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人材、素材、地上局。SPACETIDE 2026のブースで聞いた、宇宙産業における品質

人材、素材、地上局。SPACETIDE 2026のブースで聞いた、宇宙産業における品質

2026年7月6日から9日まで、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムとVISION CENTER TOKYO TORANOMONで、宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2026」が開催されました。SPACETIDE 2026のテーマは「Unlocking Space for All Humanity/すべての人のために宇宙を拓く」。イベントレポートでお伝えした、各セッションのほか、会場では、AI、衛星データ、通信インフラ、民間宇宙ステーション、国際連携、人材育成など、宇宙産業に関わる各社のブースが並びました。

宇宙産業は間違いが許されないミッションクリティカル※1 領域であり、たった一つの不具合がロケットや衛星の運用、地上との通信における重大なトラブルにつながってしまうことがあります。このため、宇宙に関わる機器の不具合は国際プロジェクト、さらには安全保障や国際関係にも関わる可能性があります。宇宙産業における品質は、完成品を最後に確認するだけでなく、教育、素材、地上インフラ、運用、セキュリティ、サプライチェーン全体に関わっていると言えます。

※1 停止や誤作動が、ミッションの失敗、人命、安全保障、社会インフラに重大な影響を与える可能性がある性質のこと。

HQW!編集部では、宇宙人材の育成に取り組む立命館大学、特殊繊維を手がける長谷虎紡績、衛星と地上をつなぐKSAT - Kongsberg Satellite Servicesの3社のブースを取材しました。この取材を通して「宇宙ビジネスの最新動向」だけでなく、宇宙というミッションクリティカル領域で、品質をどのように考え、どのような仕組みで支えているのかを伺いました。

立命館大学:宇宙を目指す人材を、実践型プロジェクトで育てる

学校法人立命館 総合企画部 総合企画課 課長 岡本 伸也氏

立命館大学のブースでは、2028年に開設を構想している「宇宙地球フロンティア研究科」について話を聞きました。同研究科について、立命館大学の公式サイトでは「理学×工学×マネジメント」を横断し、宇宙研究を実地のプロジェクトとして推進する力を養う人材育成の拠点として設立されることが紹介されています。宇宙を専門領域として学ぶだけでなく、プロジェクトを動かし、社会に実装していく力を育てることが大きな特徴です。

Q1. 宇宙産業の中で、どのような役割を担っているのでしょうか。

立命館大学は、2028年に「宇宙地球フロンティア研究科」を立ち上げようと準備を進めています。この研究科の特徴は、修士課程で入学定員100人、博士後期課程で15〜20人という規模で、国内でも最大級の宇宙人材育成拠点を目指しています。

これまでは、工学部の中に航空宇宙の学科があったり、理学部の中に地球惑星科学の専攻があったりする形で、理学や工学のもとに宇宙が位置付けられてきました。私たちは「宇宙地球フロンティア研究科」という名前の通り、研究科の中に宇宙という言葉を入れ、宇宙や地球のフロンティア領域を研究していきます。

この領域には、さまざまな課題があります。それをプロジェクトとして解決していくことを重視しています。理学、工学、マネジメントなど、複数の知識を組み合わせながら一つの課題に向き合う必要があるため、プロジェクト単位で進めていくことにしました。

その中でも、リソースを始めとしたプロジェクトマネジメントは重要な役割を担います。どのようにプロジェクトの資金を確保するのか、どのように人をコーディネートするのか、どのようにマイルストーンを置いて目的を達成するのか。そうしたことを全体として調整していくマネジメント力が求められます。理学や工学の技術者、研究者と連携しながら、一つのプロジェクトを達成していく教育を行うことが特徴です。

宇宙地球フロンティア研究科には、宇宙関連各分野の著名な研究者がそろっている

――理学や工学の専門性だけでなく、プロジェクトを前に進める力も育てるということですね。

そうですね。もちろん、理学や工学の専門性を深めることも重要ですが、全体を統合しながら、技術を社会に生かしていく専門家も育てていきたいです。

学生の半分は留学生になることを想定しています。宇宙分野は、国と国との関係の中でプロジェクトが進んでいくことが多い分野です。英語でコミュニケーションする機会も多く、そのような環境で学べる点も特徴の一つです。

 

Q2. 間違いが許されない宇宙分野で、品質をどのように捉えていますか。

品質を確保するために必要なのは、ワンストップの実験環境を整えていくことです。そこで、学内には宇宙環境を模擬した実験設備を整備していきます。

例えば、月面のレゴリス※2 につながるものを敷き詰めた環境を作り、温度変化や振動を与えたときに、機器がどのように動くのかを学内で実験できるようにしたいと考えています。

※2 月や惑星の表面を覆う砂や細かい岩石の層のこと。

また、実験したものを分析できる化学分析室のような設備も整備します。いきなり月面に飛ばすのではなく、地球上でさまざまな実証実験を行ったうえで、月面運用を目指してプロジェクトを進めていく。その順番や土台を作ることが重要です。教育でも、模擬した環境での試験を重視していきます。

――宇宙に持っていく前に、地上でどれだけ検証できるかが重要になるということですね。

はい。試験の内容は対象によって変わりますが、温度変化、振動、放射線、真空の中でどうなるかなど、多様な試験があります。

接着しているものが宇宙環境でどう蒸発するのかといった試験もあります。そうした試験を重ねながら、実際の現場でどれぐらい活動できるのかを検証します。

このアプローチは、大学が掲げる「宇宙研究を実地のプロジェクトとして推進する力」を育てる方針に沿っています。宇宙分野の品質は、完成したものを最後に確認するだけではなく、地上で環境を模擬し、試験し、プロジェクトに載せるまでのプロセス全体に関わるものだといえます。

 

お話を伺った方:
学校法人立命館 総合企画部 総合企画課 課長 岡本 伸也氏

関連リンク:
立命館大学 宇宙地球フロンティア研究科

長谷虎紡績:宇宙品質は、素材の段階から始まっている

耐炎繊維「カイノール」を炭化させたカイノールカーボン

長谷虎紡績は、岐阜県羽島市に本社を置く紡績メーカーで、紡績事業として天然繊維や化学繊維に加えて、耐熱性や難燃性などを持つ特殊素材の紡績にも取り組まれています。その一つが、はやぶさ・はやぶさ2のカプセルの耐熱材や、国産ロケットの固体燃料ブースター※3 などに採用されている耐炎繊維「カイノール※4」を炭化させたカイノールカーボン※5 です。

今回ブースで話を聞いたのは、その基となる耐炎繊維「カイノール」を、ロケットの耐熱材として使える糸や生地の形に加工する技術についてです。長谷虎紡績は、カイノールを糸にし、製品化して商材として納められる日本唯一の企業として、その加工技術を支えています。

※3 ロケットの打ち上げ時に大きな推進力を補助する装置。固体燃料を燃焼させて推進力を得る。
※4 フェノール樹脂を原料とする耐炎繊維。アメリカで開発された素材で、耐熱性・難燃性・耐薬品性などに優れている。
※5 カイノールを炭化させた素材。高温環境に耐える材料として、宇宙用途などに使われる。

Q1. 宇宙産業の中で、御社はどのような役割を担っているのでしょうか。

カイノールは、もともとアメリカの宇宙産業で開発されたフェノール系の繊維です。日本でも複数の企業が、この素材を糸にすることに取り組んだと聞いていますが、安定して加工するのは非常に難しい素材です。

当社では30〜40年前からこの素材の加工に取り組み、日本国内で製糸、製品化して、商材として納めています。日本のロケットの主要部分の耐熱材として使われており、H-IIロケットの初号機から採用されてきた素材です。

当社は加工メーカーとして、ロケットに使われる素材(糸や生地)に加工する役割を担っています。

――耐炎繊維「カイノール」はどのような素材なのでしょうか。

「カイノール」は、耐熱性や耐薬品性に優れています。一方で、繊維の状態では非常にもろく、滑りやすいという特徴があります。衣類などに使用される一般的な繊維のように力をかけて引っ張りながら糸にしようとすると、切れてしまったり、太さなどにムラが出たりしてしまいます。

そこで当社では、新しい機械と古い機械を組み合わせながら、繊維の状態を見極め、力のかけ方や撚(よ)り方を細かく調整することで加工してきました。糸にし、生地にすることで、ロケットの耐熱材として加工しやすい状態になります。

ロケットは、打ち上げ時の燃焼部周りや大気圏を通過する際などで、非常に高温の環境にさらされます。部位によって求められる条件は異なりますが、数千度規模の熱に耐えられる性能が求められます。そのため、何枚も積層※6 して使うなど、過酷な環境に耐えられる形で用いられています。

※6 材料を何枚も重ね合わせること。耐熱性や強度を高める目的で用いられる。

耐炎繊維「カイノール」

Q2. 間違いが許されない宇宙分野で、品質をどのように考えていますか。

この素材を扱う上では、安定して糸にできるかが重要になります。カイノールは、繊維の状態ではもろく、折れやすい素材です。普通のポリエステルの糸と比べても、強さは3割から4割ほどしかありません。そのため、先ほどもお話しした通り、糸にする工程で太さなどにムラが出たり、切れやすくなったりするのです。

繊維を糸にするには、ねじる、つまり撚る工程が必要です。ただ、機械で強く撚ろうとすると切れてしまいます。ゆっくり撚ることで、ようやく糸として成立します。撚れていない状態では、引っ張ったときにちぎれやすくなります。

――素材そのものの性能だけでなく、加工を安定させることが品質に直結するということですね。

はい。加えて、技術を継承していくことも課題です。人材確保は難しいですし、繊維業界は分業が多い業界です。糸を作る会社、撚る会社、織る会社、染める会社など、工程ごとに分かれています。後継者不足で廃業される会社もあります。

そうした工程のどこかが止まってしまうと、必要なものを作り続けることができません。そこで当社では、これまで外注していた工程の一部を内製化しました。需要が増えた時に、当社で工程が止まらないようにするためです。内製化によって、生産能力も高めています。

高い安全性や機能が求められる宇宙分野に関わる素材だからこそ、安定して作り続けられることが大切です。技術を継承し、必要な時に供給できる体制を整えることは、品質を担保するためにも大切なことだと考えています。

 

お話を伺った方:
長谷虎紡績株式会社 総務部門 総務部 部長代理 安田誠一氏

関連リンク:
長谷虎紡績株式会社
長谷虎紡績株式会社 紡績事業

KSAT:衛星を“使えるサービス”にする地上インフラ

Kongsberg Satellite Services Marketing&PR Lead Miri Casey氏(写真向かって左)

KSAT - Kongsberg Satellite Services(以下、KSAT)は、ノルウェーに本社を置く企業で、衛星と地上をつなぐ地上局※7 サービスや、地球観測データを活用したサービスを提供しています。KSATのGlobal Ground Station Networkは、世界各地に広がる300以上のアンテナと28の拠点で構成され、衛星運用に必要な通信を支えています。

今回ブースで話を聞いたのは、衛星を開発・運用する企業に向けた通信サービスと地球観測データ※8 を、安全かつ安定して届ける仕組みについてです。衛星は宇宙を飛んでいるだけでは、社会で使えるサービスにはなりません。地上との通信、データの受け渡し、セキュリティ、24時間の運用体制があって初めて、衛星から得られる情報を社会で活用できます。KSATは、その一連の流れを地上から支え、衛星を「利用できるサービス」にするためのインフラを担っています。

※7 衛星と地球上で通信するための設備。衛星からデータを受け取り、衛星へ指令を送る役割を担う。
※8 人工衛星から地球の陸地、海、森林、都市などを観測して得られるデータ。災害把握、環境監視、資源管理などに使われる。

Q1. 宇宙産業の中で、どのような役割を担っているのでしょうか。

KSATは、世界各地に展開する地上局ネットワークを通じて、衛星や打ち上げ機と地上をつなぐ通信サービスを提供する企業です。具体的には、衛星が宇宙で取得したデータを地上で受け取ったり、地上から衛星へ指令を送ったりするための通信を支えています。

衛星が撮影した画像データを宇宙から地上へ送るには、地上側で受け取る設備が必要となるのですが、KSATは各地に地上局を配置することで、衛星がどの軌道を通っていても通信機会を確保しやすくしています。

――衛星と地上をつなぐ通信インフラを提供しているということですね。

そうです。衛星は軌道を回っているため、近くに山があったり高いビルが建っていたりすると、場所によっては電波の伝搬特性的にデータ受信できない角度や緯度があります。そのため、世界中に地上局を持つことで、ほぼ24時間365日に近いカバレッジ※9 での通信サービスを実現します。

お客様は、どの地上局でデータを取っているかを気にしません。必要なのは、データが取れていることです。だからこそ、このような大がかりなインフラと運用体制により、ユーザーニーズを満たせる仕組みを構築しているのです。

通信サービス以外ですと、地球観測データを用いたサービスもあります。例えば、海で船が転覆してオイルが流出した状況を観測したり、広範囲にわたる森林伐採の状況を把握したりといったことに用いられています。広い海域や陸域を衛星で観測できることは、航空機や船舶だけでは把握しにくい状況を捉える手段にもなります。

こういった衛星から得られるデータは、政府、NGOなど多くの公的機関や団体に提供しています。

※9 通信やサービスが届く範囲のこと。

白い球体状の設備は「レドーム」と呼ばれ、アンテナを風雪から守るためのカバー。KSATのブースではノルウェーをイメージしたシロクマのステッカーと共にレドームのカードを配布。

Q2. 間違いが許されない宇宙分野で、品質をどのように考えていますか。

私たちのサービス品質を支える上で大きいのは、自動化です。多くの工程を自動化し、システムを最適化しています。実際にはAWX※10 やTerraform※11 のようなツールを使って、ソフトウェアのデプロイ※12 やインフラを管理しています。

※10  ITシステムの設定や運用作業を自動化するためのツール。
※11 クラウドやサーバーなどのインフラ構成をコードで管理するためのツール。
※12 開発したソフトウェアや設定を、実際に使える環境へ展開(反映)すること。

――手動で対応するのではなく、自動化によって安定した運用につなげているということですね。

そうです。衛星から送られてくるデータは、お客様にとって重要な情報です。KSATのように衛星と地上をつなぐ通信サービスでは、データを確実に届けることに加えて、そのデータを安全に取り扱えるための仕組みが欠かせません。ハードウェア、ソフトウェア、サーバー、ログイン設定など通信サービスのインフラ全体でセキュリティ要件の基準を設けて、管理しています。

また、KSATはお客様のデータにも直接アクセスできない仕組みになっています。お客様が必要なデータを、お客様だけが能動的に取得できるように自動化しており、データ自体を暗号化しているため、万一ホワイトハッカーなど悪意のある第三者がアクセスできたとしても解読できません。

――衛星データを安全に扱うために、アクセス権限や暗号化の仕組みを整えているのですね。

そうです。さらに、KSATのサービスは世界中の地上局ネットワークを通じて提供されるため、通信先や提供先の管理も重要になります。衛星通信や地球観測データは、産業利用や環境監視に役立つ一方で、扱い方によっては安全保障にも関わる領域です。

そのため、国によっては輸出管理の関係で取引できない相手もあります。KSATでは、コンプライアンス※13 に沿って、どこに提供するか、どこには提供しないかといったガバナンスを行っています。世界規模でサービスを提供する上で、データ提供や運用の自動化に加え、サービス提供先の社内ルールや仕組みに沿った管理も行っています。

KSATでは、1日に5,500以上の衛星コンタクト※14 を扱っています。これだけ多くの通信コンタクトによる運用を安定して支えるため、アメリカのデンバーとノルウェーのトロムソーにミッションコントロールセンターを設置し、24時間体制で運用しています。世界規模の通信サービスでは、つながることだけでなく、つながり続けるための運用体制は品質を支える要素になります。

※13 法令や規則、社会的なルールを守ること。
※14 衛星と地上局が通信できる1回ごとの接続機会。

 

お話を伺った方:
Kongsberg Satellite Services Marketing&PR Lead Miri Casey氏

関連リンク:
KSAT - The KSAT Global Ground Station Network

宇宙産業は、多様な専門性の集合体

三つのブースで伺った話を並べると、宇宙産業の裾野の広さが見えてきます。立命館大学は、理学・工学・マネジメントを横断し、宇宙研究を実地のプロジェクトとして進められる人材を育てようとしています。長谷虎紡績は、耐炎繊維「カイノール」をロケットの耐熱材として使える糸や生地へ加工し、特殊な技術を継続する体制を整えています。KSATは、世界各地の地上局ネットワークを通じて衛星と地上をつなぎ、データを安全かつ安定して届けるインフラを担っています。

それぞれ領域は異なりますが、共通していたのは、宇宙を社会で継続的に使えるものにしていくという視点です。大学教育では、地上で模擬環境を整え、実証・分析・試験を重ねること。素材加工分野では、扱いにくい繊維を安定して加工し、必要なときに供給できる体制を作ること。衛星通信の地上局では、通信やデータ提供を自動化し、セキュリティやコンプライアンスを含めて運用を支えること。それぞれの取り組みから、宇宙産業の信頼性がさまざまな領域の現場で総合的に支えられていることが分かりました。

宇宙産業における品質とは、単に「壊れないものを作る」ことだけではなさそうです。宇宙に持っていく前に検証すること、難しい素材加工を安定させること、技術を継承し供給体制を守ること、国や企業をまたぐプロジェクトで提供先や役割を明確にすること、そして安全に使い続けられる仕組みを整えること。今回の取材では、品質というテーマが、製品やサービスの完成後だけでなく、その前後にあるプロセスや仕組み全体に広がっていることを示唆していました。

SPACETIDE 2026のブースを周ることで見えてきたのは、宇宙産業が多様な専門性によって支えられている姿でした。宇宙を支える仕事は、ロケットを作る人や宇宙へ行く人だけが担っているのではなく、教育、素材、通信、データ、運用、品質保証といった、地上で培われてきたさまざまな知見で成り立っていることを、今回のブース取材から知ることができました。

 

※登壇者の所属・肩書は、SPACETIDE 2026開催時の公式掲載情報に基づいています。

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