのUI設計を評価するために、被験者がどこを注視しているのかを分析し、製品デザインの最適化を目指します。下の図の左側は、テスト管理ツール「Quality Forward」へのリンクをユーザーが見るかどうかを調べたものです。「Quality Forward」のリンクに画像を配置したことで、ユーザーの視線を引き付けやすくなっていることが分かります。右側は、テスト技法ツール「GIHOZ」の開発中における調査で、ユーザーの視線がどのように移動するかを調べた時のものです。視線移動の様子を動画で見返しながら、どのような意図でその部分を見たかや操作を行ったかをユーザーにインタビューしました。開発チームが想定しない部分をユーザーが見ていることや操作に戸惑う部分が明らかになり、画面のパーツをどのように配置すると改善するのかを検討することで、ユーザー・エクスペリエンスの向上につながりました。

ユーザーインターフェースに対するアイトラッキング調査の例 画像リンクの例(左)、プルダウンメニューの例(右)

アイトラッキング技術の今後

アイトラッキング技術は、自動車を運転している時に熟練ドライバーがどのように視点を動かすかなどを調査したり、車内ディスプレイやナビゲーションの視認性や操作性を評価したりする際にも使われています。また、医療分野では臨床評価やリハビリテーションに加え、医療従事者に対するスキルの教育にも使われています。アイトラッキング技術は、人の行動を測定する手段として広く使われており、今後も幅広い分野での応用が期待されています。

参考文献

https://www.veriserve.co.jp/helloqualityworld/media/20240109008/

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