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著者インタビュー(前編):「コストセンターではない」――事業を押し上げる適切な品質投資の考え方

山本久仁朗

ソフトウェアテスト・品質保証(QA)の分野において30年以上従事。PC、組込み機器、オンラインゲーム、フリマアプリ、HR Tech、マッチングサービスなど、多様な業界において、テストマネージャー、QAマネージャー、QA Lead として品質向上・生産性向上に携わり、プロダクトQA・プロセスQAの両面から、品質戦略、品質改善、テストプロセス改善、組織づくり、人材育成、QA基盤整備を推進。現在はマッチングサービスにてQAマネージャーとして品質戦略・組織構築・QA基盤整備等を推進している。

小林依光

ソフトウェア品質分野におけるテストマネージャー、QA マネージャーの業務に長きにわたって携わっており、QA の立上げから(再構築含む)、人材育成、品質管理プロセスの構築・改善、テストの自動化推進まで多岐にわたる実務を経験している。担当したプロダクトはデジタル家電、モバイルアプリ、オンラインゲーム、SaaS などが中心となっており、当たり前品質以外にも魅力的品質、利用時品質など幅広く品質管理に関する業務に従事している。

マッチングアプリ「Omiai」のQA責任者である山本久仁朗氏と、スポットワーク仲介サービス「タイミー」でQuality Engineering Group GMを務める小林依光氏。大手電機メーカーからベンチャー・スタートアップ企業へとキャリアを重ねてきた2人が、これまで蓄積してきたQAの知見や失敗談を1冊にまとめたのが『Building Quality:ビジネス成長を加速する1人目QAからの品質戦略』(オーム社)です。

なぜ今、この本を世に送り出したのでしょうか。書籍の核となる独自フレームワーク「AQUA※1」の成り立ちから、経営層を動かす方法、そしてAI時代にQAエンジニアがどう生き残るべきかまで、著者2人に本音で語ってもらいました。

※1 プロダクトやサービスの成長段階ごとに品質の捉え方や投資のあり方を整理するためのフレームワーク

執筆のきっかけは「よくある相談」の蓄積

——まず、この本を書こうと思ったきっかけを教えてください。

山本:もう10年ほど前からなんですけど、いろいろな会社からQAに関する相談を受けることがかなりあって。CTO(最高技術責任者)やCPO(最高製品責任者)やエンジニアリングマネジャーの立場にある人たちが、僕らからすると「え、それって当たり前のことだけど」という内容を毎回相談してくるんですよ。であれば、その内容を本にしてきちんと広めた方が、より多くの人の役に立つのではと思ったことがきっかけです。

小林:2人とも大手の電機メーカーにいて、そこを辞めた後にベンチャー企業へ行きました。あちこちのベンチャーから「QAってどうやって立ち上げたらいいの?」とか、「立ち上げたはいいけど、なんかうまくいってないんだ」などと頻繁に聞かれるんです。SaaSサービスや生成AIが登場して、より簡単にプロダクトが作れるようになった今こそ、こういう悩みを持った会社がもっと増えるだろうなと感じました。そこで、2人の数十年に及ぶ知見を、失敗談も含めて本にまとめようかとなったのが、最初の話し合いでした。

——本書は経営層向けとエンジニア層向け、双方の章に分かれているのが特徴的です。しかも重なっているのは1章だけ。これは意図的な構成だったのでしょうか?

山本:結果的にそうなったんです。電気通信大学の講師だった西(康晴)さんらと一緒に作っていた「QMファンネル※2」というフレームワークがあって、もともとは組織のレイヤーごとの事例紹介を書籍の骨子にしていました。そうした理由から、全てのレイヤーの内容が含まれる形になっていて、読み進める部分が人によって変わる構成になりました。

※2 電気通信大学の西康晴氏らが提唱した、組織や事業の成長段階に応じて品質活動のあり方を整理するためのフレームワーク

ビジネスの成長段階に合わせて品質投資を変えるフレームワーク「AQUA」

——本書の核となっているフレームワーク「AQUA」は、どのように生まれたのですか?

山本:実はこれ、御社(ベリサーブ)の本社がまだ西新宿にあった頃の「語る夕べ」という勉強会の中で、皆でディスカッションして生まれたんです。その時は20人ほど集まって、いろいろな会社の事例を話す中で、西さんが「じゃあ、今の話からするとこういうフェーズがあるよね」と4つに分けました。マーケットが盛り上がっていくところから最終的にクローズしていくところまで、プロダクトのライフサイクルに応じた品質の捉え方があるのではないか、というのがとっかかりでした。

——AQUAならではの特徴は何だと思いますか?

小林:プロダクトやシステムを作った時点では、売れるかどうか分からない状態じゃないですか。そこをきちんと考えるフレームワークがAQUAです。過剰品質にしたり、バグをガンガンとつぶしたりしても、ユーザーが使わなくては一切ビジネスになりません。だからビジネスのフェーズを見て、品質投資をしていこうという考え方に僕はすごく賛同しています。

山本:僕が面白いと思ったのは、プロダクトが終わることを想定している点です。走りだしは品質よりもPoC(Proof of Concept:概念実証)を回して、顧客の価値は何なのかを探しにいく。プロダクト全体を通して品質のとらえ方が変わっていくのは、なかなか他にはない視点だと考えています。

——AQUA自体は、経営層向け、エンジニア層向けと、ターゲットを特に区別していないという理解で正しいですか?

小林:その通りです。品質管理を担う組織の考え方や成長度合いを表したものなので、どこかの職種に属するといったことではありません。

——本書を読んでいて、AQUAを実際に現場で回した時の「あれこれ」があまり読み取れないと感じたのですが。

小林:それは合っていると思います。実際に形にした時にどう振る舞うかは、経験上、職場によって異なります。プロダクトのフェーズも違えば、品質管理の責任を誰が担っているかという組織のあり方も違います。実は、本に答えを書こうかなという気にもなったのですが、それを書いてしまうと、皆さんそれにならってしまう危惧があり、あえてアンチパターンに振りました。

山本:もう1点あります。AQUAが作られた当初は、プロダクトのスタートからエンドに対して当てはめていたんですけど、2人で話す中で、「AQUAをリリースまでに何度か回すよね」と気付いて。スプリントの中でも使えるだろうし、部分的に適用することを考えたら、大きなプロダクトの終わりまで当て込んじゃうと、逆に皆がそのフレームに引っ張られてしまうのではないかと思いました。先ほど小林さんがおっしゃったように、答えを提示してしまうと柔軟性を欠くのではと感じて、あえてこのようにしました。

——そもそもAQUAを回し始めたとき、経営層がターゲットに入っていたのか、それとも現場目線でよくしていくことが目的だったのか、どちらでしょうか?

山本:ステークホルダーがどのレイヤーになるかによって変わります。基本的に昔ながらの品質管理や品質保証は、不具合をゼロにする、欠品をゼロにするという思考があり、プロダクトの目的や状況によっては合わないと思います。僕たちは、どちらかというと事業を回すためにはAQUAを適用した方がいいという考えだから、経営層だろうが現場だろうがということは、あまり関係ないんです。

小林:そうですね。 ただ、例えば、創業間もないベンチャー企業の経営者とお話しすると、テストで品質を高めたいという声が一定の率で上がってきます。間違っていないと思うのですが、テストだけだと品質は向上しません。そうではないということを伝えるためにAQUAが有効だと感じています。まだPoCの段階なのに、バグ出しをバンバンやっても仕方ないし、サービスが軌道に乗って安定しているのに、さらに投資するのもどうかなと思っているわけですから。

品質保証はコストセンターではない

——そうした中で、経営層のコミットメントがQAにとって大切だと思うようになったきっかけはあったのでしょうか?

小林:QAは結局、テスティングがメインになりがちです。テスティングとは保険的なサービスだと思っていて、お金をかけて検査したところ、不具合は見つからなかった。でも安心が買えた、みたいな話です。そうなると事業のフェーズによっては「それって無駄なコストじゃない?」と経営層からカットされてしまう。このことにずっと違和感を抱いていました。適切な投資で品質を確保することがビジネスを押し上げるのだと表現したかった。だから本書の中でも「コストカット」や「コストセンター」といった言葉はあえて入れていません。ネガティブな印象を持たれてはいけないからです。

山本:僕も同感です。品質保証とは、いかに予防コストと失敗コストの最適値を求めるか、リスクベースで“コスパ”や“タイパ”を求めていくかというもので、事業をドライブする潤滑剤だと考えています。数年後の世界を見据え、いずれは開発側のもっと上流で品質を意識してもらうような合意形成を経営層と行うようにしています。

小林:大手電機メーカーにいた頃は、ハードウェアもソフトウェアも関係なく、とにかくコストカットが叫ばれていました。当時は円高だったためオフショア化が進み、毎年コストを数パーセント下げることを前提に仕事をしていました。その後、ソーシャルゲーム業界で働くと、景気が良い時は「カネで時間を買う」といった発想でどんどん投資してもらえる一方で、景気が悪くなった瞬間に予算8割カットなんて当たり前に実行されるんです。

ビジネスの波としては理解できるものの、そうではない考え方もあるということを伝えたかった。品質に対して、最初から余剰な投資をせずに適切な水準にもっていけば、いざという時にも「これは必要コストだ」と認識してもらえるはずですから。

そのためには数字で語ることが必要です。何千時間、何千項目のテストをして、バグ発見率や収束率などの客観的データを示すことで、経営層がジャッジできるようにしておくのです。また、コストを削った時にどれほどの問題が表出するのかも継続的に計測しておくと、説得力を持って訴えられる材料になります。

——かたや、山本さんのように「一人目QA」としてスタートアップ企業に入ると、そもそも数字なんてまだない状態ですよね。

山本:そうですね。とはいえ、サービス障害や問い合わせの件数が対外的に爆発してからオファーを受けることが多いわけです。だから、まずは目の前にある課題を解消しましょうといった話をしつつ、サービスリリース前のシステムテストや受け入れテストの数字を計測します。目の前の課題が落ち着いたら、今度はもう一歩手前の工程に関する品質を可視化していく。後工程にいくほどコストが倍々に増えるので、いかに上流で対処するべきかを関係者にインプットし、下流工程の数字は徐々に整えていくやり方をしています。

 

(後編に続く)

山本久仁朗

ソフトウェアテスト・品質保証(QA)の分野において30年以上従事。PC、組込み機器、オンラインゲーム、フリマアプリ、HR Tech、マッチングサービスなど、多様な業界において、テストマネージャー、QAマネージャー、QA Lead として品質向上・生産性向上に携わり、プロダクトQA・プロセスQAの両面から、品質戦略、品質改善、テストプロセス改善、組織づくり、人材育成、QA基盤整備を推進。現在はマッチングサービスにてQAマネージャーとして品質戦略・組織構築・QA基盤整備等を推進している。

小林依光

ソフトウェア品質分野におけるテストマネージャー、QA マネージャーの業務に長きにわたって携わっており、QA の立上げから(再構築含む)、人材育成、品質管理プロセスの構築・改善、テストの自動化推進まで多岐にわたる実務を経験している。担当したプロダクトはデジタル家電、モバイルアプリ、オンラインゲーム、SaaS などが中心となっており、当たり前品質以外にも魅力的品質、利用時品質など幅広く品質管理に関する業務に従事している。

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